「な、なにをした」
ハチベイが戦闘態勢を取る。それに呼応するようにエムも戦闘態勢をとる。
「もう少し美味しい物はなかったのですか?」
声はミーナの声であったが、口調や雰囲気は全然違った。
「それしかなかったんです。次からは蜂蜜つけましょうか?」
エルが聞いた。
「そうしてください」
ミーナとエルがどことなく穏やかな空気に包まれているのに、それとは対照的に、ハチベイとエムはピリピリした空気で張り詰めていた。
「何が起きたんだ。ミーナ」
ハチベイが聞く。
「レディを呼び捨てにするべきじゃありませんわ。ハチベイさん」
「レディー」
ハチベイ、レオポルド、ステーブの三人の声が揃う。
「慌てる必要はありません。セーフティモードからパワーセーブモードに移行しただけです」
「なんだ、そのセーフティモードからパワーセーブモードに移行したって」
ハチベイが突っ込む。
ミーナが口調こそ大人っぽくなったが、大食いは変わっていないらしく、メルドネル人用の菓子を食べている。
「これだけ食べても全然お腹の足しになりません。お腹の足しになるものないかしら」
ミーナはハチベイの突っ込みをスルーした。
「パワーセーブモードでは、食べ物の七十パーセントが口内で魔法力に変換されますから、もっとカロリーの高い物を食べたらどうかしら」
エルののんびりした口調から信じられない単語が並ぶ。
「そうしましょう」
「まだ食うんかい」
レオポルドとステーブが突っ込む。
「だから、パワーセーブモードってなんだー」
しつこくハチベイが突っ込む。
「ミーナ様の基礎代謝は二十万キロカロリー。地球人成人男性の百倍食べ続けないと飢え死にしてしまいます」
ミーナの代わりにエルが、のんびりした口調で説明する。
「大食の俺達メルドネル人でも一日あたり、一万キロカロリーなのにか!」
ハチベイが驚きながら言った。
「その膨大な基礎代謝を抑える為に、いくつかのモードがあるんです」
エルは、動じることなく、のんびり口調で解説する。
ミーナには以下の五モードがある。
・通常モード
・エコモード
・パワーセーブモード
・セイフティモード
・スリープモード
通常モードは、ミーナの本来の能力を思う存分使用できるモードで、基礎代謝が二十万キロカロリーとなる。
エコモードは、本来の六十パーセントの能力しか使えないモードだが、基礎代謝が十二万キロカロリーとなる。
パワーセーブモードは、本来の三十パーセントの能力しか使えないモードだが、基礎代謝が六万キロカロリーとなる。
セイフティモードは、活動が可能な最低限のモードで能力も普通の少女なみの能力しか使えない。その代わり、基礎代謝は二千キロカロリーとなる。
スリープモードは、生命維持する為のモードで仮死状態になり、基礎代謝はほぼゼロに近いカロリーとなる。
「ミーナ様にそんな機能があるとは知りませんでした」
レオポルドはエルの長い説明に感服している。
「機能とは人聞き悪い。わたしはロボットではありませんよ」
少し不機嫌そうに、ミーナは言った。
『な、何者だ!』
館内放送がそこで途切れる。
一同は、全員落ち着いているが、空気は急に張りつめる。
「なんでしょう。今の放送は?」
ステーブが誰に聞いたのか分からないが、質問するかのように言った。
「確かに気になるな。一応、問い合わせてみよう」
ハチベイが言った。
ハチベイは、エリートであるにも関わらず、とにかくフットワークは軽く、実直だ。
今回も、ハチベイはすぐに行動に移った。