「さすがはイオ。と、言うか……やっぱり凄いな、お前は」
俺たちは先程、伊織の指し示した方角へと歩きながら、街を目指していた。
「いえ、それほどでは……。夜には星座を追うという方法もありますが、こちらの世界と私たちの世界では、星座の位置は当てにならないと判断したので。まだ日が登っている間で本当に良かったです」
「確かにな。まだこの世界について分からないことだらけだから、俺たちの世界と同じという考えは、多少捨てた方がいいよな」
俺と伊織は道を間違えないように、地図を慎重に確かめながら話す。
一方の妹とセージはというと、キミーの枝に腰かけながら会話をしている。妹がこんなにも初対面の人と打ち解けるのが早いのは、セージの人柄の良さのおかげだろう。キミーも二人を乗せながらどこか嬉しそうに、俺たちの少し先を歩きながら、歩幅や速度を合わせて歩いてくれる。
「正直言うとさ。俺とヒナだけだったら、きっとココらでゲームオーバーだったよ。マジでイオがいて助かった。ありがとうな」
伊織はパチクリと驚いた顔をすると、ふいっと顔を逸らし「いえ、大したことはなにも……」と小声で言った。この幼なじみ、素直ではないが照れると耳が赤くなる癖がある。クールに見せてるが、本当は照れてるのだろう。
俺がクスクス笑うと、不服そうに睨まれた。まぁ、そういう所が自慢の幼なじみの、可愛い一面の一つだ。
「ヒロくーん、イオー。なんか楽しそうな話してるのー? 私も混ぜてよー!!」
妹はまるで鉄棒に足をひっかけるように枝に膝をひっかけては、ぶらーんとぶら下がりながらこちらを見る。
「何も面白い話なんてしてねーよ。危ねーからそれやめろ! あと、腹見えてんぞー」
「ぬっ! ヒロくんのえっち〜!」
妹はどこも恥ずかしげもなく枝に座り直すと、膝丈近くあるブカブカのTシャツをポンポンと、軽く叩いて元に戻した。
「あの、ヤヒロさん……。ヒナにはもう少し、女性としての意識を持たせた方がいいのではないでしょうか?」
「それは兄貴である、俺としても同感だ。しかしあの妹が、それを素直に聞くと思うかね?」
伊織は地図で顔を隠しながら「思いません……」と、恥ずかし気味に言った。
ウチの妹も伊織程ではなくとも、少しは見習ってはくれないだろうか?
「『女子力』って何かねぇ〜。俺は男だから、サッパリ分からん」
「まぁ『女子力』と一括りに言っても、価値観は人それぞれでしょうし。ヒナも年頃の女性のように、羞恥心を持っていただければ、少しは変わるのでしょうが……」
「あの引きこもりにそれがあったら、こっちも苦労しねーよな」
「全くもって、同感です」
妹の将来を考えると、不安しか湧いてこない俺と伊織は、同時にため息を着く。ふと、それが可笑しくて、二人して笑い合う。
「ねー! やっぱりなんか、二人で面白い話してるでしょー! 私も混ぜてったらー!!」
振り返りながら妹は頬を膨らませ、手足をジタバタさせては、不満そうにこちらを見ている。
「今後の方針について考えてんだよ! お前の学力が落ちないように、こっちでも伊織先生がビシバシ鍛えてくれるってさー!!」
「そうですよー、ヒナ。現実の世界に戻ってから赤点で補習なんて、私の家庭教師としてのプライドが許しせんよ!」
「ひゃ〜!
妹の叫び声が森中に響く中、ようやく森の終わりが見え始めた。
「あ、見えました! あそこが僕が言ってた街です!!」
セージが遠くを指さして、俺たちに報告してくれる。
どうやらココからが、俺たちのファンタジーな異世界生活の本番が、始まろうとしていた……!