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なろう PV10,000記念 ~陽葵のネックレス~

 -これは『現代』から10年以上後のこと…。


 俺の会社は、やっと会社の借金返済の目処がついていた。

 少しばかり自由自適に仕事ができるようになって、老体を鞭打ちながら仕事をしているが、休日は休めるようになっていた。


 今日は休日。

 恭治は大学を卒業後、大手メーカーに就職して都内に1人暮らしをしているからいない。


 娘の葵は高校生1年生で、友達同士で何処かに遊びに行くらしく洗面台で髪型を整えていた。

 それが終わると、陽葵を見て少し首をかしげた。


「お母さん、そのブルートパーズのネックレス好きよね。他に似合いそうなネックレスがあると思うから私が買ってこようか?」


 葵が妻の陽葵にそう言うと、陽葵はニッコリと笑って頭をポンと軽くなでた。


「ふふっ、これはね、お父さんとお母さんが学生時代に初めて付き合った時に、お父さんからサプライズで貰った誕生日プレゼントなのよ。絶対に捨てられないわ…」


 陽葵の言葉を聞いて葵は少し笑顔になった。


「お母さん、それなら早く言ってよ。友達なんか、ウチのお父さんとお母さんはズッと仲が良すぎるって羨ましがってるのよ。ただね、わたしなんか、恥ずかしいぐらい夫婦仲が良いから照れるのよね…」


 俺は紅茶を飲みながらその話をダイニングで聞いていたが、母娘の話を黙って聞いているだけに留めた。

 女同士の話は少しだけ難しいし、陽葵があのネックレスをズッと気に入ってくれているのは俺としても嬉しかったのだ。


「お父さん、たまにサプライズで、わたしとかお母さんにプレゼントするけど、もう若いときから変わらなかったのね」


 娘の葵の問いに俺が答えることにした。


「葵さぁ、それはもちろんだよ。少し古いネックレスだけど、気に入って陽葵がズッとつけていることが嬉しいのだよ。お前も大切な彼氏ができたら、こういうのを大切にしてもらうと、あげたほうは嬉しいモンだよ…」


「お父さん、やっぱりお母さんに惚れただけあるわ。お兄ちゃんも言っていたけど、下手にモテると自分が本当に大切にしてくれそうな人を見失うから性格で見ろと言っていたからさ。わたしは、まだ好きな子なんていないけど、お母さんと同じなんだろうと思っているわ。」


 …やれやれ、葵も陽葵のように可愛げだし、中学校の頃からモテているのだが、肝心の葵は俺と同じように少しばかり鈍いところがあって、将来が心配になることもある。


 恭治は親の馴れ初めの話を聞いているうちに、女性と付き合うことに慎重になっていたが、学生時代にやっぱり可愛げな陽葵に似たようなタイプの女の子と付き合い初めて、都内で同棲するにあたって、恭治が正月休みに彼女を連れてきていた。


 すでに俺達も相手の両親とも挨拶を済ませている時点で、俺達と変わらないと思って苦笑いしていたのだが…。


「葵。恭治のように自然と性格の良い恋人が見つかるから、慌てなくていいのよ。わたしと同じで直感を信じるのよ。駄目だと思ったらバッサリと切って断りなさい。ルックスじゃなくて性格で選ぶのよ。そうすればお父さんみたいな、カッコいい人がやってくるわ♡」


 陽葵は子供の葵にさりげなくアドバイスを送ると、話をしながら支度を終えた葵が玄関から勢いよく出た。


「行ってきます~。夕方には戻るからね。」


 その声を聞くと陽葵がダイニングに座って紅茶を飲み始めた。


「やっと、一息ついたわ…。あなたも必死に働いて、あともう少しでゴールインだね…」


「そうだね、もう、同じ苦労を恭治に味合わせたくないから、借金が終わったら、すこし老後の資金を貯めて会社を畳んでゆっくりとするよ…」


「ふふっ、あなたは苦労して頑張ったから、それで良いのよ。」


 陽葵は紅茶を少しだけ飲むと、俺の目をジッと見た。


「あなたから、このネックレスを貰ったときは、涙が出てしまうほどホントに嬉しかったわ。怪我をしたあなたが、恥ずかしそうに私に渡したのを思い出すのよ。」


「陽葵さぁ、あの時は、俺も必死だったんだよ。その当時、入院していた看護師さんに、どんなプレゼントが良いか聞いたりして、ちょっとした冒険をしたような気分だった…。」


「それは分かるわ、少しだけ不器用なあなた…いや、わたしも不器用だけど、あなたが必死に選んでくれたのですもの、それは嬉しいわよ。」


 陽葵は嬉しそうに微笑むと、俺も微笑み返した。


「ずっと、大切にしてくれてありがとうね。」


 そこには、何時もと変わらない確かな夫婦愛があった…。

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