十四時十五分 管制室
「なんだありゃ」
ロンは五十八番ドックからターミナルに出て来たアーマードバトルスーツを見て言った。
「詳しい事はわからねえが、クラシックマシンじゃないのか」
オペレータをやっているメンバーが言った。
「あれは、ソードチャリオットと言うアーマードバトルスーツだと思います」
管制室の本物のオペレータのマッカル人が口を挟んだ。
「お前アレを知っているのか」
「クラシックマシンマニアなら誰でも知っている名機です。メルドネル人の歴史遺産・遺跡管理局の人が、地球人の遺跡から発掘した物らしいから、レプリカじゃなくて本物。凄い高価なマシンです。戦闘向きじゃないですけどね」
「高価っていくらだ」
オペレータは考え込む。
「たしか三年前に純正地球人規格のアーマードバトルスーツを、五兆バーグでメルドネル人の大富豪が買い取った事で有名です」
「あれがそんなに高価な物なのか!」
さすがにとんでもない金額にロンが驚く。突然、ふっと湧いた目の前の高価な骨董品にロンは完全に目が眩んだ。
五兆バーグと言えば、資源惑星が買える金額だ。売れれば一生豪遊しても使い切れない程高価なのである。
そしてターミナルを見てみるとドドリアン二機がソードチャリオットに蹴りを入れているのが見え、ギョッとする。
そこに電話が掛ってくる。ソードチャリオットへの攻撃を止めさせないといけないタイミングで掛って来たので、内心ロンは、イラッとする。
『地球人を殺したぜ』
ロンは管制室に向かって来ている地球人を殺すように命令した事を思い出す。
「死体を確認しろ」
『へーい』
ロンは返事を聞くとすぐに電話を切ってしまった。折角の高価な骨董品を、仲間が壊してしまいそうだったからだ。
「おい。ギャギに連絡して、あの骨董品を破壊しないで手に入れろと指示しろ」
しかし、その指示は遅かった。爆発音と共にソードチャリオットから激しい煙が立ち上った。
「折角の五兆バーグがー」
ロンは、悲壮な感情が籠った声で言った。
「リーダー。俺たちは金の為に、やっているんじゃないでしょ。地球人にお仕置きする為でしょ」
実は、リーダーのロンとB班の班長ギャギの二人だけの秘密だが、今回の企ては金の為であった。最後の逃走に使用する予定の定期便には、三億バーグ相当の鉱石が積まれている。それを知っていてジャックすることにしたのだ。
もしソードチャリオットを奪えれば、宇宙船のジャックに失敗してもおつりがくる。
しかし、一般のメンバーは、ロンやギャギに騙され、自分たちの身勝手な理想の為にこの企てに参加していた。
「あんな骨董品より、クティーガルはどうするんです?」
ドドリアン五機で取り囲んで攻撃を続けているのにすべて避けられていた。
「なんで未だに決着が付かない」
「仮にも銀河最強のアーマードバトルスーツだからでしょうか?」
メンバーの一人が尋ねる。
「お前、アーマードバトルスーツに詳しそうだな。アレの弱点を教えろ」
先ほどの本物のオペレータにロンが聞いた。
「弱点はありません。パワー、燃費、防御力、スピード、乗り手のスキル。どれをとってもドドリアンで勝てる隙はない。たったの五機で互角なのはラッキーの積み重ねですね」
ロンは、本物のオペレーターが、淡々と答えるのでいろいろ気になる。
「ほう。マシンの性能差があるのは認めよう、だが乗り手のスキルまでとはどういう意味だ。ドドリアンのパイロットたちは、あれでも実戦三年以上だぞ」
「そう言われましても、あのクティーガルの胸に☆マークが五つあるでしょ。あれは、優秀なクティーガル使いの中でも特に優秀な騎士にしか付ける事が許されていないんです。あの乗り手もきっと高名な騎士に違いありませんよ」
メルドネル人の高名な騎士は、一騎当千と言われる最強の軍団である。その中でも特に優秀と言うことは、尋常な強さではない。
「それじゃあ、どうして五機で互角に戦えている」
ロンもバカではない。クティーガルがありえない程強いことは知っている。
「そりゃあ、武装解除で全く武器を装備していないことと、宇宙港を守る為に手加減しているからですよ」
「それだー」
ロンが急に大声で言った。ロンは、宇宙港を人質に取れば、勝てないまでも動きを封じ込められると判断した。
その時突然管制室の扉が開いた。ロン達のメンバー三人は、振り向きざま扉へ向かって銃を構えた。
三秒ほどシーンとする。
「誰もいねえ。どうして開いたんだ?」
扉まで見に行くが誰もいなかった。
「故障かもしれんな」
「そんなことより、リーダー。クティーガルはどうするんで?」
「奴は、宇宙港に被害を出さないように戦っているんだろ。だったら、宇宙港自体が人質みたいなもんじゃねえか」
ロンはターミナルに放送するマイクのスイッチを入れる。
「そこのクティーガル抵抗を止めろ。でなければ、ターミナルビルを破壊する。たんなる脅しじゃないぞ」
ハチベイは仕方なく動きを止める。
「やったぜ。正義の味方は辛いねえ」
ロンが厭味ったらしい口調で言った。
「リーダー。正義は我々でしょう」
部下たちはまだ、自分たちは騙されている事に気付いておらず、自分たちが正しいと信じていた。
「そうだったな」
パソコンに向かっている仲間に合図をする。すると爆弾の一つが爆発した。