僕は夫婦になった日を思い出すことで、気づきがあった。
彼女は夫婦になる前から、甘えていた。
僕が、ただそれに気づけていなかっただけだ。
彼女の気持ちを考えると、胸が痛くなってきた。
彼女は僕にいつも心を開いているのに、僕からは何の反応も返ってこないのだから。
寂しいという言葉で、とても現れないほどのものだったと思う。
僕は今こたつに入っている。
彼女とまったりとおしゃべりをしたいところだけど、今日は「理想の夫婦像について、一人で考える時間をもらいたい」と彼女に声をかけていた。
僕は話し合いをし、早く彼女ともっと心を通わせたい。
彼女は「わかったよ。終わったら声かけてね」と穏やかな声で返事をくれた。
「ありがとう」と伝え、僕は一人で考え始めたのだった。
まず彼女はお互いにどんな夫婦を理想像としているか改めて考える時間を各自でとってみようと彼女は言った。
そもそもなぜ各自で時間をとるのかと僕は考えると、考えるのに時間がかかる僕のためだとわかった。
彼女には本当に敵わない。
僕は一体どんな夫婦になりたいと思っているかという話に、思考を戻した。
正直、前までの僕なら迷うことなく、『彼女が常に幸せだと感じられるような夫婦』を理想像とする。僕がいくら大変でも彼女にひたすら尽くして、彼女が幸せそうな顔をしてくれたら、それで僕のことはどうでもいいと思っていたから。
でも、『イベント事』の日を一緒にしていく中で、僕は彼女の考えや望むことをわかってきた。
『ただ優しい』ことと『自己犠牲』を彼女を望んでいない。
僕は、夫婦であるなら二人で同じ方向を向きたいと思っている。僕あるいは彼女が望んでいないことを続けても、僕たち夫婦にとっての幸せにはつながらないから。
そうであるなら、僕はもう一度白紙の状態で、どんな夫婦になりたいか考える必要がある。
僕は『イベント事』の日のことを思い返すことにした。
『イベント事』の日を彼女がわざわざやってくれたことを、僕は無駄にしたくない。
『全てのことには意味や起源がある』とら彼女は十二月の『イベント事』の日に言っていた。
まず、自分が彼女のことを知らないとわかった。そこから、彼女の気持ちをちゃんと考えるようになった。彼女の気持ちを知ることは、彼女と向き合うことであった。
また、今まで僕にとって曖昧だった『夫婦』という関係性についても、少し考えるようになった。彼女と『イベント事』の日を楽しんでいると、僕には、『恋人』から『夫婦』になっても、まだまだ仲良くなることはできると確信がもてた。もちろん、役割が変わると、求められることは変わる。でも、変わらないこともあるはずだ。あることを二人で楽しめるなら、それは何倍にも楽しいことにきっとなる。
さらに、二人で過ごす時間は、実は貴重なものだと彼女が教えてくれた。その時間をこれからは、素敵なものに二人でしていきたい。お互いに相手を思いやり、幸せにしたいと思えば、それはどんどん二人の幸せが大きくなることにつながるだろうから。
『イベント事』の日を一緒にやっていく中で、二人が共通して大切にしたいことも見つけていくことができた。
それら全て含めて、『いくつになっても仲良しで、話が尽きることもなく、いつでも二人で楽しめる夫婦』という夫婦の理想像がまとまった。
そんな夫婦になるために、今からできることはなんだろうか。
日々の何気ない会話を大事にすること、自分も相手も楽しめるように話題を考える努力をし続けること、一人で抱え込まず話すことなどが思いついた。
考えがまとまったので、彼女に「終わったよ」と僕は声をかけたのだった。
僕は彼女に「花音ちゃんも一人で考える時間とる?」と聞いた。「私はすでに考えがあるから、わざわざ時間はとらなくていいよ」と返事が返ってきた。
「じゃあ今、僕に対してどう思ってるか少しだけ教えてくれる?」
僕は彼女が僕に対して今どう思っているのか改めて聞いてみたいと思った。
それも、きっと素敵な夫婦になるために必要なことだから。
「瑞貴ちゃんは、この一年で本当に変わってくれたよ。元が悪いとか言いたいじゃなくて、前より私を理解しようと向き合ってくれるようになった。正直突然で、しかもむちゃくちゃなことをたくさん言ったのに、瑞貴ちゃんは私の言葉すべてに一生懸命に応えてくれたよね」
「僕はただ一生懸命だっただけど、そんな風に感じてくれていて嬉しいよ」
僕はホッととした。
思いは、なかなか伝わらにくいものだから。
「ところで、結婚した時に、瑞貴ちゃんが言った衝撃的な言葉覚えてる?」
彼女は突然、話題を変えた。
「えっ、衝撃の言葉。結婚当初の僕は、全然花音ちゃんのことを大切にできていなかったことはわかるけど、ピンポイントでは何かってわからないから教えてくれる?」
「いいよ。結婚してすぐのことだよ。瑞貴ちゃんは、私の考えなんて一切聞かず、『専業主婦になってほしい』とだけ言ったよ」
「まじか。そんなこと言ったのか。しかも、実際に花音ちゃんは今も文句を言わず専業主婦を続けてくれているよね。さすがに『この人、ありえない』とか思ったよね?」
「ありえないまでは思わなかったけど、私にも妻としてどうしたいという考えはあったよ。でも、その時は何も言わないでいた」
彼女はどうし何も言わなかったのだろう。
彼女にとったらいいことは何一つない。
そんな疑問に、彼女はすぐに答えてくれた。
「私は、結婚したら瑞貴ちゃんを信じて、何があってもついていくと決めていたから」
「そこまでの覚悟をしてくれていたのだね。本当にありがとう。ところで、その思っていた妻としての考えはどんなものなの?」
「それは話し合いの日に詳しく話すから今はまだ秘密だよ。今言えることは、『イベント事』の日を通じて、『瑞貴ちゃんの手は、絶対離してはいけない。瑞貴ちゃん以上の人なんていない』と改めて感じたことだよ」
「じゃあ話し合いの日まで楽しみにしてるよ。そんなに僕はすごいことをしてないし、むしろやっと他の人のようにパートナーを大切にできるようになったレベルだと思うけどなあ」
「そんなことないよ。私のために本気で悩み、しかもすぐに何か行動をしてくれる人なんて、他にはいない。それに『イベント事』の日を通して、瑞貴ちゃんの対応力の高さに気づき、一層好きになったんだから」
「対応力の高さ?」
僕にはすぐには何のことかわからなかった。
「そう、瑞貴ちゃんは私の無茶振りに、戸惑いながらも毎回その場で何かをしてくれたよね? 自分で無理をさせておきながら言うのも申し訳ないけど、あんなにすぐに思いつくことができる人はなかなかいないよ」
「なるほど、そんな風に感じてくれていてありがとう」
「その時は顔に出さないようにしてたけど、本当はいつも驚いていたよ。そして『イベント事』の日の度に、「私って本当に愛されているー」と感じていたのだから」
彼女がそこまで思っていたなんて、想像できていなかった。
「愛している気持ちがしっかり届いていてよかったよ。色々教えてくれてありがとう。また明日しっかり話し合おうね」と僕は彼女にキスをしたのだった。