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二十六章 「僕と君の結婚式①」

 今日は大事な『イベント事』である結婚式当日だ。

「緊張している?」

 今僕は結婚式場に向かう車の中で、彼女に話しかけている。

「楽しみな部分もあるけど、やっぱり緊張はしているよ」

「そうだよね。じゃあ少し気持ちが和らぐようなお話をするね」

 こんな風に彼女のことを自然と気にかけるようになったのも、僕の中で大きな変化だ。

「僕は、最近ずっとあることは一体なんだろうかと考えていたのだよ」

「あること? それはどんなこと??」

「それは『幸せ』だよ。『イベント事』の日、そして話し合いをしながら、ずっと考えていた。最初は花音ちゃんの思い描く幸せとは、もしかしたら僕の思う幸せと違うかなということから始まった。もし違うなら、花音ちゃんはどんなことを幸せだと感じるのか知りたいと思った。花音ちゃんの考えを知り、僕も改めて考えてみることにした。それがやっと何かわかった」

「幸せについてずっと真剣に考えてくれていたのだね。ありがとう。その答えはどんなの?」

 彼女は少し落ち着いたようで、いつもの調子に戻っていた。

「僕たち二人の幸せとは、どんな思いや言葉にも反応することじゃないかな」

「素敵な考え方ね」

 僕はそれについて説明を始めた。

「相手を思った時、それが報われなくてもいいと感じる時があるかもしれない。でも、報われないよりしっかり反応してもらえる方がお互いに笑顔になれると僕は思う。言葉も同じで、何かを発した時いつもそれに気づいてくれるとやはり寂しさを感じる度合いがだいぶ違うとわかった」

「私は、本当に幸せ者ね。こんなにも私のことを思ってくれる夫がいるのだから」

 彼女はホッとした顔をしていた。

 それは心から安心していると、今の僕にはわかった。

「まだまだ至らないところはあるだろうけど、花音ちゃんともっともっと幸せになりたいからね」

「うん、これからもよろしくね」

 そんな話をしているうちに、結婚式場に着いた。

 結婚式場に着くと、ウェディングプランナーさんと簡単に話し、すぐにお互いに衣装に着替えをすることとなった。

 僕の方が早く準備が終わったので、今日の流れを確認することにした。

 結婚式自体は、建物自体が教会だし、キリスト教式だ。

 『二人だけの結婚式』のスタイルは、シンプルな挙式だけの教会式や国内外のリゾート地で挙げるものなど、実は様々ある。

 スタイルとしては、僕たちは『ホワイトセレモニー』を選んだ。

 これは、従来の教会式のスタイルに縛られないスタイルで、夫婦になる誓いを交わすことに重点をおいている。

 そこに重点をおいていることも、僕たちに合っているなと思った。僕たちは、今日改めて『夫婦』として再スタートをきるのだから。

 今日の流れとしては、①結婚式場に入場。②誓いの言葉。③指輪の交換。④退場。となっている。

 彼女はドレスを二着着たいと言っていたので、誓いの言葉の後で、彼女だけお色直しにいくこととなっている。

 普通はそのタイミングでお色直しにいくことは少ない。でもホワイトセレモニーだからこそ、臨機応変にすることができる。

 普通の結婚式と大きく違う点は、新婦を連れてバージンロードを歩くのが新婦のお父さんではなく、僕だと言うことだ。 

「お待たせ」

 しばらくすると、彼女は純白のウェディングドレス姿でやってきた。

 きれいなベールを被っている。肩の部分はレース生地になっていて、ウェディングドレス自体は何重にも重ねられた丸みを帯びたものでかわいらしい。花の刺繍も描かれている。背中には大きなリボンがついていた。

「きれいだよ」

 「きれいだよ」とばかり言ってる気がしたけど、人は本当に美しいものを見た時、たくさんの言葉は必要ないのかもしれない。

「ありがとう」

 彼女は照れていた。

「お姫様、いきましょうか」

 僕は、そう言って彼女の手をとり、結婚式場に入っていった。

 扉の向こうは、光り輝くところだった。

 二人で選んだ音楽が、結婚式場をさらに温かい雰囲気にしてくれている。

 自然の光りだけでなく、さまざまなところに散りばめられた照明が結婚式場を照らしている。

 バージンロードは、白いだけでなく透明になっていて、透けて光りを放っている。

 まさしく、僕たちが結婚式のテーマにした『光り』そのものだった。

 僕はその中をゆっくりと彼女とペースに合わせて歩いていく。

 今まで彼女が僕にペースを合わせてくれていた。『イベント事』の日彼女のペースに合わせた。

 今は、お互いにペースを合わせて歩んでいる。

 そんな些細なことでさえ、感動的に思えて涙が出た。

 結婚式場の中心である祭壇まで着き、二人で目の前にある誓いの文を手にとる。

 そして、それを二人で持ちながら、声を揃えて読み上げる。

 誓いの言葉の誓い方はいろいろあるけど、僕たちは何でも一緒にしたかったので、この方法を選んだ。

 「私たちは、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、パートナーを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓います」

 その瞬間、結婚式場にある大きな鐘がきれいな音色を響かせた。

 彼女はお色直しの為に、一度退場していった。

 こんなにも素敵なところで、きれいな彼女が今さっきまで隣にいた。

 でも、今僕は一人だ。

 僕も一緒に一度退場することはできた。

 でも、僕が退場しても特にすることはないので、結婚式場内に残ることにした。

 一人になることはわかっていたのに、いざ一人になると急に不安になってきた。

 こんな僕は本当に彼女に、相応しい人なんだろうか。いや⋯⋯。

 また暗い感情はどんどんあふれてきて溺れそうになる。 

 その時、扉が勢いよく開けられた。

 そして、彼女は僕めがけて走ってきた。

 オレンジのカラードレスがひらひらと揺れる。

 僕に飛びついてきた。

「瑞貴ちゃんのSOSが聞こえてきたから。大丈夫だよ」

 彼女はお姫様抱っこをされながら、天使のような顔をしていた。

 「ありがとう。また、『小さな僕』がでてきて⋯⋯」

「瑞貴ちゃんは素敵な人だから。大丈夫だよ」

 彼女はまっすぐ僕を見つめてきた。

「うんうん」と僕はまた涙を流した。

 こんな演出は、リハーサルの時にはもちろんなかった。

 突然のことだったけど、僕もなんとか対応できた。

 彼女はきっと僕がこうなることをわかっていたのだろう。本当に彼女には頭が上がらない。

「計画的なのか、大雑把なのかわからないよね」

 僕は言葉にたくさんの愛情を込めた。

「そんな私だけど、いい?」

 彼女の顔が近づいてくる。

「もちろん」

 僕は彼女に口づけをした。

 彼女のおかげで、その後僕たちは笑顔で予定通り指輪交換ができた。

 結婚式の全ての予定が終わり、あとは退場をするだけだなと思っていた時だった。

 「続きまして、新婦様よりメッセージです」と司会進行役のウェディングプランナーさんの声が聞こえてきた。

「えっ!?」

 僕は思わず声を出してしまった。

 結婚式の予定には、そのようなものはなかった。もちろん、彼女からも直接聞いていない。

 僕は目を大きく開き、隣にいる彼女を見つめる。

 彼女は「私の本気のきゅんを、瑞貴ちゃんにあげるよ」とウインクをした。



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