同時刻十三時 土産物屋、ヤスカロウ
ピンクのミニスカートメイド服を着た二人が売り子をしていた。一人は地球人の少女で、もう一人はネバーラン人だった。
地球人もネバーラン人も惑星カーマンでは少数派である。
元々、惑星カーマンには、知的生命体は住んでいなかった。そこに惑星カーマンを発見した、マッカル人が移住し、開拓を始めた。そして、大農業惑星となった。
大した歴史がある惑星ではないが、その為、この惑星の人口の八十パーセントがマッカル人だった。
土産物屋ヤスカロウには、二人も売り子が居いるが、全く暇そうである。それもそのはず、宇宙港の広さに対して人が少ないのだから。
「あ~。暇」
地球人で、赤い髪のショートヘアの少女ピィが愚痴る。
「楽してバイト代出るんだから良いじゃない」
ネバーラン人の少女チーデスが試食品用のお菓子を食べながら言った。
ちなみにネバーラン人は、地球人に似ているが、地球人よりやや小柄、髪は金髪、耳は尖っていて、華奢な体つきをしている。
ネバーラン人の特徴もあってか、地球人の感覚からすると幼女に見えなくもないが、人間に換算すると十五、六歳ぐらいで、ちゃんとアルバイトができる年齢だ。
「あんたは本当に呑気ねえ。商品が売れてボーナスが出るように頑張ろうと思わないの?」
ピィは溜息を吐く。
「でも、この店の店長に商才がないって言ったのはピィじゃない」
別にピィに商才があって言っている訳じゃない。ピィにはまともな知能と判断力があるだけである。
「普通商品は、売れそうな分だけ仕入れるでしょ? あの店長そう言うのお構いなしじゃない」
「そうなの?」
チーデスの答えにピィは呆れる。
「おーい。バイト二人こっち来い」
マッカル人の店長が呼ぶ。
マッカル人は、百三十センチメートル前後の身長でずんぐりした体形をしており、皮膚が真っ赤である。アゴの犬歯が尖っているのが特徴だ。
地球人的には、凶暴そうに見えるが、特にそんなことはなく、個体差はあるので一概には言えないが、普通は温厚な種族である。
二人は店長の元へ行く。
「お前達に朗報だ。この宇宙港にメルドネル人が来ているのを知っているな」
「はい」
ピィが答える。
ピィは宇宙船のドックから、メルドネル人二人と大勢の地球人が降りてくるのを見ていた。
メルドネル人は、大からの種族なので、惑星カーマンに居たら、まず目立つ。
「それでメルドネル人用の土産を仕入れた」
そう言うと、ピィに納品伝票を見せる。商機と見ると動きが速いのは良いのだが、その動きは常に暴走であった。ピィはその納品伝票を見て唖然とする。
「この商品ってそこにある箱がそうですよね」
ピィは恐る恐る尋ねる。
「さすがピィ。地球人は頭が良い」
「ええ。地球人の平均並みに頭良いと思います~」
ピィは上辺だけは繕っているが引き攣り笑いだった。
一箱二十五個入りで五十箱も仕入れている。それに対して購入する可能性がある人物はたったの二人。どうやっても売れ残るのは必至だ。下手すると一個も売れないかもしれない。ピィはそれを理解しているだけで、このバカ店長は理解していない。
ちなみに、マッカル人みんながバカなわけではない。この店長だけの特徴である。
「この商品を全部売ったら、ボーナス出すからな~。ガンバって売ってくれ。一箱は試食用に使っても良いから」
そう言うと笑って奥に行ってしまう。
「四十九箱も売れるか!」
ピィは怒る。
「メルドネル人が来ているって言っても、二人だけだもんね。確かに四十九箱は売れないわ~。別の種族に売っちゃえば。例えば地球人とか」
チーデスが言う。
「売れるわけないでしょ」
種族によって食性がまったく違うのだ。メルドネル人に食べられるからと言って、他の種族も食べられるとは限らない。ただ、メルドネル人の食料は、比較的多くの種族でも食べることができる事で有名ではあった。が、問題はあった。
「でも、メルドネル人の食べ物は地球人も食べられるんでしょ」
「毒じゃないけど、カロリー高すぎ。これ一個二千キロカロリーもあるのよ。これ一個で成人男子が一日で摂取するカロリーなんだから」
「つまり食べるととっても太っちゃうって事?」
ピィは沈黙で肯定する。
「大変だね。これは何がなんでもメルドネル人に売り付けないとね」
チーデスが悪戯っぽく笑う。
「でも、どうやって」
ピィはジト目でチーデスを見る。
「あいつらの仲間に地球人の子供がいたじゃない。その子供を利用するのよ」
「だからどうやって」
「あたしがどうにかするから、ピィは周りにいる大人をどうにかしてよ」
「トラブルは起こさないでよね」
「わかっているって」
二人は持ち場にもどる。