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第10話 〜お兄ちゃんは頭を抱えたようです〜

 さぁ、まずは状況を整理してみようじゃないか。


 まずは俺こと、神崎八尋(21歳)。日本に暮らす平々凡々なゲームが好きな、ただの一般人のゲーオタだ。

 そして俺の妹の陽菜子(14歳)。極度の人見知りで引きこもりだが、実は好奇心旺盛なことを除けば、こちらもただの一般人のオタクだ。

 そして幼なじみの和泉伊織(16歳)。文武両道で、引きこもりな妹の家庭教師をして貰ってる。自慢のできる幼なじみだ。ちなみに、こちらは非オタクだ。


 そんな俺たち三人はある日、突然現れた謎の少女Aから渡された箱を開けてみたら、なんとゲームソフトが入ってた! 好奇心旺盛な妹は、早速起動しちゃうよね! そしたらビックリ! 気づいたらファンタジーな異世界に飛ばされた!!


 訳も分からずに立ち往生してたら、妹の姿がなくて俺はもう焦る焦る。そしたら妹ったら、謎の木の化け物に追っかけられてて。(もー何してんだよコノヤロー☆)


 色々あったが木の化け物、改めキミーとは和解に成功! めでたしめでたし!


 ……なーんて上手いことは行かず、今度はキミーが見つけたのは、気絶した白装束の人物。頭から血を流してて大変! 手当して介抱してたら目が覚めて、話をしてみたら凄くいい子! なんとこのセージくん、王都で神官をしてるんだって! (わーすごーい)


 でもでも、まだ苦難は続くの。なんとセージの話によれば、日暮れまでに森を出ないと、危ない魔獣たちが出るんだって! なんてこった!! (パンナコッタ!!)


 セージの探し物を手伝いつつ、森を抜けようって話になったんだけど、ここでも大問題! なーんと! セージは目的地につけてもんだって! (おいおい、マジかよ……)


 地図はあるけど、誰も読めない! 今いる場所も分からない! もー絶体絶命! どうなるの俺たち!?




 え? なんでこんな口調なのかって? そんなの決まってるじゃーん☆




「現実逃避だよ!!」




 俺は全身全霊を込めて、この森に響き渡るくらいの声量でそう叫んだ。そして遅れて、微かに山びこのように返ってくる。

 妹は不振な顔をし、セージは驚いて目を大きく開いている。


「ヒロくん、誰に言ってんの?」

「えっと、大丈夫ですか? ヤヒロさん?」


 約数十分前にセージのマイペース&マイナスイオンオーラにより、セージへの警戒を多少解いた妹は、二人で全然目覚めない伊織の様子を心配そうに見つつ、近くに生えてる植物をキミーを含めて共に眺めて解説していた。


「全然大丈夫じゃねーよ! なんだよこの状況! 絶望的すぎんじゃんか!?」


 好奇心旺盛なトラブルメーカーな妹に、未だ起きない幼なじみ! さらに謎の植物(?)の化け物のキミーに、帰省本能が皆無な迷子の神官!!


 はー地図読めねぇ! 字も読めねぇ! GPSがあるわけねぇ! 電波なんて無いからさ、検索かけてもグールグル! なんなら四方の方角なんざ、全くもってさっぱりだ!


「オラこんな状況嫌だ! オラこんな状況嫌だ! 森の外へ出るんだ! 森の外には、街があるんだ!!」


 とうとう現実逃避しだした俺に、妹が冷静な声で諭す。


「落ち着きなよヒロんくん。あまり大きい声を出すと、キミーが怯えちゃうよ」

『ガウゥッ……』

「すまんキミー! だがお前ら、あまりにもマイペースすぎるだろ!? このヤバい状況を何とか打破するための方法を、少しは考えろよ!!」

「す、すみませんヤヒロさん……!」


 セージが謝り出そうとするのを、妹はセージの目の前に手を伸ばして制止した。


「だってイオがまだ起きないから、移動しようにも出来ないよ?」

「それはそうだが、森から出る方法を考えることは出来るだろ!?」


 俺の言葉に妹は、ふっと目を閉じて首を横に振る。


「ヒロくん……別に私はセージさんとキミーと共に、ずっと遊んでたわけじゃないよ」

「そ、そうなのか妹よ?」


 俺はセージとキミーをチラッと見る。一人と一匹は互いに顔を合わせては首を傾げ、見るからに頭の上にハテナマークを浮かべている。


「おい、本当なのか? 妹よ……?」

「勿論!」


 俺は妹の提案を聞くために座り、代わりに妹は勢いよく立ち上がって腰に手を当ると「ふっふーん!」と鼻を鳴らし、「さぁ聞くがいい!」と指先で天を指す。


「ここは森の中! しかし、セージさんの話によれば昼間は行商人や街の人が通れるほど、安全との事! つまり探せば必ずがあるという事! その街道を探すのですよ、お兄様!!」


 妹は『ドヤさぁ』とドヤ顔をしながら、俺を見下ろす。


「どうですかお兄様! この完璧な妹の考えは!!」

「先生ー、質問いいですかー?」

「何ですか? ヤヒロくん?」

「その街道は一体どこにあるんですかー?」

「………………!!」


 妹はセージから地図を貰うと「どこですか?」、「ココですよ」と教えてもらった。


「こ、ココだよヒロくん!」

「はい、先生ー。そもそも、ココはどこ何ですかー?」

「ぬっ……!!」


 妹は再びセージから地図を貰うと「現在地ココはどこなんですかね?」、「すみません、僕にも分からないです……」と言われた。妹はさらにダメ元でキミーに見せてはみるが、キミーは『何の事かさっぱり』と言ったように首を傾げただけだった。


 そんな妹を冷ややかな視線で見る。当の妹と言ったら、額に手をかざしながら「ふっふっふっ……」と格好つけている。いや、意味がわからない。


「君のような勘のいい大人は、嫌いだよ……」

「いや、普通に考えれば分かるだろ。つか、それ言いたかっただけだろお前」


 妹は地図をポイッと投げると「わー! いい考えだと思ったのにー!!」と地面に突っ伏し、悔しそうにジタバタと暴れだした。

 俺は地図を拾いあげて見てみる。あぁ、サッパリ分からんなコレ。


「もういい! キミー! 遊ぼう! 現実逃避だよ!」


 そう言いながらキミーの枝に乗って、きゃっきゃと遊び始める。この妹の切り替えの速さといい能天気さに、冷静さを取り戻した俺は何度目かのため息を着く。


「はぁー。イオなら少しはこの状況を何とか打破するための方法を、思いついてくれないだろうか……」


 この中で一番優秀で賢い幼なじみに願いを託しながら、俺は気絶する伊織の隣に座る。




 そんな願いを託された幼なじみが起きたのは、この数十分後であった。

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