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第12話 瑞獣

 周りから気味悪がられていた烏兎うとには、友達と呼べるような人物はいなかった。とはいうものの、傍で見守ってくれる存在はいた。それが幼なじみののぞみ。けれど魄霊はくれいのことを話せば、いつもどこか上の空うわのそら


 もしかしたら、のぞみは五感で判断できる物事しか信じていなかったに違いない。このような理由もあり、烏兎うとは悩みを二人だけに相談していたのだろう。姉妹達へ寄り添う姿からは、そんな気を許した雰囲気が窺えた。


「それにしても、君達が魄霊はくれいのような存在だったなんてね。いまでも信じられないよ」


「ごん。烏兎うと、私は魄霊はくれいではなく珍獣ちんじゅう。魂の存在ではない」

「こん。違うわよ、黒狐こっこ。それを言うなら瑞獣ずいじゅうでしょ。私達は珍しい動物ではないのよ」


 物知りを装い得意げに語る黒狐こっこではあるも、珍獣ちんじゅうとは姿や生態が風変わりだということ。またしても、言葉の意味合いを履き違え、姉の白狐びゃっこに指摘される。


「あはは、珍獣ちんじゅう瑞獣ずいじゅう……たしかに似てるよね」


 黒狐こっこの言葉がよほど面白かったのだろう。静思せいしした素振りを見せる烏兎うとは、頬を緩めながら笑みを浮かべた。


「こん。烏兎うと、似てなんかないわ。私達は四大瑞獣ずいじゅうと同格の力を有する者なのよ」

「ごん。烏兎うと、やっぱり似てるのか?」


 白狐びゃっこは状況を分かり易く説明したはず。にもかかわらず、あまり内容を理解していない黒狐こっこ。何度も首をかしげては、不思議そうに烏兎うとを覗き込む。


「えっと、その話しは僕も詳しくないからね。あとでお姉さんに色々と聞いてみた方がいいよ。それよりも、白狐びゃっこが言っていた四大瑞獣ずいじゅうというのは、もしかして四霊しれいのこと?」


 先ほど似ていると伝えたのは、意味合いではなく言葉の響きかた。これを黒狐こっこへ説明するとなれば、思った以上に骨が折れるかも知れない。こう考えた烏兎うとは、妹の心情を姉へと向けながら話題をすり変えた。


 その問いかけた事柄こそ、瑞獣ずいじゅうを代表する四霊しれい応竜おうりゅう鳳凰ほうおう麒麟きりん霊亀れいきといった存在。つまり、これに匹敵するのが二人の姉妹という事になる。


「こん。烏兎うと、正解よ。四大瑞獣ずいじゅう四霊しれいは同じ意味合いだからね」

「ごん。烏兎うと、驚いただろう。私は偉いのだ、もっとあがめろ」


 たしかに、黒狐こっこもすごいのかも知れない。とはいえ、優れた知性も兼ね備えていたのは白狐びゃっこのほう。稀有けうな才能を秘めていたのは誰が見ても分かりきったこと。からといって、妹の喜ぶ姿を無下むげにもできず、烏兎うとは優し気な顔つきで声をかける。


「すごいじゃん黒狐こっこ、少しは見直したよ。――という事は、二人の総称はやっぱり九尾の狐?」


「こん。烏兎うと、またしても正解。そう、私達は瑞獣ずいじゅうの一つである九尾の狐よ」

「ごん。お前は何でも知っててすごいな。もしかして心が読めるのか? もしくは瑞獣ずいじゅう以上の存在か?」


 先程まで人の顔を覗き込み、嬉しそうにはしゃいでいた黒狐こっこ烏兎うと博識はくしき高い人物だと思ったのだろう。妹は一歩引いて佇むと、驚きの表情で声を発した。


「いや、僕には心を読むなんてことは出来ない。それにね、君達のように高貴な瑞獣ずいじゅうでもない。どこにでもいる普通の人間と変わらないよ。だから、空も飛べないし魔法だって使えない。唯一扱えるのは、神気しんきといった不思議な力だけ……」


 黒狐こっこは尊敬の眼差しで見つめるも、烏兎うとは寂しげな面持ちでゆっくりと話す。それもそのはず、神気しんきは見えざるものが感知できる能力。これにより、幼き頃は嘘つき野郎とののしられイジメの対象になっていた。そんな過去もあり、力については余りいい思い出がない。 


「こん。烏兎うと、哀しまないで。神気しんきは魔法よりも素敵な力。全てが扱えるのは素晴らしいこと」

「ごん。烏兎うと、そうだぞ。浄化は誰も出来ない、だから喜んで誇るといい」


「そうだね。君達に励まされると、なんだか元気が湧いてくるよ。本当にいつもありがとう」


「こん。烏兎うと、お礼なんて要らないわ。色々と聞いて貰って、勇気づけられているのは私のほうよ」

「ごん。烏兎うと、嬉しいのか? なら褒めたたえろ。そうすれば、もっと元気づけてやるぞ」


 瑞獣ずいじゅうと人間。本来ならば、お互いの意思を理解することはないだろう。それが心を通い合わせているのだから、信頼という深い絆で結ばれているに違いない。


 姉の白狐びゃっこから発せられた言葉には、少なからず烏兎うとを慕う想いが窺えた…………。

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