銀河帝国歴三八四三年五月十一日
惑星カーマン カーマン宇宙港
カーマンの主要産業は農業で、開発が遅れていた。それで宇宙港もたったの一つ、カーマン宇宙港しかない。その為、ハチベイたちの宇宙船は、必然的にカーマン宇宙港に停泊することになった。
カーマン宇宙港付近は、温暖な気候でメルドネル人、地球人共に過ごしやすい環境である。
ハチベイは到着したら、すぐに燃料を入れずに、宇宙船を検査してもらうことにした。まだ燃料が無くなるには早すぎるから、宇宙船の調子がどこか悪い可能性があると、ハチベイが判断したからだ。
その検査の間、暇を持て余し、腹が減ったとうるさいミーナがとても邪魔だったので、地球人エルフ種の学者二人、レオポルドとステーブを付けて、ターミナルビル内のレストランに行かせた。
十三時 レストラン、ハネヤスメ
二人の少女とそれに付き添うようにおっさん二人がいた。そのおっさん二人は、ミーナの付添いである地球人エルフ種のレオポルドとステーブである。レオポルドは真面目そうな中年男、ステーブはオシャレなナイスミーナル風の男だった。エルフ種と言っても普通の地球人と外見上の違いは全くない。
「いいなあ。わたしも大人になったら、宇宙旅行して、かっこいい人と出会いたい」
フリルの付いたカラフルなドレスを着こなしている少女が、遠くを見ながら言った。この少女は、宇宙港に着いてから知りあって友達になったマチコだった。
「マチコは、ロマンチストだのう~」
白いドレスに身を包んでおり、長い黒髪が映えている人形のような少女には似合わない言葉遣いだ。この少女こそ女神ミーナだ。
「ミーナちゃんは、かっこいい人と会ったことないの?」
「そもそも人間とあまり会っていないからのう。かっこいい奴など会うはずがない」
ミーナは食べ物を口に放り込みながら言った。
「ミーナちゃんみたいに、専用宇宙船だと出会いはないのね。金持ちの贅沢な悩みね」
「わらわは別に金持ちなんかじゃないぞ。あの船はハチベイの船じゃ。わらわの物じゃないしのう」
「あのメルドネル人の?」
「そうじゃ」
「ミーナちゃん。メルドネル人をお供にしているなんてすごい~」
ミーナは料理を食べ終わると、さらに注文しようとする。
「食べすぎはお体に良くないですよ」
レオポルドは注文を止める。
「わらわはまだ空腹なのだ」
レオポルドはミーナをたしなめてレストランを出る。ミーナ一人で大人十人分は食べている。ミーナはどうみても五、六歳程度の子供のようであり、そのミーナが一人で食べたとは信じられない量だ。
一緒に食事をしていたマチコはお子様食一食分も食べきれていない。
「ごちそうさまです。レオポルドさん。美味しかったです」
マチコは、六歳とは思えないしっかりしたお嬢さんだった。
同時刻十三時 ミーティングルーム
空港には、色んな人が集まり、また、ビジネスマンなどは、ミーテイングなどをする。その為に、空港内の彼方此方に様々なミーティングルームが設置されていた。内密なミーティングができるように、防音、盗聴を防ぐ機能を持った部屋から、ガラス張りで、聞き耳立てれば話し声も外まで聞こえてしまいそうな部屋まで。
この部屋は、一応個室になっており、壁はちゃんとしたものだが、防音などの特別な機能はない部屋であった。短時間、三十分までなら無料で借りる事ができる部屋である。
一人の男と二人の美女がいた。
一人の男は地球人エルフ種の若者風で端正な顔つきをしていて、黒いローブに茶色のマントを着ていた。
二人の美女も地球人エルフ種の少女で一人は白いドレスを着ており、もう一人は運動しやすそうなスーツ姿だ。
「では、おさらいしましょう。エル。君の使命は何だね?」
男が尋ねる。
「私の使命は、女神ミーナ様が正しい道を選べるように教え導く事です」
白いドレスを着た少女エルが答えた。
「正しい道とは?」
「女神ミーナ様が選ぶ道です」
男はニッコリする。
「では、エム。君の使命は何だね?」
男はスーツ姿の少女エムに尋ねる。
「エルを護衛することです」
「では、女神ミーナ様が襲撃を受けたら、お前は何とする?」
エムは考え込む。
「ミーナ様を守るのは私の使命ではありません」
男はニッコリする。
「正解です」
「ありがとうございます。長老様」
「二人とも長老ではありません。今はクマイアです」
そう言うと男は、なぜか胸元が開いた黒いドレスを纏った雰囲気のある美女に変身していた。
長老、今はクマイアと偽名を名乗った存在は、魔術にも長けていたので、詳しい事を知らない者は、魔法で変身したと勘違いする。しかし、これは魔法ではないので、魔法感知や原型感知、変身感知等の魔法を使っても正体を見破る事は出来ない。クマイアの体に備わった変身能力であるからだ。
ちなむに服は、元から来ていた服を亜空間に送り、今着ている服を着ている状態で召喚した。服自体は普通の服に過ぎない。
「すみません。クマイア様」
「あなた達が行動をしやすいように少し工作してきます。しばらく待っていてください」
そう言うとクマイアはニッコリ微笑み、去って行った。