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第13話

 十四時十五分 ターミナル内


 宇宙港にダメージを与えないように気を使って戦っている為、クティーガルは攻め手に欠けていた。それにも関らず数に物を言わせても、圧倒的な性能差の為にドドリアン部隊は攻めきれない。五機がクティーガルと対峙しているが、全く歯が立たなかった。他の四機は周りを警戒している。

「仕方ありませんね。真打の登場です」

 ミーナの声が五十八番ドックから現れたアーマードバトルスーツ、ソードチャリオットから聞こえる。

 ミーナは、ドックにいるみんなが、ハチベイの戦いを見守っている中、一人勝手にソードチャリオットに乗り込んでいたのだ。

「あら、いつの間に」

 ソードチャリオットを見て、エルが言った。


『ミーナちゃん。そんな千年前の骨董品で最新鋭機に勝てるわけないでしょ』

 無線でハチベイの秘書、オウグィンがミーナに言った。

「安心しなさい。父の作った鎧、ソードチャリオットの凄さを知らしめてあげます」

 ドドリアンのパイロット達はミーナが搭乗しているソードチャリオットに注目し、呆ける。

 しばしの沈黙の後、大爆笑する。

 ミーナの乗るソードチャリオットはミーナの父である神が作ったものであるが、もちろんドドリアンのパイロットはそんなことは知る由もない。そして、一般的なソードチャリオットは、地球人が開発、量産したアーマードバトルスーツである。その当時には、地球人用だけでなく、異種族用にもカスタマイズされたり、改良されたりバラエティに富んだ名機として名を馳せたが、もうすでに五百年前に生産中止にされた型だ。

 骨董品価値から高価で売買されているが、実戦で用いる者はいない。実戦では使えない事と骨董価値の高さから。

「私を愚弄するとは良い度胸です。お仕置きします」

 そう言った途端、ミーナの乗ったソードチャリオットはバランスを崩して倒れた。

 ドドリアンのパイロット達は爆笑の渦に包まれた。

「お前ら可愛がってやれ」

 ドドリアン部隊のB班の班長ギャギが言った。するとドドリアン二機が、ソードチャリオットの所にやって来て蹴りを入れる。ソードチャリオットの装甲にヒビが入る。

「あー。ソードチャリオットがー。文化遺産がー」

 ステーブがドックで悲壮な叫びを上げる。

「推定市場価格、五兆バーグを壊すな~」

 そんな声は、もちろんミーナやドドリアンのパイロット達に聞こえるはずもない。

 普通のアーマードバトルスーツの値段が五千万バーグ。この値段は小型宇宙船が買える金額だ。高価な最新鋭アーマードバトルスーツで五億バーグである。ちょうど、ハチベイのクティーガルがこの位だ。このソードチャリオットが、その一万倍の金額なのは、ひとえに文化遺産だからである。

 文化遺産とみなされる理由は、見かけが実用性のある機能美だけでなく、希少価値があるからだ。銀河帝国には銀河帝国規格と言う規格があり、アーマードバトルスーツはその規格の部品で作られている。しかし、ソードチャリオットは、地球人が銀河帝国の一員に加えられる前に作られ始めた為、初期型は地球人独自の規格の部品で作られている。そして、その規格は、歴史遺産・遺跡管理局の文献で確認できるだけで、当の地球人にさえ、現在使われていないからである。

 ミーナのソートチャリオットの部品はすべての地球人規格である。部品をばら売りしても、丸ごと売ってもステーブの言った値段になるだろう。

 と言っても、ハチベイが、正確には歴史遺産・遺跡管理局が介在した時点で、このソードチャリオットが売買されることはない。

 帝国博物館に飾られることになる。ここで破壊されなければ……

「ミーナ様の魔力が尽きたみたいです」

 ドックの中でエルが呟いた。

 その時、ターミナルビルの待合ロビーから管制室へと続く通路で爆発が起こる。

 エムを倒す為に、犯人グループが設置した爆弾が爆発したところだ。

 打つ手なしの状態のまま、ミーナのソードチャリオットはタコ殴り状態だ。

 ボンッ!

 ソードチャリオットから爆発音と共に激しく煙が立ち上る。

『ミーナちゃん。大丈夫。生きてるなら答えて』

 無線でオウグィンが呼び掛けるが応答はなかった。

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