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GLORIA
藤倉崇晃
恋愛スクールラブ
2024年10月29日
公開日
30,155文字
連載中
不定期連載…「また君に会うための春が来て」のスピンアウト作品です。
前田よしとの中学3年生時代をほのぼの日常で語る。
主人公の支倉ハイムは優等生。
同じ志望校の馴れ馴れしいよしとにちょっとだけ胸がチクりとなって~?
いままで男の子を好きになった事がなかった中学生3年生の女の子の話です。
これから受験勉強で忙しくなるのになぁ~…という葛藤を描きます。

第1話「前田君に話しかけられちゃう」

2020年9月下旬。秋の入り口のような季節の変わり目。


月の光。


電灯の灯り。


高々15回目の季節。


中学3年生とは高校受験に向け、学校の人間関係も新たになりやすい。


支倉ハイムは、東京都長空市にある長空第一中学に通う3年生だ。夏に部活動(女子バレー部)を引退した。気持ちを受験勉強に切り替えながら、自宅から自転車で通える距離の個別指導塾に通っていた。


志望校は進学校・長空北高校。


個別指導塾とは、生徒二人に講師一人というタイプだ。ハイムは、同じ志望校の北条セナという女子生徒と一緒に講座を受けている。


ある夜。

講座が終わって、多くの生徒が帰り足で騒がしい中、少し居残って補習を受けた二人。ガヤガヤする教室内で熱心に講師の話を聴いた。これからの季節が本番同然の勝負だと言う。学校の定期テストも、公開模試も全力で挑まなければならない。


やがて静寂に包まれた教室で漸く帰り足になった二人は、塾の講師達に挨拶をして、入り口を出た。


駐輪場にある自転車の鍵を、


ガシャン…!


と外すと、お互いに顔を見合わせた。

他の生徒達がすっかり出払って、静かな駐輪場で、思ったより大きな音が出て、夜の静けさの中に響き渡った。


暑さと寒さが入れ替わるこの季節の夜長。


月の光。


電灯の灯り。


二人は顔を見合わせて微笑む。夏が来る前は、そこまで親しくなかったハイムとセナ。二人の顔が良く見える駐輪場で、夏期講習から友達の二人は日に日に間柄が強固になる。学校では同じクラスの二人は、志望校を同じくして仲が良く、来週に迫った9月の公開模試も同じ会場で一緒に受験する。


ハイムがセナの顔をジッと見ていると、セナは、


「疲れましたな~!」


と言って笑った。セナのショートカットが揺れて、ニカッとした表情。


ハイムは、


「家に帰ったら少し復習しないと…はぁ~しんどいね…」


と言う。ハイムのツインテールが揺れて、憂鬱な表情。


「あぁ~…ご飯食べて寝たい!」


自転車に跨って颯爽と夜道を走る二人。


ハイムには人間関係の悩みがあった。学校のクラスの人間関係で秘かに悩みを抱えていた。それをいつかセナに聞いて欲しかった。


会話が転がり、ライトが揺れながら、ペダルを押す脚の力をそっと緩めたハイムは、

「塾の無い日も一緒に勉強しようよ」

と言った。


セナが、ハイムの方を振り返って、

「いいよ~!」

と笑った。


ハイムは先天的な髪色で銀髪だった。

ツインテールの似合う女の子だった。

優等生で容姿もそれなりに人気だった。


次の日の学校。

ハイムが悩んでいた人間関係とは同じクラスの男子の事だった。背が高く、勉強もスポーツも熱心に取り組んで、志望校は同じ長空北高校の前田よしと。


よしとは、

「支倉~!」

と馴れ馴れしく呼び捨てにするのだ。


春、4月も中頃から呼び捨てされていたのだが。近頃、ハイムは特に気になりだしたのだった。以前に増して馴れ馴れしくなったように思えて。よしとの肩越しに見える顔も段々大人になっていく。身長も伸びて。


ハイムは、

「前田君。受験勉強は順調かな…?」

と言う。


「もちろん!バッチリですよ!」


よしとは自信満々に言う。実際は不安に打ち震えているのだが、吹き飛ばすように自信満々な口調で言うのだ。その豪快なフルスイングがハイムも心地よかった。ハイムの方が成績が良い為だ。


ハイムは、ニッコリ笑って、


「よかったね!」


と言ってあげられるのだった。


セナはよしとと中学1年生から同じクラスで、お互いよく話した。


セナは、

「前田~!英単語覚えなくていいのか~!」

とからかう。


よしとは、英単語を覚えるのがマイブームだった。セナは「勉強していろ!」と言い、ハイムからよしとを追い払うように引き離す。そしてハイムとセナで仲良さそうに会話を続けるのだった。


よしとの、ノッシノッシとした足取りが教室の後ろの席に戻って行く。そして男子達の輪に混じっていく。その揺れる身体の背中をハイムはジッと眺めていた。


セナが、

「どうしたの?」

と聞くと、ハイムは、


「…なんでもないよ」


と首を横にフルフルと降った。ハイムのツインテールが揺れた。


ハイムは自分の右手を広げて、手の甲を上にしてみた。小さいかもしれないと思って、セナと比べてみた。


「どうした~?」


「セナの手の方が少し大きいね…」


「ああ!そうだね!」


ハイムは、ウフフフと笑うと、また勉強の話や、息抜きに見たYoutube動画の話をした。この日からハイムとセナは一緒に勉強をするようになったのだが、ハイムは人間関係の事、どこか自分に馴れ馴れしいよしとについて、悩みを言い出せずにいた。セナにとって、よしとは慣れ親しんだ存在だから、諸々の疑問が無くハイムの悩みに気が付かなかった。


ハイムがまたチラッとよしとの方を見ると、男子達と仲良さそうな横顔が見えた。よしとは男子バレー部でセッターという司令塔のポジションだった。高校でもバレーボールを続けると言う。


ハイムは「前田君が長空北高校に受かったら、高校も一緒なんだよなぁ」と思った。また馴れ馴れしく「支倉」と呼ばれる時間が続くのかなと思うと、ちょっとだけ胸がチクりとした。


男の子を好きになる事なんて無かったし、そういう感情とは無縁の思春期をまっとうするのだと思っていたけれど。前田君は私をどう思っているのだろう。


そんな悩みを抱えていた。



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