彼女の作ってくれたケーキを食べながら思い出話を二人でしていると、僕はまた過去のあることを思い出した。
それは彼女に告白されてからしばらく経ったあとのことで、お互いの親に結婚の話をしにいく時のことだった。
突然の告白から始まった僕たちの恋だったけど、その後も順調に仲を深めていった。
その間に、何度もデートに行った。
有名なデートスポットから彼女が「行きたい」と行った場所まで本当に様々なところに行った。
どこにいっても彼女は楽しそうにしていて、「またすぐにでもデートに行きたい」という気持ちにさせてくれた。
九月ごろには、結婚のことが二人の間で自然とよく話に上がるようになった。
そして、まずは互いの親に挨拶しにいくこととなった。
まずは僕の親の方に、事前に「話がある」とだけ言っておき、二人で挨拶しに行った。
僕は親と仲はいい方で、今も簡単な近況報告などをメールでしている。
僕は大学になって、一人暮らしを始めた。
それから大学卒業後も家の近くではあったけど、一人暮らしをずっと続けていた。
仕事をしながら、家事もすることは正直大変なことだった。
でも、年齢だけじゃなく、立派な大人に早くなりたくて一人暮らしをすることを選んだ。
「ただいま」と僕が実家のドアを開けると、お母さんが、笑顔で出迎えてくれた。
年に一度は実家に帰っていたけど、この温かい雰囲気が僕は好きだなといつも感じる。
彼女のことを玄関で簡単にお母さんに説明し、僕たち二人家の中に入っていった。
「お父さん、お母さん、今日は大切な話があって来たよ」
僕は早速話し始めた。
なかなか言い出さないと、その分だけ彼女の緊張は増すと思ったからだ。
お母さんは僕たちにお茶を出してくれた後、お父さんの横に静かに座った。
「こちらは山吹 花音さん。今お付き合いをしていて、十一月に結婚しようと思っている」
僕がそう言った後、彼女は「山吹 花音と申します。ご挨拶に来るのが遅くなり申し訳ございません。瑞貴さんとはお付き合いさせて頂いております」と慌てて挨拶をした。
全身から緊張しているオーラが出ている。
でも、「普通そうなるよね」と僕は思った。だって、彼女にとってこの場には、自分の知り合いは一人もいないのだから。
だから、僕は彼女に小声で「大丈夫だよ」と伝えた。
「それは突然の話ね。瑞貴、結婚するの?」
お母さんは少し驚いていた。でも、嫌そうな感じは全然なく、優しい声でそう聞いてきた。
僕はお母さんに性格がよく似ていると小さな頃から周りの人に言われていた。
「うん、そう。いきなりと感じるかしれないけど、僕たちなりにちゃんと考えて出した答えだから」
「結婚するのは、反対しない。瑞貴、ただ今ここで約束しなさい。責任を持って彼女を守ること、どんなことがあっても瑞貴だけは彼女の一番の味方であり続けることを約束しなさい」
お父さんは、静かにそう言った。
お母さんの方を見ると、お母さんも笑顔で頷いていた。
僕はその瞬間、この二人の子どもでよかったなと思った。
そう思ったのは、お父さの言葉の裏には厳しさだけでなく、すでに彼女を思う優しさも感じることができたから。
「約束します。結婚を了承してくれて、ありがとうございます」
そう言って、僕は彼女の顔を見た。
彼女は安心したのか、肩の力が少しだけ抜けていた。
「じゃあ何も問題はないよ。あなたたちの好きにしたらいいよ。花音さん、困った時は遠慮せずなんでも相談してね。私も伊達に歳をとってないから、何かの役に立てるかもしれないから」
お母さんは最後に彼女の方をしっかり向いて、笑顔でそう言った。
彼女は「ありがとうございます」と頭を下げた。
帰り道に、彼女は「素敵なご両親ね」と僕に声かけてきた。
「ありがとう。そして、今日はお疲れ様。気に入ってもらえてよかったよ」
僕は彼女の手をぎゅっと握った。
「それに、瑞貴ちゃんに似てて、心が温かくなった」
「そうかなあー?」
「そうだよ! 瑞貴ちゃんの優しさはご両親からきていたんだなあと感動しちゃった」
そう言って、彼女は満面の笑顔を見せたのだった。
次は、彼女のご両親へ挨拶しに行った。
「はじめまして、山本 瑞貴と申します。花音さんとお付き合いをさせて頂いております。ご挨拶しにくるのが遅くなり、申し訳ございません」
部屋に案内されて、すぐに僕はそう言った。
とても落ち着きのある部屋だ。
「瑞貴さんですね。今日はわざわざきてくれてありがとう」
彼女のお母さんは、そう声をかけてくれた。
彼女と彼女のお母さんは顔がとても似ていた。
この感じだとそんなに反対されることもないのかなと僕は少しホッとした。
「瑞貴くんと言ったね。悪いけど、うちの娘は、君にはあげられないよ」
しかし、突然彼女のお父さんはそう言い出したのだった。
彼女は一人っ子だ。彼女のお父さんからしたら、大事に育ててきて、かわいくて仕方ないのだろう。
しかも、まだ二十二歳と嫁に行くには早い年齢だろう。
「ちょっとお父さん、瑞貴さんはまだ何も言ってないじゃない」
彼女はすかさず、僕をかばってくれた。
いつも彼女は僕のことを「優しい」と褒めてくれる。
でも、僕は彼女の方が断然優しいよと思っている。
「確かにまだ何も言われていない。でも今日はどうせその話できたのだろ」
彼女のお父さんは少しむすっとした態度だ。
彼女のお父さんの気持ちは、かなり固いようだ。
「あの、どうしてですか?」
僕はゆっくりと聞いてみた。
「どうしてって、君は少し年上すぎないか? 別に私の娘じゃなくても、他にいくらでも同世代でいい人はいるんじゃないのかい?」
歳の差のことをはっきりと彼女のお父さんに言われた。
そこは僕もまだ気にしているところだったので、その言葉が僕の心に重くのしかかる。
でもいくら臆病者の僕でも、しっかりしなきゃダメな時ぐらいはわかる。
「私は、花音さんがいいのです。花音さんほど素敵な人は、他を探してもいません。花音さんの性格は、育ててこられた花音さんのお父さんが一番わかっているのではないのでしょうか?」
「君は、花音を一生幸せにできると言い切れるのか?」
彼女のお父さんは僕の言葉に納得しながら、まだ表情を変えずさらに僕をきりっと見つめてきた。
「はい、できます。大切に育ててこられた娘さんを、こんな年の離れた私に任せるのは、とても不安なのはよくわかります。実は私も付き合う前、私なんかでいいのかと思った時もありました。しかし、そんな気持ちを花音さんが一瞬で消してくれました。今では私は中途半端な気持ちで、花音さんとお付き合いしておりません。どうか信じてはもらえないでしょうか。花音さんを一度でも悲しませることがあった場合、遠慮なさずに私達の仲を引き裂いもらって構わないです。たった今より私は、花音さんをどんなことが起きようと幸せにすると誓います!」
「その言葉は、一時のための、嘘や偽りの言葉ではないか?」
「はい。嘘ではありません。必ず花音さんのご両親に安心してもらえる人になるように努力し続けます」
「そこまでの覚悟があるのなら、娘と結婚することを許そう」
彼女のお父さんは、そう言って固い表情を少しだけ崩した。
それだけで仕方なくではなく、ちゃんと納得してくれたというのがわかった。
「ありがとうございます」と僕は何度も言ったのだった。
「今日の瑞貴ちゃん、すごくすごーくかっこよかったよ!! 惚れ直しちゃう」
帰り道、彼女はすごくテンションが高かった。
「ありがとう。ご両親の花音ちゃんへの愛情がすごく伝わってきたから、僕もどれだけ花音ちゃんを愛してるか伝えなきゃ、納得してもらえないと思ったから」
「そうね、特にお父さんの娘ラブはハンパないからね」
「できれば、先に言っといておいてほしかったなー」
僕は遠慮気味にそっとそう言った。
臆病な僕にとって、今日はなかなかに体力と精神力を使った。
最初から彼女が教えてくれていれば、少しは心の準備もできた。
「あはは、ごめんね。ちょっと瑞貴ちゃんのこと試したの」
「試した?」
「私だってこの人で大丈夫なのかなと不安になる時あるんだよ。でも、今日の瑞貴ちゃんの言葉を聞いて、安心できた。もう不安にならない」
僕は彼女の言葉に驚いた。
僕といる時彼女はいつも笑顔でいるから、マリッジブルーになっているなんて想像もしてなかった。
でも、僕が歳の差で悩んでいたように、彼女も付き合うこと・結婚することに何かしらの悩みを持っていることは普通にありえることだと今わかった。
「そうだったんだね。ごめんね、気づかずに。でもまた不安になったら遠慮せずに言ってね」
「ありがとう、瑞貴ちゃんやっぱ大好きー」
「僕も花音ちゃんが大好きだよ」
こうして、両方の親に結婚の報告が終わった。
それからは、新居を探したり、一緒に家具を買いに行ったりと、かなりハイペースで物事は進んでいった。
そして、僕たちは結婚をしたのだった。