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十七章 「『きゅんとさせて』と言った理由③」

 「『きゅんとさせて』と言った三つ目の理由は、まずこれが一番大切な理由だからよく聞いてね。それは二人に合った夫婦の形を見つけたいからだよ」

 彼女は珍しくはっきりとした口調だ。

「夫婦の形を見つけたい?」

 彼女の言葉に、驚かされるのはいつものことだけど、今回のは今までと比へものにならないほどのものだった。

 『イベント事』の日を通して、相手の気持ちを理解することや愛情を伝えることの大切さはわかった。

 しかし、僕には、『イベント事』の日に『夫婦』に関して、深く考えることはなかった。

 僕は改めて『夫婦』という言葉について考えてみたけど、何も言葉が浮かんでこなかった。

 なせ夫婦に形を求めるのだろう。そもそもそんなに色々な形があるのだろうか。

 僕たちは結婚して、『恋人』から『夫婦』になった。

 それは特別で、大きな変化であったを

 でも、僕は彼女のことが好きで、彼女も僕のことを好きでいてくれている。

 それで、いいのではないか。

 それ以上に、何が必要なのだろうと僕は頭を悩ませるた。

「夫婦に形なんて求めなくていいんじゃない? と今思ってるでしょ」

 彼女自身満々に聞いてきた。

「えっ、何でわかったの?」

 僕は一瞬心の中を読まれたのかと本気で思った。

「私が、瑞貴ちゃんのことをどれだけ思っているかまだまだわかっていないね。それぐらい瑞貴ちゃんの顔を見ればすぐにわかるよ」

「それはすごいね」

 驚いたけど、同時にそれは嬉しいことでもあった。

 その言葉一つで、彼女が僕のことを思ってくれているのが瞬時にわかったから。

 彼女の言葉って、本当に思いがつまっている。

 彼女に比べたら、僕はまだまだ彼女のことをわかれていないだろう。

 僕も、もっと彼女のことを知りたい。

「じゃあ聞くけど、瑞貴ちゃんにとって『夫婦』とは、何?」

 彼女は真剣な顔で、質問してきた。

「愛し合う二人が、ずっと一緒にいる証?」

 僕は迷いながら答えた。

 迷ったのは、自分の言葉に自信がないからと、まだ自分の中で夫婦について確かな答えが出ていないからだ。

「うーん、間違っていないけど。瑞貴ちゃん、それはちょっと甘いよ。夫婦とは、意味的には婚姻関係のある男女のことを指しているにすぎないのよ。そこには二人を結ぶ絶対的なものはない。私にしたら少し現実的な発言と思うかもしれないけど、私たちは元は他人だということを忘れないで。だから、その関係性はちょっとしたことで崩れる。だからこそ、お互いに相手をわかろうとする努力を続けることと同じぐらい、『夫婦』としてどうありたいか話し合うことはすごく大事だと私は思う」

「元は他人。確かにそうだよね。夫婦としてどうありたいか話し合うことで、僕たちの関係性がよりよいものになるならそれはいいことだと僕も今わかったよ」

 彼女の考え方は、いつも僕の心に響くものがある。

 そして、気づきを僕にくれる。

「そうだよ。私たちは結婚したての時よりもいい関係性になった。でも、私はもっと瑞貴ちゃんと素敵な関係性になりたい」

「それは、僕も同じように思っているよ」

 彼女とさらに仲良くなれるなら、楽しく過ごせるなら、僕はそれに異論を唱える必要はない。

「まずは、私がなぜ二人に合った夫婦の形を求めたいのか言うと、『夫婦』には、無限の可能性を秘めているからだよ」

「無限の可能性?」

 僕には夫婦の形と聞かれて何も浮かばなかったけど、彼女は無限の可能性があると言った。

 僕たちの間にこれほど差がある。

「なぜなら、『夫婦』というものに決まった形はないから。こうあるべきというのもない。親や友達などの夫婦の形を真似することもできるよ。でもそれじゃあ、つまらないよ。みんなと同じなんておもしろくない。だって、この夫婦生活は私たち二人が主役なんだから。白紙の状態で、自分たちがどうしたいかじっくり二人で考えた方が楽しいに決まっている。それは、私たち次第でどんな風にも変えられると思う。だから無限の可能性があると言ったのよ。もちろん、やろうと思えば私一人で決めて夫婦の道の舵をとることもできるよ。でも、それすらも楽しめる二人って素敵じゃない? まるで『イベント事』の日のように、それを二人で楽しむのよ。お互いに二人で会話を何度も重ね、より理想的な夫婦像を作り上げていく。時間のかかる大変なことかもしれない。でも今の私たち二人ならきっと楽しんでできるよ。夫婦になったことが終わりじゃなく、幸せの『始まり』だから。私は二人でスタートを切りたい。スタートを切るのに、遅いことなんてないんだから」

「それが、花音ちゃんが『イベント事』の日を通して、一番伝えたかったことなのだね」

 僕はまず彼女の『きゅんとさせて』と言った理由の全てがわかって、よかったと思った。

 彼女のあふれる愛情に触れたから、付き合った記念日の『イベント事』の日に僕は涙を流したのかもしれない。

 そして、僕は今、彼女の言葉をしっかりと受け止める。

 間違えたこともあった。彼女に寂しい思いをさせたこともたくさんあった。でも、後悔するよりも、前を向きたい。二人で幸せになりたい。

 そして、僕が考えることを諦めなかったのは、僕も彼女と同じように彼女のことを愛しているからだ。

 それなら僕の言うことはもう決まっている。

「うん、二人で僕たちに合う夫婦の形を見つけよう」

「そう言ってくれてありがとう。それならまずは、お互いにどんな夫婦になりたいか、どんな夫婦を理想としているか、改めて考える時間を各自でとらない? そして、その後それについて二人で話し合って、ゆっくり答えをだすのはどうかな?」

「うん、そうしよう」

 そう言って、僕たちは読売ランドをあとにした。

 僕はきっと今日のイルミネーションデートの日を、一生忘れない。

 だって、彼女の様々な気持ちを知ることができたから。

 『イベント事』の日は終わったけど、これから先もまだまだときめくことは待ち構えているのだった。


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