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第14話 〜お兄ちゃんの妹は契約したようです〜

 〜前回までのあらすじ〜




 謎のファンタジーな異世界へと、突然転移させられた。俺、ヤヒロ。と、実の妹のヒナコ。そして、幼なじみの伊織。さらにトレントのような謎の木の化け物こと、キミーと色々あった末に仲良くなり、王都で神官をしているという、青年のセージに出会う。(面倒くさいから、あとの説明は以下略!)……とまぁ、色々な困難を何とか乗り越え俺たちは、無事に森を脱出する方法を見つける!


『どうやらココからが、俺たちのファンタジーな異世界生活の本番が、始まろうとしていた……!』




 ……と、意気込んでちょっとカッコつけてみたのが、前回までの話である。

 なぜ前回までのあらすじを説明したかって? ……まぁここまでの話から新たな話に切り替わるであろう、一つの節目としてが、俺としては一つの理由。


 そしてもう一つの理由。それは……――――――。




「嫌だぁぁああああああああああああああああ! キミーと離れたくないぃぃぃいいいい!!」

『ガウガウガゥゥゥゥゥウウウウッ!!』


 街まであと一歩。……というか、眼前まで来ているというのに、今まさに目の前で妹とキミーが別れたくないと、駄々をこねているからである。


「すみません! この街には『対魔晶結界たいましょうけっかい』という、この近辺の魔獣や魔物が街へ入らないように、結界が張られているんです!」


 セージはあまりにも泣きわめく妹とキミーに「先に言っておけばよかったです!」と、それはもう大変申し訳なさそうに謝っている。


「いい加減にしなさい、ヒナ! この街に、キミーさんは入れないんですよ!?」

「なんで!? キミーはこんなに、いい子なのに!!」

『ガウ! ガウガウガウガガウゥッ!!』


 ヒナの言葉に、キミーも「そうだそうだ!」と言わんばかりに反論する。伊織も「参った……」と言わんばかりに額に手を当てて、大きなため息をついている。


 この妹、昔から気に入ったものに対して並々ならぬ感情を持ってしまう性分である。

 あれは妹が幼い頃のこと。祖父母の家で飼っていた猫をカバンに入れて連れて帰ろうとして、両親がそれを全力で制した。

 他にも、気に入った花や道端に落ちていた石ころ。挙句には昆虫の幼虫を「そだてゆ!!」と言って、目を輝かせながら素手で掴んで持ってきた時は、正直俺もドン引きした。

 もちろん幼少のこと故、本人は幼虫を素手で掴んでた事など、全く覚えていない。ちなみに、幼虫はそっと俺が庭の土へと返してあげた。




 伊織が妹とキミーを早く離したかったのは、この前例があった為だ。




 そして話を戻そう。しかも何だかんだとこのやり取り、30分近くやっているのである。


「ヤダヤダヤダ! キミーも一緒に行く!!」

『ガウガウガゥ!!』

「だから! キミーさんは、街の規約で入れないんですって!」

「本っ当にすみません! すみません!!」


 駄々っ子に、お説教。果てには一ミリも悪くないのに謝る姿に、ワーワーギャーギャーと言葉が飛び交って、正直物理的に耳が痛くなる。


 そろそろこの光景にもそろそろうんざりしてきた俺は、「あーあー! とりあえず静粛にー!!」と何度か手を叩いて、強制的に全員を黙らせた。

 俺は「コホン!」と一度咳払いをすると、妹へと向き直った。


「とりあえずヒナ。お前はキミーとを、しなきゃいいんだろ?」


 妹は服の端をギュッと握りながら、「うん……」と頷いた。


「……ってことでセージ。何とかウチの妹とキミーの『』は無いか?」

「『』……ですか?」


 俺の問いに、セージは「うーん」と頭を抱えて悩む。そして数分の間を置いた後に、「そうだ!」と何かを閃いたようにパーッと顔を明るくする。


「『使』として、ヒナコ様がキミー様を使役して、使い魔にするのはどうでしょう?」

「「「使?」」」


 聞きなれない言葉に、俺たち三人は首を傾げる。


「はい! 魔獣使いになるには、ある程度の魔獣や魔物に対しての知識や、お互いの信頼関係が必要です。ですが、ヒナコ様とキミー様の今の信頼関係なら、使役の為の契約もスムーズに行えると思います!!」


 妹とキミーは互いに視線を交わすと、同時に頷いた。


「分かった! キミーと契約して魔獣使いになるよ!!」

『ガウガウガゥウウウッ!!』


 セージは、ホッとしたように笑う。


「魔獣使いには、一つに生まれながらの素質も関係してきますが。初めての契約ですので、契約の儀を僕が仲介して……」


 妹はセージの説明が終わる前に、キミーへと手を伸ばす。


「キミー。僕と契約して、使い魔になってよ」

『ガウッ』


 妹はどこぞのインキュベーターみたいなことを言うと、キミーが枝を伸ばして妹の手を取った。


 すると、一人と一匹の繋がれた手の中から眩い光が現れた! ……かと思うと、キミーと繋いだ妹の右手首に緑色の蔓を基調とした、所々に花をあしらったミサンガのようなものが巻かれていた。


「……ん?」


 セージは貼り付けたような口元だけの笑顔に、思わず声を出して首を傾げる。一方の俺と伊織はと言うと、そもそも契約が成功したのか。はたまた始まって終わったのかも分からずに、セージの方を見た。


「う、うそ……?」

「えっと……。終わった、のですか?」

「そ、そんな……まさか、ありえないです!」


 セージの言葉に、伊織の顔がサーッと青ざめる。


「……っ! まさか、ヒナに何か大変なことでも……!?」

「落ち着けイオ。あれは殺しても死なないって」

「も〜! その言い方は酷いよ、ヒロくん!!」


 プクーっと頬をふくらませて、不満そうにする妹。


「おー、すまんなおヒナさんやー。で? 契約は終わったんかーい?」

「多分〜? 何か、綺麗なミサンガをゲットをしたよ〜!!」


 脳天気な我々兄妹とは対称的に、ワナワナと口元に手を当てるセージ。確認がてらチラッと見ると、セージは無言でコクコクと頷く。どうやら契約は終了したらしい。

 多分この反応を見るに、この世界の常識の想定外で。


「そんな……熟練の魔獣使いでも、こんなにもあっさりと契約をしてのけた人なんていなかったはず。なんで、え?」


 セージは混乱してるのか、見るからに頭を抱えて、一生懸命に思考を巡らせている。


 俺は一応、妹の安否を見るために近づく。おー、綺麗なミサンガ(?)だ。


「俺の予想だが、ミサンガコレが切れない限りはキミーとの絆……。まぁ、契約上は、いつでも一緒にいれてると思うぞ?」


 妹はにっこり笑うと、「やったね! キミー!!」と言ってキミーに抱きついた。一方のキミーも『ガウッ!!』と嬉しそうに返事をする。

 俺は「良かったなー」と適当に返しながら、二人を祝福するために軽く手を叩く。


 そして今生の別れのように、互いに互いを見送り合う、妹とキミーの姿を俺は遠目から見守る。


「さてと。そろそろ日も暮れるし、街に入るか」


 俺は、この世界で初めての夕日を見る。それはそれはとても赤く、美しい夕日だった。


(きっと俺は、この夕日を忘れないだろう……)


 柄にもなくくさいセリフを心で呟きながら、俺たちは街へと足を向ける。




 未だに思考がついてこれていない、約二名を除いて。

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