第9話 道開きの神様
様々な思いを巡らせ、ようやく駐輪場へたどり着く烏兎。おもむろにハンドルへ手を掛けるも、その表情はどことなく晴れない様子。すぐには出発しようとせず、暫く空を眺めながら物思いに呟く。
「明日の日直って、どうしたらいんだろう……。望ちゃん話し掛けるなって言ってたけど、僕とペアなんだよね。まあ、ここで考えても仕方ないから、あの子達にでも相談してみようかな」
いつもの流れであるならば、望と一緒の当番は喜ばしいこと。しかしながら、今回ばかりは深刻な事態といえた。だからといって、過ぎたことを思い詰めても状況が一変する訳でもない。先ずは夕刻の修練に専念せねば、気の緩みが命取りになってしまう。
というのも、烏兎が日々行っていたのは、除霊と呼ばれた名ばかりの稽古。弥呼から指導を受けていたのは、霊鬼に変貌する前の浄化。つまり、実戦の手解きである。このような理由から、浮ついた気持ちでは危険が伴う。これにより足取りは重くあるも、気持ちを切り替えゆっくりと自転車を漕ぎだした……。
――こうして湖畔を走らせること数十分。
見えて来たのは、いつも立ち寄る白鬚神社。若いというのに、なんとも信仰心が深い感心な青年。毎日参詣に訪れるとは、神様もきっと嬉しいに違いない。ところが、目的の場所にたどり着くも、烏兎は拝殿に近づかず辺りを見回す。
「あれ? あの子達は何処にいるんだろう。この時間は大抵いるんだけどな……」
このような素振りから窺えたのは、どうやら別の理由があるのかも知れない。いずれにしても、学校帰りに立ち寄るような場所ではない。ましてや連日ともなれば尚更のこと。傍から見れば不審者と勘違いしそうな状況であった。
にもかかわらず、烏兎は落ち着いた面持ちで気にも留めていない様子。それどころか、律儀にも手水舎で手を清め口をゆすいでいた。そんなよく分からない行動を取りつつも、境内の中を散歩がてらに眺めて歩く。
すると――、突然にも何かを思い出す。
「――そうだ! 今日は色々とあったからね、偶にはお参りでもしておこうかな」
丁度、拝殿前にいたせいもあるのだろう。不運続きの出来事を肌に感じていた烏兎は、今日の災難を取り除くため礼拝を試みる。
「たしか……? ここの御利益は、道開きの神様だったよね。それともう一つ、縁結びでもあったはず」
烏兎のいう白鬚神社とは、日本各地に数百も分霊社が建つ歴史ある総本社。近江地方では有名であり、パワースポットとしても知られていた。その御利益というのは素晴らしく、幾つもの開運の恩恵を授かることが出来たという…………。