目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
幕間

 結婚式から月日は三年流れた。

 その日、僕は不思議な手紙が彼女宛に届いてるのを見つけた。

 差出人は、どうやら僕らしい。

 でも、僕には手紙を出した覚えがない。

 僕の膝の上には、僕たちの子どもである結菜ゆいなが「それ、なにー?」と手を伸ばしてきている。

 僕たちはあの後たくさん話し合い、不妊治療をすることを決断し、無事に子どもを授かることができた。

 「ダメー」と笑顔で結菜から手紙を遠ざけていたけど、内心「もしかしたら誰かのいたずらかもしれない」と、僕は少し怖かった。

 僕の臆病なところは、簡単には治らないようだ。

 でも、このままにしとくわけにもいかないので、手紙を開けてみることにした。


「五年後の花音ちゃんへ。

 そちらでは、僕たちは結婚していますね。

 なぜなら、僕が花音ちゃんのことを誰よりも好きだからです。

 この手紙が無事五年後に届くことを祈っています。


                         瑞貴より」


 手紙は、何と『五年前の僕』からだった。手紙を出した日付も五年前の今日だ。

 僕はハッとあることを思い出した。

 彼女が「瑞貴ちゃん、未来に手紙を送ることができるのだよ! 素敵だよね。私ももらってみたいなあ」とかなりはしゃぎながら言っていたことがあった。

 でも、僕の記憶では彼女がその話をしたのはたった一回だった気がする。

 それを五年前の僕が覚えていて、さらに行動に移したことに、自分のことなのに驚いた。

 五年前といえば付き合っていた頃で、僕は彼女のことを全然理解してなかった。

 だから、彼女には申し訳ないけど、この手紙は五年前の僕の気まぐれだろう。

 それでも、きっと僕なりに彼女のために何かしようと思ったのは、なんとなく文面から伝わってきた。

 でもきゅんだけじゃなく、いろいろなものが足りていない。

 僕は、今日話そうと思っている壮大な新婚旅行のお話が終わった後に、この手紙を彼女に見せて、この思いを共有しようと考えた。

 「パパ、まだ?」と結菜は諦めていないようだった。

 「これは、パパが大事な人に書いた特別な手紙だから、結菜には見せてあげられないのだよ。ごめんね」と申し訳なさそうに言った。

 結菜は言葉の意味はわらなくても何かを感じたようで、「私も私も」と大声を上げていた。

 「結菜にも、きっとあっと驚くような手紙をくれる素敵な人が将来現れるよ」と、僕は結菜の頭をなでた。

 そうしているうちに、彼女が料理を終え僕の方に来たので、「花音ちゃん、すっごいお話があるのだけど聞いてくれる?」と抱きしめたのだった。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?