「助けて、李儒、お願い」、
「お願いします、李儒」、
「朕と幼い陛下を御助けてください」
最後はいつも彼女の両目から何故か血の涙が流れる。
それでも彼女は命乞いを止めることもなく自分が気が済むまで嘆願をしてくるから、僕は困って仕方がない。
だから今日は僕自身も勇気を振り絞り。
「僕に、そんな嘆願をしてもらっても困るから。貴女の首を絞める男に嘆願をしてみたらどうですか?」
僕は自身の瞼を閉じ、両耳を押さえながら首を振りつつ彼女に提案をしてあげてみるのだった。
「うぅ、うううっ、李儒……。だから貴方に、貴方に嘆願をしているではないですか……」
僕が中華の後宮衣装を着衣する麗しい彼女へと。僕ではなく自分の首を絞める黒い影の男に助けてくれと嘆願してみては? と提案を提示したのだが。彼女は相変わらず自分の喉を閉める男ではなく、僕に手を差し伸べ命乞いをしてくるのだ。
「助けてください」とね。
でも僕に命乞いをされても本当に何度も言うようだけれど困るから。
「僕は知らない! 知らない! 僕は貴女なんか知らない! 知らないよ! 僕のことを貴女は自分の首を絞める男と何故か勘違いをしているみたいだけれど。僕はその男とは別人だから。僕に命乞いをしないでよ! お願いだから!」
僕は自分の顔色を変えながら必死に首を振りつつ彼女……じゃない。
そう僕はあの麗しいお姉さんのことを何故か、自分の記憶の端で知っている。
そう彼女は【何太后】と言う名の第12代霊帝劉宏さまの寵愛を受けた別名【霊思皇后】と呼ばれた麗しい漢の女王陛下なのだが。
そんな高貴な身分の彼女のことを何故か知っている僕は、この悪夢の中で嘆願……。
それも最後には自分の両目からポロポロと涙を多量に流しつつ彼女へと嘆願をするのだった。
◇◇◇
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