目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第9話

 十四時 ターミナルビル三キロ北


 警備のアーマードバトルスーツ、タルラントが、手に十メートル程の巨大なライフル銃を持って、三機立っていた。

 タルラントはウルクス人用の機体で、機動力、火力共にそこそこ、燃費が非常に良い為、警備などの任務に適している。

「所属不明の機体。ここから先はカーマン宇宙港だ。アーマードバトルスーツでの侵入は許可されていない。引き返されよ」

 タルラントの一機が、宇宙港に近づくアーマードバトルスーツ、ドドリアン十機に警告した。

「どうします? 班長」

 ランバがギャギに聞く。

「かまうこたねえ。そろそろ合図があるはずだ」

 ギャギが歩くのを止めないので、仲間も止まらず歩き続ける。

「管制塔。不審なアーマードバトルスーツ十機が制止を聞かず、近づいてきます。発砲の許可をください」

 警備兵の一人が管制塔に許可を無線で求める。しかし返事はなかった。

 そこにギャギの元へ無線連絡が「大将からヤレってさ」と入る。

「野郎ども。ヤレ!」

 装備は、ドドリアンよりタルラントの方が良かった。しかし管制塔の指示がなかったことと、三対十であることと、奇襲であることが重なって、タルラントはあっさり全滅した。

 ギャギは、倒したタルラントが持っていたライフルを拾う。

「野郎ども、いくぞ」

 十機のドドリアンはターミナルへと入って行く。



 十四時 待合ロビー


 変な館内放送でハチベイが問い合わせる為に近くの窓口へ行こうとする。

「ターミナルビル内は危険です。外へお逃げなさい」

 男姿のクマイアが突然現れて言った。

「さっきは女だったのに、今は男になっているなんて、忙しいのね」

 ミーナは驚く様子もなく言った。

「さっきは女だったってどういう事ですか?」

 レオポルドが尋ねる。

「知り合いみたいだが何者なんだ。俺に気配を感じさせずにここまで近づくとは、ただもんじゃないだろ」

 ハチベイが問い合わせに行くのを中断して聞いた。

「クマイア様どうしてここに」

「同時に複数の質問をされても回答は一つずつしかできません。

 忙しい理由は、このターミナルビルに爆弾が仕掛けられているから、さっき女で今男なのは、戦闘には女の姿より男の方が便利で、私に変身能力があるから、私がただ者じゃないのは、神官エルフのOGだから」

「え、それじゃあ、長老様じゃなかった、クマイア様は女の子だったのー」

 エルとエムが驚く。

「驚くところはそこじゃないだろ」

 クマイアが突っ込む。

 ちなみに神官エルフは例外なく全員女である。だから性別不明のクマイアの性別が初めて判明したことになる。しかしながら、クマイアの性別は、本当は女と言う訳ではなかったが、経緯を説明するとながくなるので、女だと言う事にしておいた。

「なぜ、神官エルフのOGが私を助けるのです?」

 ミーナが尋ねた。ミーナには、神官エルフがミーナを助けることに違和感がある。

「神官エルフは、父上を助けても私を助けたりはしないはず」

「それについては、この危機を切り抜けてからお答えしましょう」

「そんなことより、なぜこのターミナルビルに爆弾が仕掛けられているんだよ」

 脱線しがちな会話にハチベイが重要な事を質問する。

「理由まではわかりませんので、犯人に聞いてください。残念なことに、見つけた一人は殺してしまいましたので、二人目を見つけるしかありませんね。居ればの話ですが」

「つまりその一人目は、少なくとも爆弾を仕掛けていたと言うんだな」

「ええ。間違いなく」

 突然ロビー全体に銃声が響く。

「手遅れのようです」

 すると突然クマイアは消える……

「き、消えた」

 レオポルドが驚き言った。

「ち、あいつ銃声の方へ行きやがった」

 ハチベイが言った。

「良くクマイア様の行き先がわかりましたね」

 エムが感心して言った。

「メルドネル人ならあの位の速さで動ける奴は少なくない。地球人では稀だろうがな」

「たしかに、クマイア様のように動ける魔法戦士は稀です。でも、体術の専門家のエルフならクッマイア様より速く動けるエルフは少なくありませんよ」

 数秒後、激しい銃声があり沈黙した。

「もう片付いたみたいです。とりあえず、ターミナルビルを出ましょう」

 エルが言った。

「出るって、何処にだ」

「ミーナ様を守るのはあなたの役目でしょ」

「ミーナを導く片割れを守るのがお前の仕事だろ。あのトロそうな奴を守れるのかよ」

「エルはああ見えて神官エルフなのよ。死に難さについては私以上なの。あの程度の武器なら死なないわ。爆弾も直撃でもしない限り死ぬ心配はなさそう」

「どうしてそんな事わかる」

 エムはハチベイに写真を見せる。

「これが犯人グループの爆弾みたい。起爆装置は遠隔操作で行うタイプみたい。写真のこれは解除してあるけど」

「どうしてこんな写真が?」

「クマイア様がくれたの」

「い、いつの間に」

「ミーナ様。どこに逃げます?」

 エルがミーナにまったく緊張感のない様子で聞く。

「ターミナルビル中に爆弾が仕掛けられているのなら、宇宙船を停泊しているドックが良いでしょう」

「それでは、善は急げです。エムちゃん頼める?」

 そう言うとエルがニッコリする。

「人使い荒いなあ。で、場所はどこ?」

 エムはハチベイに場所を聞く。

「三十一番ゲートを抜けた先にある五十八番ドックだ」

 一行はエムを先頭、ハチベイをしんがりに走り始める。

「地球人死ね」

 マッカル人がミーナ達の前に立ちはだかり、機関銃の引鉄を引いた。

 機関銃の弾がエムの肩に当たり、肩から血飛沫があがる。エムはそのダメージに怯むことなく銃を撃つ。その一発がマッカル人の額を撃ち抜く。

「大丈夫か?」

「普通人なら重傷ですが、エルフには掠り傷です」

「そうか……お前、魔法戦士じゃなかったのかよ。銃なんて使うなんてよ」

「この銃は魔法銃よ。魔法戦士ならではの武器なんだから」

「やっぱりお前達とは気が合わなさそうだ」

「それは同感です」

 メルドネル人は、銃を使うのは銃士、近接武器しか使わないのが戦士として区別しており、それぞれがプライドを持っている。

 それに対して、エルフはあまり区別しないので、戦士と名乗っていても銃器を使うのに躊躇がなかった。

 一行は三十一番ゲートに到着した。船を停泊しているミーナ達は、ハチベイの持つカードキーで通過できるはずだが、ゲートの電源が落とされている為、解錠できず通れなかった。

「ど、どうしましょう。ハチベイ様」

 レオポルドが動揺している。

「魔法でどうにかならないか?」

 ハチベイがエムに聞いた。

 エムは肯き、呪文を詠唱し始める。

 激しい爆発音とともにゲートが全壊する。

「もっとスマートな方法はなかったのかよ」

 ハチベイが怒る。

「これが一番早い」

 ハチベイは、プルプル震えながら怒りを鎮める。

「俺は、ターミナルビルに戻って、犯人グループの様子を見て来るから、ミーナ達をドックへ頼む」

 その時、ターミナルビルの外から爆発音が響く。宇宙船が大破した爆発音であったが、ミーナ達にその音の正体を知る術がなかった。

「外からみたいだけど。ビルじゃなくて、ドックへ行って状況確認した方が良いんじゃない?」

 ハチベイは、肩をプルプル震えさせる。

「えーい」

 ハチベイはドックへ走る。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?