「ジリリリリリリ――――‼」
突然にも鳴り響く目覚まし時計。音は反響を巻き起こし、部屋中に大きな振動を立てる。
「――はっ⁉ いま何時だ‼」
ベッドから慌てて起き上がる青年。鳴り止まない時計を手に取り、時針と分針を凝視する。
「はぁ……ぁ、良かった。寝坊したかと思ったよ」
溜息一つ漏らすも、顔つきから窺えたのは失望や落胆ではなく、安堵した様子。どうにか予定の時刻には目覚めることが出来たようだ。
「それよりもさ、今日の夢はなに? 鮮明に覚えてるんだけど、あれって獣の人間? もしくは幽霊とか? っていうか、あの話によく似てたんだけど」
ゆっくりと立ち上がり鏡の前に立つ青年。髪を整えながら目の前に映る我が身へ自問自答を始めた。
「もしかして…………? ――じゃなく、絶対にそうだよ! 子供の頃に聞かされた婆ちゃんの昔話。けど……なんで今頃になって、あんな夢を見たんだろう?」
奇妙な夢の原因は、祖母から聞かされた昔話。十年ぶりに見た夢の内容に、青年は困惑した面持ちで佇んだ。
「――って!? そんなことより、ゆっくりしてる場合じゃなかったよ。早く学校に行って準備をしないと」
なにか急ぎの用事を思い出したのだろう。青年は豪快に制服を手にとると、着替えを行いながら食卓へ向かう。
✿.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.✿【場面転換】✿.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.✿
「婆ちゃん、おはよう」
「おはよう、
「ちょっとね。色々と準備があるから、早く登校しなきゃいけないの」
「準備?」
「そう。それよりも、今日って何の日か覚えてくれてる?」
「当り前じゃないのよ。
「まあ、そこまで大袈裟にするような事でもないんだけどね」
「あら? そんな事ないわ。十六歳っていったら、
「
「いっ、いや何でもないわ。ところで、さっきまで何を話していたのでしょうね」
この言葉に違和感を覚える
「えっ、もう忘れちゃたの。いくら何でも物忘れするの早くない?」
祖母の態度は、どことなく様子がおかしい。とはいえ、それはいつものこと。今日に限った事ではなかった。そのため、
「――あっ、思い出したわ。たしか、誕生日のことだったわよね」
「もうー、話してる最中に忘れないでよね。それと、もしかしたら家に友達が遊びに来るかも知れないから」
「遊びに? それって、学校のお友達なの」
「そうだよ、友達以上に仲がいい子。いまはまだ……未満だけどね。――とにかく、そういう事だから」
「……未満? って、意味がよく分からないけど。誕生日の晩御飯は、その友達も
「――特大!? そんなの女の子が食べれるわけないじゃん」
「女の子?」
「あっ、いや……残ると
「ふふっ、なるほどね。いつまでも子供だと思っていたけれど、もうそんな年頃なのね」
「なっ、何がおかしいんだよ婆ちゃん」
「いいえ、何もおかしくはないわよ。お婆ちゃんはね、
苦労や悲しみの連続であった人生。けれども、傍には愛する孫がいた。諦めずに前を向いてこれたのは、守りたい人がいたからだと祖母は心の想いを
「婆…………ちゃん」
祖母から胸の内を聞かされた
「感傷に浸ってるようだけど、ゆっくりしてて大丈夫なの?」
「――やば! もうこんな時間なの? 早く行かなきゃ、準備が出来なくなちゃう」
「じゃあ、朝食はどうする?」
「えっと……とりあえず急ぐから今日はパンでいいや」
「だったら少し待っててね、すぐに用意するから」
このように何気なく迎える朝の光景。変わらない日常ではあるも、
やがて焼きたてのパンが出来上がると、口に咥えぼんやりとした表情で玄関の扉を開ける。すると――、柔らかな陽射しと共に、爽やかな風が部屋の中へ舞い込んできた。
それは少しばかり冷たくもあるが、心地よく伝わる感じが何とも清々しい。そんな穏やかな花風は、
こうして