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二十三章 「二人の夫婦の形」

 一月一日。

「昨日の話し合いのことなんだけど」

 僕は、昨日話し合った話をまとめるために、彼女に声をかけた。

 少し寒いので、僕は暖房をつける。

「そうだったね。今日は話し合った内容をまとめるのだったね」

 彼女は、明るく返事してくれた。

「うん。二人に合う夫婦の形を見つけるために、まずは二人の理想の夫婦像から似てるところを見つけようと僕は思ったよ」

 どちらか一方が我慢するのは違うと、わかったから。

 二人の意見をうまく取り入れたものをつくりたい。

 僕の理想の夫婦は『いくつになっても仲良しで、話が尽きることもなく、いつでも二人で楽しめる夫婦』だ。

 彼女の理想の夫婦は『どんな時も相手の味方で、相手の一番の理解者であり続けられる夫婦』だ。

「いいアイデアね。じゃあ瑞貴ちゃんは、私たちの夫婦の理想像で似ていると感じたところはある?」

 彼女はまずは僕の意見を聞いてくれた。

「うん。二人とも日常を一緒に楽しみたいと思っていることと、二人の時間を大切にしたいと思ってることだよ」

「それはそうだね。あっ、私は他にも共通点見つけたよ」

 彼女はしっかり僕の考えを肯定してくれた。

「それは、お互いに相手を幸せにしたいと思っているところだよ」

「うんうん、僕たちは自分のことよりも相手のことを優先しちゃうぐらい、相手の幸せを強く願ってるよね」

 僕たちは笑いあった。

 僕も『幸せ』は、二人にとって大切なキーワードだと『イベント事』の日をやっている時からずっと思っていた。

「ふふ、でも、私たちの考え方が似ていて本当によかったね」

 確かに彼女のことを知れば知るほど、僕たちは本当によく似ているなと感じる。

「そうだね。夫婦として、考え方や価値観が似ていることは大切なことだとよく言われるよね」

 でも、もしも彼女と考え方などが全く違っても、彼女が今と同じように僕を愛してくれているなら、僕は素敵な夫婦になる努力をするだろうとも思った。

 僕は次の話に移ることにした。

「次に、二人の不安と悩みについて、どうするか少しだけ考えてみようか」

 僕の悩みは、『自分に自信がないこと』で、彼女の不安は、『不妊症と子どもについて』だ。

 どちらもすぐには解決しないことはわかった。でも今後どうしていくか少しは目安があるとお互いに気持ちも軽くなるかなと思った。

「花音ちゃんは自分の不安について、近々どうしてほしいとかある?」

「近々瑞貴ちゃんに産婦人科ついてきてほしい。そして一緒に先生の話を聞いてほしい。いいかなあ?」

 少し不安そうに、彼女は見つめてきた。

 だから僕は、彼女の手をしっかりと握った。

「うん、大丈夫。僕も早く病気不妊症のことを知って、花音ちゃんを支えたいと思ってるから」

「ありがとう。瑞貴ちゃんの悩みについては、どうしていこうとかある?」

 彼女は、僕の手をゆっくり握り返してくれた。

「僕の悩みについては、一人で悩まないことをすごく意識するよ。すぐにはうまくいかないだろうけど、意識することでだいぶ変わる気がする。そして、『小さな僕』が現れたら、すぐに花音ちゃんに言いに行くね」

「うん、私が全力で肯定するから」

 彼女から力強さを感じた。

「次に、話し合いを通して、花音ちゃんは何か気づいたことはある?」

 実際に話し合ったことで、気づいたこともあったと思う。

 それも含めて、二人に合う夫婦の形が完成する気がする。

「そうねー。まずは自分の弱い部分を相手に見せることの大事さかな。そして、未来のことについては、二人でもっと話し合う必要があると思ったよ」

「なるほど。一つ目から詳しく教えてもらっていい?」

 僕も同じように思うところもあったけど、彼女の言葉で聞きたかった。

「うん、自分の弱い部分を見せるのはなかなか勇気がいることだよね。でも、お互いに相手の幸せを本当に望むのなら、自分の弱い部分を見せることが大事だなと思った。話し合いをしたことで、瑞貴ちゃんは何かしら助けになってくれるとわかったから。『隠す』んじゃなくて、『補い合う』ができたら素敵だなあと思ったよ」

「いい考え方だね」

 彼女は二つ目のことを話し始めた。

「私たちは、そもそも二人の未来について、あまり今まで話してこなかったと気づいた。私たちはこれからもずっと一緒にいるのだから、未来のこともしっかり話し合う時間をとらなきゃダメだと思う」

「うん、確かにそれも大事だね。教えてくれてありがとう」

「瑞貴ちゃんは、どんなことに気づいた?」

「僕は、まだまだ相手のことで知らないことが多いとわかったことと、言葉にすることの大切さに気づいたよ」

「それも素敵ね」

 彼女はしっかり頷いてくれた。頷いてくれるだけでこんなにも安心できると最近気づいた。

「まずは、僕は『イベント事』の日をする前、花音ちゃんのことを積極的に知ろうとしなかった。『イベント事』の日をやり始めて、花音ちゃんのことを前よりもだいぶわかった。いや、わかった気でいた。でも昨日話し合いをしたら、まだお互いに知らないことがあってびっくりした」

「確かに、まだ知らないこともあったよね」

「それをこれからも知っていきたいと思ったし、知ることが楽しみだと思えるよ」

 彼女がさっき言ったように二人の人生は始まったばかりで、まだまだこれから先も続いていくのだから。

「私もそう思うよ」

「そして、思っているだけじゃ相手には何もわからないとわかった。きっと、お互いに相手のことをいつもすごく思っていると思う。でもそれを形にしなきゃ、相手はわからない。それは時間もかかるし労力もいる。でもその思いをちゃんと『言葉』という形にして、相手の心までしっかり届けなきゃ意味がない。そして、なかなか届かなくても、諦めないようにすることも大事だとわかった」

「そうだね。言葉にすることで、変わることもあると私も話し合いを通してすごく感じたよ」

 僕は今までの出た意見を頭の中でまとめた。

「今までの話から、僕は二人に合う夫婦像がまとまったんだけど、聞いてくれる?」

 もちろん、この考えをそのまま決定とするつもりはない。もし、彼女がもっとこうしてほしいというのがあれば、それも盛り込むつもりだ。

 僕たちは二人で、夫婦の形を見つけたいのだから。

「うん、聞かせて」

「それは、『自分も、相手も幸せにし続ける努力をし、どんな時も一緒に楽しむことを忘れない夫婦』だよ」

「それ、すごくいいよ! 二人の理想の夫婦像もうまく反映されてるし、私が言うことがないぐらい素敵なものだよ。やっぱり瑞貴ちゃんは文章まとめたりするのは得意だね」

 彼女は僕のことを褒めてくれた。

「そう言ってくれてよかったよ。さらに、あと二つ提案があるよ」

「なになに?」

 彼女から子どものようなワクワク感が伝わってきた

「まず一つ目は、話し合いの時も言ったけど、『イベント事』の日を復活されない? なくなるのは、やっぱり寂しいよ。二つ目は、新たに『話し合い』の日をつくり、定期的に二人でその時の感じてることや不安などを話し合うようにするのはどうかな?」

 『話し合い』の日については、二人で生活していると、何かしらの悩みや不安はきっと今後も出てくるから。それをため込まずにすぐに二人の問題としてすぐに考えたいと僕は思った。

「うん、二つともいいね。二人だけの特別な日がどんどん増えていくね。『イベント事』の日も私だけがきゅんとするものじゃなくて、もっと変えていけるからね」

「花音ちゃんも、納得してくれて本当によかったよ」

 僕たちは、やっと二人に合った夫婦の形を見つけた。




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