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十四章 「十二月二十五日 イルミネーションデート①」

 「今日の『イベント事』の日で、私たちの『イベント事』の日は最後だよ」

 彼女は、はっきりとそう告げたのだった。


 彼女がこの発言をした背景を知るためには、時間を少し戻す必要がある。

 それは十二月に入った日のことだ。

 ベットで、二人で寝る前にお話をしている時に、クリスマスがある月になったので、僕は「クリスマスに、どこか行きたいところある?」と彼女に聞いた。

 僕たちは、最近寝る前にお話をする時間をとるようになった。

 そんな時間をとり始めると、お話する時間は、僕にとって一日の中で重要な時間になった。

 彼女と話するのが、一番楽しかった。

 もっと前からこの時間をとっておけばよかったと、少し後悔している。

 僕たちは、基本インドア派だけど、二人ならどこかにたまに出かけるのもいいかなと思った。

 彼女は「きれいなイルミネーションが見たいなあ」と目をキラキラさせていた。

「イルミネーションか。やっぱり近場で有名なところだと、読売ランドかな」

「読売ランド! ねぇ、そこに決めちゃう?」

 彼女はなぜかこの場で即決しようする勢いだ。

 彼女は元々そんなに悩むタイプではないけど、ここまですぐに決めるのは珍しい。

「えっ、いいの? まだ時間あるし、二人でどこかにいいところがないか調べることもできるよ」

「いいの。『場所』は、そんなに重要じゃないから」

「ん? どういうこと??」

「瑞貴ちゃんと一緒にイルミネーションが見れるなら、そこはどこだって一瞬で素敵な時間になるから」

 さらっと甘い言葉を彼女が言ったから、僕はふにゃっと笑顔になった。

 こうして、クリスマスに読売ランドに行くことが決まった。


 僕たちは十八時に、読売ランドに到着した。

 太陽はすでに沈んでいて、空には月がきれいに浮かんでいる。

 読売ランドのイルミネーションは、世界初の宝石の色をイメージしたLEDを使ったイルミネーションだ。アトラクションなどもイルミネーションで飾られる。しかも、それを見るだけではなく、アトラクションに乗り、自分たちがイルミネーションに加わることができる。

 これを知ったら、彼女は驚くだろうなあと僕楽しい気分になっていた。

 読売ランドに一歩入ると、そこは別世界だった。

 光の中にいる感覚におちいった。

 彼女の方を見ると、彼女は小さな子どもを連れた他のお客さんを儚げにに見ていた。

 「どうしたの?」と声をかけると「ううん、なんでもない」と言ってからすぐ、僕の腕に抱きついてきて何度もイルミネーションと僕を交互に見ている。

「ねぇ、あのジェットコースターに今から一緒に乗りにいこうよ」

 僕は目の前にあるジェットコースターを指差した。

 そのジェットコースターのコースは、黄金色にイルミネーションされている。

 彼女はさっきから感動しすぎて「いいのー!?」と、なぜか僕のなんてことない言葉にも感動していた。

「瑞貴ちゃん、これは『革命』だよ」

 ジェットコースターを乗り終えてすぐ、彼女はすご勢いで話してきた。

「『革命』とは、またすごい表現だね」

 実は、彼女の喜びそうなものが僕にもわかってきていた。

 このジェットコースターも彼女が喜ぶと、乗る前から確信をもてていた。

 それは前よりも彼女のことを考えるようになり、積極的に知ろうとした結果だろう。

 喜ぶとわかっていても、彼女の喜ぶ顔を見ると、僕まで幸せな気分になるのだから、本当に彼女はすごい。

「だってだって、私、イルミネーションは『見るもの』だとずっと思っていた。イルミネーションは進化するのだね。自分たちもイルミネーションに『参加』できるなんて、これを『革命』以外になんて表現できるの」

 彼女はさらに早口になっていた。

 興奮すると、彼女は早口になると僕は知っている。最初はなんで早口になる時があるのかわからなかった。でも、彼女の言葉と行動をよく見ているとその理由がわかった。

「本当にきれいなイルミネーションだよね」

「瑞貴ちゃん、今楽しい?」

「うん。花音ちゃんが楽しそうにしてるのを見ていると、僕まで楽しくなるから」

 僕はその言葉の意図がわからず、心の中から不安がまたこぼれてきた。

 今回は、不安の勢いがかなりすごかった。

 彼女は何を言いたいのだろう。僕は彼女を知らないうちに、がっかりさせているのだろうか。

「そっか」

 彼女は僕の言葉を聞いて、悲しそうな顔を浮かべた。

 でもすぐに笑顔に戻って、別の色のイルミネーションをめがけて一人で走っていった。

 僕は前から彼女が時々見せる彼女の元気のない顔の理由を知りたかった。

 僕は彼女をすぐに追いかけていった。今度こそその理由をしっかり聞く。

 しかし、彼女は僕の方を振り返り、「突然だけど、ここで大切な話があります」と言い出した。

 そして、その後に、さっきの言葉を言った。

 遠くには、観覧車がきれいに光っている。

「えっ、それはどういうこと?」

 僕は言葉の意味はわかったけど、それを納得したくなかった。

 『イベント事』の日が終わる??

「そのままの意味だよ。今日で『イベント事』の日は終わりだよ」

「どうして? 僕、今日何か悪いことした??」

 不安は津波のように押し寄せてくる。

「ううん、瑞貴ちゃんは何も悪いことしていないよ。むしろ感謝している」

「感謝している??」

 彼女はいつも僕の予想を遥かに超えてくる。

 僕が感謝されることなんて何もしていないから。

 それから、彼女は僕に近づいてきた。

「そうだよ。私を何度もきゅんとさせてくれてありがとう。私も本当に楽しかった。私も今では、ちょっと終わらせたくないかなと思う。でも、物事は、終わりがあるから美しくて、尊いんじゃない? それに、十二月二十五日のクリスマスは、イエスキリストの生誕を祝う日なのだよ。瑞貴ちゃんなら、もうわかっていると思うけど、『物事には全て意味や起源があるのだよ』。そんな日に『イベント事』の日が終わるなんて素敵じゃない? そして、私は『イベント事』の日をすることが目的じゃなくて、この『イベント事』の日を通してあることを伝えるのが本当の目的だから」

 僕は、彼女の伝えたいことが何かなんとなくわかった。

 だから、彼女が突然『きゅんとさせて』と言った理由について、僕がたどり着いた答えを今言おうと思った。今がその時だ。

「花音ちゃん、まずは僕の話を聞いてくれない?」



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