銀河帝国歴三八四三年五月十日
地球人の女神ミーナ。地球人発祥の惑星である地球の遺跡に封印されていた。そこから解放されたのが、ほんの二日前の事である。地球の遺跡に封印されていたのは、ミーナを含む四人の女神であった。
伝説では、三人の女神に三人の親の一人の神が封印されているはずだったが、事実は違っていた。
女神の封印を解除した者たちは、銀河の支配者、メルドネル人の三つの有力な陣営のそれぞれの発掘団と中央政府の遺跡発掘の監督を司る役所、歴史遺産・遺跡管理局の四つの団体で構成された。
三つの発掘団は、自分達の思惑だけで四人の女神の内、三人の姉女神をそれぞれを分けあって、歴史遺産・遺跡管理局の指示も聞かず、勝手に連れ去った。歴史遺産・遺跡管理局からは、局長のハチベイこと、ハツィイヴェーイルシュラインまで参加していたにも関わらず。
その為、歴史遺産・遺跡管理局の元に残ったのは末娘のミーナだった。
仕方なく、ハチベイは、自分たちのスタッフだけで、遺跡を調査し、遺物等を整理し、宇宙船に積み込み、歴史遺産・遺跡管理局へ戻る事にした。
「ハチベイ様。積み込みが終わりました」
地球人スタッフたちからハチベイと慕われている局長、ハツィイヴェーイルシュラインは、メルドネル人貴族種と言われる種族であった。
メルドネル人貴族種は、地球人よりかなり大きく、知性も高く、運動能力も非常に優秀な種族である。ハチベイも、二メートル二十五センチメートルぐらいあり、メルドネル人にしてはやや痩せ気味だが、地球人にはガッチリしているように見える。それでいて、奢ることなく、物腰は柔らかいので、誰からも慕われていた。これでも、銀河帝国の文化庁No2。エリート中のエリート官僚なのだ。
「ご苦労でした。忘れ物ないか、確認したら、全員乗船してください。準備ができたら、帰りますよ」
しばらくすると、ハチベイの元に二人の地球人エルフ種の二人がやって来た。
地球人には、ノーマル種とエルフ種がいる。見た目は、どちらも殆ど変わらないし、混血進んでいるので、違いが殆どなかった。とは言え、エルフ種はノーマル種と違った特徴がいくつかあった。ケガ等の回復が非常に早いこと、寿命が非常に長いこと、環境への適応能力が非常に高いことなどだ。しかし、ノーマル種との混血のため、これらの特徴が薄い者も増えていたが、この二人は、バリバリのエルフ種である。
彼らのようなエルフ種は、ハイエルフと呼ばれていた。
「ハチベイ様。確認も終わりました」
レオポルド・ラン、実直そうな顔つきで、学者とは思えないガッチリした体格の男が言った。このレオポルドと言う男は、これで歴史学者なのだ。
「ハチベイ様。こちらも確認終わりましたよ」
ステーブ・グラン、爽やか系細マッチョのアーマードバトルスーツの専門家である。
「どこまで持ち出すか悩みましたけどね。神のアーマードバトルスーツの謎が解ければいいのですが」
そう言うと、ステーブ溜息を吐く。
「あんなボロ機体だけでなく、他の保存状態の良い三機もあれば、謎も解けやすいと思うんですが」
ステーブが残念そうに言う。
「しかも、対となる乗り手の女神様も一緒に連れて行くなんて、なにか良からぬことでも企んでいなければ良いのですが」
レオポルドが言った。
「すまんな。よもやあんな強行な手段で、女神とアーマードバトルスーツを持ち去るとは思っていなかったのだ。もう少し、メルドネル人のスタッフを多めに連れてくれば良かった」
地球人の遺跡の調査である。地球人の方が高いモチベーションを持ってやってくれるだろうと思ってスタッフを地球人で固めた。その為、三つの発掘団は、大勢の武闘派のメルドネル人を使って、強引に持ち去ったのある。
「あ、そうだ。ハチベイ様。あの、オンボロ、改造しても良いですか?」
ステーブが聞いた。
宇宙船の中に積み込んでいた外装がボロボロに壊れているアーマードバトルスーツがあった。残った女神の機体なのだと推測されたが、まったく伝承にも記録にも、また、この施設内の機器の中のデータにもなかった。
「神の機体なら、自己修復機能が備わっていると聞いた。直す必要があるのか?」
「直すんじゃなくて改造するんですよ。ちょうどソードチャリオットの部品がいっぱいあるので、それを使えば使えるようになるんじゃないかと」
「どう思う?」
ハチベイは、 レオポルドに振る。
「私は、アーマードバトルスーツは専門外ですが、伝承にない女神と対となると思われるオンボロ機体から察するに、女神たちの父神が作っていた途中で破棄した物ではないかと推測しております。技術的価値がないのなら構わないかと」
「なら、好きにすると良い」
ステーブは喜ぶ。
こんなやり取りがあった数分後、今は地球人が一人も住んでいない、地球を後にした。
その後、すぐである、四人目の女神、ミーナが目覚めたのは。
見た目は六歳ぐらいの少女で、黒髪で黄色人種の肌で、人形のようだった。しかし、三人の姉たちと比べると明らかにポンコツだった。
三人の姉たちは、コールドスリープの装置から解放されるとすぐに意識を取り戻し、女神としての風格をすぐに取り戻し、高度な知性としなやかな美貌を兼ね備えていた。
それに引き換え、残った少女は、なかなか目覚めなかった為、点滴をうち、ベッドに寝かせて置いたのだ。そして、やっと目覚めたかと思うと、身支度も自分一人で出来ず、ワガママでドジッ子、どこから見ても普通の少女にしか見えなかった。
レオポルドは、目覚めると、少女を保護している部屋に呼ばれた。
目覚めた末の妹と思われる女神に話しかける。
「お嬢ちゃん。お名前は?」
「女神であるわらわに、自分の名を名乗らず名を聞くとは失礼であろう」
「私は、レオポルド・ランと言います。歴史学者です」
「わらわは、ミーナなのだ」
レオポルドは、歴史上にでてこないので首を傾げる。当然、女神たちを発見した、地球の施設の記録もいろいろ調べたが、ミーナと言う名の女神の名前はなかった。
「お父さんは誰?」
「神に決っているのだ」
そう言うと、ミーナのお腹がなる。
「お腹減った。何か食べさせるのだ」
「点滴を打っていたから、栄養は足りているはずだけど、お腹の中はカラだからね。少し食べようか。それじゃあ食堂へ行こう」
レオポルドは、立ち上がり、出口へ向かう。ミーナも立ち上がると、歩き出そうとすると椅子に足を引っ掻けて転ぶ。すると近くに居た女性スタッフが助け起こす。
「痛いのだ。誰がこんなところに椅子を置いたのだ」
今、自分が座っていた椅子じゃないか……
レオポルドと女性スタッフは、ミーナを宥めるのに苦労する。
宇宙船の燃料が残り少ない事に気付いたのは、その翌日のことであった。その時、もっとも近くにあった惑星がカーマンであった。