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第12話 〜お兄ちゃんは幼なじみの解説授業を受けるようです〜

「え、分かったの? マジで?」

「まぁ、あくまで推測ですが。大体の方角はあってると思います」


 我が自慢の幼なじみは、冷静に……それはもう、クールでスマートに。この問題を解決してみせた。


「こんな簡単に解決するなんて……す、凄いです!」


 セージは自分より年下のはずの伊織のことを、尊敬の眼差しで見る。

 しかし、そんな事で黙ってないのが俺たち兄妹の共通点だった。


「いやいやいや、なんでなんで? もう少しkwsk詳しく

「イオすごーい! でもどーしてヒロくんには分からなくて、イオは分かるの?」

「おい、なんだその言い方! お兄ちゃんのガラス細工のように繊細な心は、若干傷ついたぞ!?」


 俺たち二人の不毛なケンカを見ながら、伊織はため息をつき、指を三本立てた。


「三つです。三つの仮説と方法から距離と時間、そして方角を割り出しました」


「「三つ……?」」


 俺と妹は伊織先生のありがたーい解説を聞くために、その場に正座した。ちなみにセージも、思わず俺たちに習って静かに正座した。が、こちらはどことなくワクワクとしているのは気のせいだろうか?


「まずは『』です。こちらで距離と時間を……、セージさんの歩く速度から割り出しました」

「え? 僕からですか?」


 セージはキョトンと自身を指さしながら、頭の上に大きなハテナマークを作っていた。


(『』……どっかで聞いたような……?)


 何だったかな? 最近歳のせいか、物忘れが酷い気がする。後ろのセージは論外として、隣の妹も「うーん」と唸ってるということは、聞き覚えはあるに違いない。

 俺たちを悟った優しい伊織先生は、小さくため息をつくと、木の枝で円を書いて説明を始めた。


「『』とは、『速さ イコール 距離 ÷ 割る 時間』……つまり『』・『』・『』のいずれかを割り出すための、公式のことです」

「あぁ、それそれ。そう言えば習ったことあるな、それ」

「何となく、思い出したよー!」


 伊織先生は頭を抱えると、「学生時代を卒業して時間の経つヤヒロさんはまだしも……。ヒナ、アナタは現役の中学生でしょう……」と、家庭教師として嘆きの言葉を漏らした。


 では。ココからは俺も学生時代に戻ったと思って、伊織先生の解説を聞くことにしよう。現役の学生は予習・復習と思って聞こう。


「コホン。……話を戻します。先程セージさんに、普段の歩き方で一定の距離を歩いて頂いたおかげで、セージさんの大体の歩く速度を確認しました。つまり、『』が分かりました」


 なるほど、先程セージを歩かせたのはその為か。


「次に、『』ですが。セージさんは『 』に森へ訪れた、と仰りました。人間が歩く距離は、大体限られています。セージさんがココに訪れ、私が気絶……いえ、意識を失っている間。そしてセージさんが意識を失って、戻るまでの時間と移動を考えて、森と街との距離はさほど離れていないと考えました」


 なるほど、なるほど。そこで『』を割り出したのか。やはり我が幼なじみは賢いな。


「そして最後、『』ですが……。コレはもう、正直予測でしかないのですが、方法は一応知ってても損は無いと思います」


 伊織先生は空を見上げ、周囲を見渡しながらキミーへと近づく。キミーはというと、そんな伊織にビクビクと怯えている。

 それを察したのか「別に、とって食ったりはしませんよ……」と、伊織は苦笑した。


「ちなみに、こちらは二種類の方法で確認しました。まず一つ目の方法は、『』と『』から割り出しました」

「「「『』から?」」ですか?」


 伊織は頷くと、キミーの影を指さしながら説明を始める。


「はい。通常、太陽は東から昇って、南を通り、西へ沈みます。その際に影と太陽を見ることによって、粗方の方角を知ることができます。例えば『影が西側こちら側なら』。逆に、このように『影が東側こちら側なら西』になります。また、影が真下……なら、と推測できます」

「な、なるほど」


 伊織先生はそれはそれはもう、分かりやすく説明をしてくれる。


「先程セージさんに季節を伺ったのは、太陽の高さを知るためです。こちらの世界ではどうかは知りませんが……。私たちの世界では、夏場は太陽の頂点に達する高さが高く、冬場は逆に低いのです。だから日照時間が夏と冬では、大幅に異なる。そして春……または、秋はその中間の高さ。……そう考えるのが、一番分かりやすいかもしれませんね」


 確かに理科の授業で、そういうのを習った気がするな。もう何年も前だから、記憶は薄らとしかないが。


「そしてもう一つの方法。……補足ですが、こちらは『』が、教えてくれました」

「「「『』……?」」ですか?」


 伊織先生は頷くと、少し歩いて俺たちを手招きする。俺たちが居た開けた場所とは違い、鬱蒼とした中に苔の生えた石や木々を指さした。


コレを見て、なにか気づく点は無いですか?」


 俺たち三人は、伊織先生からの問いに頭を悩ませる。


(苔を見ても、気づく点なんて特に……)


 そこで大きく「はい!」と挙手したのは、我が妹だった。


「はい、ヒナ」

「苔が片方、決まった方向に寄ってる!!」


 伊織先生は口元を緩めると、「正解です」と優しく笑った。

 なるほど、確かに。言われてみれば、苔があるのはどれも片側によってる。


「コレは山岳地帯で、大雑把に北を見つける方法の一つです。先程ヒナが言ったように、このように苔が片側に寄って生えている。そして、生えている側は基本的に『』、とされています」

「な、なるほど……」


 そうして伊織先生は、地図でよく見る四方の記号を地面に書く。確かに先程の説明が正しければ東西南北……。全ての方角を今、俺たちは理解した。


「以上の方法と仮説を持って、私たちが居るのはこの周辺。そして、街があるのはこちらの方角だと、私は結論づけます」


 伊織はそう言って、俺たちに自身の知識と仮説を元にした説明を終え、一礼した。俺たちは伊織先生に、感謝と威厳を込めて盛大な拍手をした。

 俺は思わず『ゴクリ』と、喉を鳴らす。




 さすがは自慢の幼なじみ……。こういう時、本当に頼りになるな!!

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