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十五章 「十二月二十五日 イルミネーションデート②」

「お礼を言うのは、僕の方なのだよ」

 僕はそう言って深呼吸した。

 正直、かなり緊張している。

 イルミネーションはキラキラと光っている。

「なんで、瑞貴ちゃんがお礼を言うの? 私こそ、何かしたかな?」

 彼女は、何か思い当たるところを探してるようだったけど、特に見つからなかったようだ。

「それは、『イベント事』の日を一緒にしたおかげで、僕は花音ちゃんのことを知ることができたからだよ。本当にありがとう」

「私のことを? それは普通のことじゃない??」

 彼女はやはり話についてこれていないようだ。

 確かに一般的にはごく普通なことを僕は言っている。

 彼女が戸惑うのも当たり前だ。

 時間と共に、好きな相手のことをどんどん知っていくことは、至って普通のことだ。

 ただ僕にとっては、その普通すら今までできていなかった。

「いや、おかしな話だと自分でもわかってるけど、今までの僕は花音ちゃんのことを積極的に知ろうとしていなかった。うーん、正確には『好き』と言う思いで、満足していたと言うべきかな。花音ちゃんの優しさに、『好き』に、甘えていた。そして、『好き』という感情は一人では完結させることができないと花音ちゃんは教えてくれた。二人ででするから楽しいこともあるとわかった。花音ちゃんとの時間を大切に思えるようになった」

 僕はずっと一人で抱えてたことについて話し出すと、自分でもどうすることもできないぐらい、次から次へと言葉はでてきた。

 全然言葉にまとまりなんてない。

「ゆっくり話してくれたらいいよ。大丈夫、瑞貴ちゃんの話を私はちゃんと最後まで聞くから」

 胸がちくりと痛くなる。

 僕は彼女のことを今まで考えてなかった。。そんな僕に彼女に優しくされる資格なんてないから。

 頭を一度振って、気持ちを切り替えた。

 今は僕がネガティブになっている場合ではない。

 伝えたいことは山ほどあって、感謝したいこともたくさんある。

 思いを伝えるのって、難しいなとつくづく感じる。

 それでも、僕は伝えることを諦めない。

「僕は『イベント事』の日のおかげで、花音ちゃんをもっと理解したいと思い、ちゃんと向き合うことができるようになったから、そのお礼が言いたかったのだよ」

 本当は謝罪もしたかった。

 僕は今までちゃんと彼女と向き合うことができていないかったから。

 でも『謝る』より『感謝』する方が、彼女も嬉しいかと僕は思った。

 彼女の様子を見ながら、僕はまた話し出す。

「そして、ここからが一番伝えたいことだよ。僕は、なぜ花音ちゃんが突然『きゅんとさせて』と言いだしたかについて考えて、答えを出したよ」

 彼女は、何も言わずしっかりと僕の目を見てくれている。

「『イベント事』の日が始まった時は、なぜかわからなかった。まずは理由はわからないけど、逆に僕をきゅんとさせたいのかと思った。実際に僕は花音ちゃんが甘えてきたり、花音ちゃんの喜ぶ顔を見て、きゅんとした。優しい花音ちゃんのことだから、僕を喜ばせるためにしてくれてるのかと思った。でも、『イベント事』の日を何度も迎えていく度に、それだけじゃ説明できないところがたくさんでてきた。『イベント事』の日に詳しい理由をつけたり、自分で『イベント事』の日を作ったりするのは、僕を喜ばせるためだけじゃないと思った。そして、次に、二人で幸せな時間を過ごしたいのかと思った。『幸せ』を定義するのはすごく難しいよね。僕は今まで花音ちゃんといて幸せだったし、今も幸せだよ。でも、花音ちゃんが別の方向の『幸せ』を求めているのではないかと思った。そして、『イベント事』の日を改めて一から思い出すことで、僕は、花音ちゃんが特別な時間はもちろんだけど、特別ではない『日常』の時間を、二人で一緒に楽しみたいという答えに辿り着いた」

 僕が話し終えると、彼女は優しい笑みを浮かべていた。

「やっと言ってくれたね。しっかり考えてくれてありがとう。瑞貴ちゃんが、私が突然『きゅんとさせて』と言い出したことに対して、何か言ってくれるのをずっと待っていたよ。たとえそれが間違ったものでもよかった。本当は正解を求めてるわけじゃないから。ただ私にもっと関心をもってもらいたかった」

 彼女から思いがこぼれていく。

「そうだよね。今までの僕は花音ちゃんに全然寄り添えてなかったよね。誰よりもそばにいるのに、ずっと寂しい思いさせてごめんね」

 これからは、寂しい思いはさせないと心に誓った。

「わかってくれたからいいよ。そして、話はなぜ私が突然『きゅんとさせて』と言い出したかの答えに戻るけど、瑞貴ちゃん、さすがだね。私が突然『きゅんとさせて』と言った理由は、間違ってはいないよ」

「本当に? それならよかったよ」

 僕はホッとした。

 これで彼女の悩みや不安も全部解消されたと思ったからだ。

 しかし、彼女の話は、まだ終わっていなかった。

「間違ってはいないけど、完全な正解ではないよ。瑞貴ちゃんの答えの中には、私の伝えたいことは全然入っていないから」

「えっ!?」

 僕は思わず、大きな声を出してしまった。

 それは、一体どういうことだろう。

 僕はまだ彼女のことを、理解できていないのだろうか。

 心の中で、暗い感情がゆっくりと動き始める。

「なぜなら、私が『きゅんとさせて』といった理由は三つあるのだから。その一つの答えの部分だけを瑞貴ちゃんは当てただけだから」



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