私の身に危機が迫ったのは、1月16日の夜でした。
寝ていたら夜中に吐き気を覚えて、トイレに駆け込むと、咳き込んだと同時に血痰が出たのです。
すぐにCTがある呼吸器内科のクリニックを探して診察をすると、胸腺に腫瘍が見つかりました。
胸腺に腫瘍ができるのは非常に希で、人口10万人あたり0.44~0.68人なんて確率ですから、滅多に罹患することのない腫瘍です。
私は母が過去に胸腺腫になって、それが元で慢性的な赤芽球癆になったので、私にとって、胸腺腫は馴染みがありすぎました。
赤芽球癆も難病指定の病気でして、非常に希な疾患で、更に胸腺腫になると、赤芽球癆などの厄介な病気を併発するリスクが高まるのです。
赤芽球癆は免疫細胞の暴走によって、赤血球が作られる細胞を免疫が誤って攻撃することによって、正常な血液が作られなくなる為に、慢性的な貧血が起こります。
根本的な治療はなく、免疫の暴走を止めるために、免疫抑制剤を使わなくてはいけません。
免疫抑制剤が使えない場合、輸血が必要になるほど深刻に。
母が敗血症性ショックになったのは、赤芽球癆によって免疫抑制剤や、赤芽球癆に伴う膠原病によってステロイドも服用していたので、抵抗力が非常に落ちていたことが根本的な原因です。
私は先生の説明を冷静に聞きつつ、CT画像を見て、胸腺に腫瘍があるのが分かった時点で、結論を私に分かりやすく説明しようとしている先生に、私から問いかけることにしました。
先生が『縦隔を見るとCTの画像に白い…』と、言った時点で、私が先生に問いかけます。
「先生、胸腺腫でしょうか?」
突然の私の質問に、先生がとても驚いたのをハッキリと覚えています。
「よっ、よんたださん、なぜ、それを知っているのです?。過去に胸腺腫になりましたか?」
「いや、母が胸腺腫になって手術を受けましたが、赤芽球癆になりまして…」
先生は再び驚きました。
親子で胸腺に腫瘍ができるなど、希すぎて事例としては皆無に等しいと思います。
私は『そんな疾患で希な症状になるなら、その確率で宝くじが大当たりしてくれ』と、本当に思ったぐらいです。
そこから、運が良いのか悪いのか、先生は県内の呼吸器の学会で顔の通った人だったようで、母が入院している病院の呼吸器系の医師を、よく知っていました。
3年前までは、父が末期の肺癌で、しょっちゅう入退院を繰り返した挙げ句、当該病院の呼吸器内科の先生にズッと、お世話になりました。
母も胸腺腫の手術を、その病院でやりましたから、呼吸器外科の先生も良く知っています。
紹介状は、その先生によって、驚くほどスムーズな流れで、呼吸器外科のいちばん偉い先生に向けて出されました。
『なんか、運が悪いのか、はたまた…、運が良いのか…。』
この病気は、胸腺腫もさることながら、重症筋無力症と呼ばれる筋力が衰える病気だったり、母が罹患した赤芽球癆や、免疫が極端に落ちる併発する病気なども怖いので、すぐに手術になるでしょう。
ただ、私の胸腺にできた腫瘍は、どこにも転移が見つからずに、早期発見の部類でしょうから、これは最悪の事態になる前に、血痰によって胸腺に腫瘍ができていると、教えてくれたと思えば、もの凄く前向きになれました。
腫瘍が癌化していても、予後はとても良い筈です。
私は、さほど悲観せずに、母が入院している病院に向かって、その面会がてら、紹介状を持って診察の予約を取りに行くと、すぐに予約が入りました。
私が胸腺の腫瘍に関しての診察や検査が続いている間、会社は弟に任せっぱなしです。
仕事が空き気味だとは言え、特に弟には、相当な仕事の負担を強いているのは間違いないから、心の中では申し訳ない気持ちでいっぱいです。
そして、月末頃に私の手術の成功や、今までの厄を落とす意味でも、妻が行きたいと最初に言っていた神社にて、災難除けの祈祷をしたのです…。
祈祷のお力は、その日の夜に如実に出てきました。
その夜の夢は不思議でした。
母が入院している病院に忘れ物を取りに行くと、母が入院している病棟の廊下にいて、 顔も知らぬ看護師が出てきて、私たち家族を呪ったと言います。
私が看護師に向かって「なぜ、呪ったのか?」と、問いかけると「それは答えられない」と。
これは、夢の中で、この場面に関しては、咄嗟に『真実が、この呪いでカモフラージュがされている』と、私は察しました。
この夢の情景は、私に向けた呪いを掛けた輩の詳しい情景や背景を遮断するために、いちばん私の中でインパクトが強い病院と看護師を使って、カモフラージュをした気がしていたのです。
呪詛は、呪った相手の正体が分かった時点で、効力が薄くなると聞いていますから、私に正体を悟られないように、真実を覆い隠したかったのでしょう。
私は夢の中で廊下にいた母をベッドに乗せて病室に戻すと、エレベーターに乗って下の階に向かうボタンを押して目を覚ましました。
あまりにも衝撃的な夢だったので、目を覚ましざるを得なかったのです。
目を覚まして、天井を見ると、墨文字にて、古文の草書のような感じで、呪詛的な気配がする文字が次から次へと、スクロール的に流れるのが暫く見えました。
『これはまずい!!。黒い影の本体はこれか!!!』
恐らく、私たちを呪っている輩のことを考えると、病院関係者の線は薄いでしょう。
それは、いま生きている輩とは限らないと思うのですが、私にそこまでの力がないので、根本的なところは分からず仕舞いです。
『これは、うちの家系に相当にロクでもないヤツが憑いているかも知れぬ。どちらかというと、うちの父方の家系にあった何かの怨念が、順番で回ってきたかも知れない。』
死んだ父と不仲だった叔父が不慮の事故で亡くなった時点で、何か察するところがあるし、従兄が亡くなった事も、そこに拍車をかけています。
まして、私まで胸腺に腫瘍ができて狙われたと考えると、間違いなく、父の家系だと思うのです。
父と結婚して死別した母までもが狙われたのも納得です。
要するに、神社のご祈祷をしたことで、神様が不運の根本となっている、スピリチュアル的な本性を暴いてくれたと私は考えました。
神様が私たち家族に向けられた呪いを払うことは無理でも、根本的な原因を私に教えたから、防衛手段を考えなさいと訴えたのだと思います。
さらに、祈祷をして頂いた神社の歴史を調べてみると、母の祖先が南北朝時代の武将なので、その地の縁があることが分かりました。
母の祖先は誰もが知る、南朝方の有名な武将でして、その血族が、この神社の地に訪れていました。
『母方の祖先が、私たちの危機を憂いて教えてくれたのか…。』
私はその呪詛に関して、内心は怯えつつも、教えてくれた神様や母方の祖先、亡くなった祖父母に感謝が込み上げてきました。
その後、私たちは、この呪いを解く手段を夫婦で模索する事になります。