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第8話 〜お兄ちゃんは白装束さんに謝ったみたいです〜

 俺と妹は、キミーに頼んで二人を安全そうな場所へと移動した。


 伊織はともかく、何故か白装束の人物は額から軽く出血していたので、キミーが持ってきてくれた薬草らしき草で手当をした。

 この草がまた大変便利で。頭というのもあってか、軽い傷でもそれなりに血は出る。だがすり潰して傷口に軽く当てただけで、簡単に止血出来たのだ。こういうところが異世界なのだと、実感する。

 しかし念には念を。ある程度は、安静にさせておくべきだ。


 そんなこんなと色々としていると、「うっ……」と小さな呻き声が聞こえた。どうやら白装束の人物が起きたようだ。


「あれ……、ココは?」


 白装束の人物は上半身を起こすと、少し痛むのだろう。手当した額を軽く手で抑える。


「あぁ、起きたか。言葉は通じる、かな? 頭は大丈夫か? 一応軽く手当はしたんだが、場所が場所だからな……。もし気分とか悪ければ言ってくれ」


 白装束の人物は首を軽く横に振ると、にっこりと笑って「大丈夫です、ありがとうございます」と一礼した。

 この白装束の人物は見た目からして俺と同じくらいか、少し下くらいの年齢だろうか? 声は男にしては少し高めだが、体格や身長からして、多分性別は男で間違いないだろう。

 俺は安堵して「そうか。ならよかったよ」と、口元を弛めた。

 どうやら翻訳機能でもあるのか、この世界での言語は問題なく通じるようだ。


「アンタ名前は? 俺は八尋って言うんだ。それでこっちが妹の……あれ? 妹?」


 さっきまで横で気絶してる二人を心配そうに見ていた妹の姿が、いつの間にか居なくなっていた。


(アイツ……この謎の人物が起きたと同時に、人見知りスキル発動して逃げやがったな!)


 多分キミーの生い茂った葉の中か、近くの林に隠れてるに違いない。後で見つけて、引きずり出す。挨拶はコミュニケーションをとる基本だ。


「あー……えっと、妹が居るんだがな。極度の人見知りなせいで、ちょっと席を外してる。後で見つけだして、必ず挨拶させるから。気を悪くしないでくれ」


 キミーの葉の中から「ひぇっ……」と、小さな悲鳴が聞こえた。よし、そこだな。見つけたぞ妹よ。


 白装束の人物は俺のやり取りを見て、警戒を解いたのか……。そもそも警戒など、初めからしていなかったのか。口元に手を当てて、クスクスと小さく笑った。


「お気になさらないでください。僕の名前はセージ。セージ・イクスフォルと申します。手当をしていただきありがとうございます、ヤヒロ様」


 そう言って地面に手をつき、丁寧に頭を下げた。

 な、なんという礼儀正しさ! 伊織も礼儀正しいが、なんというか、この人物は全ての所作が洗礼されてて美しい!

 俺も妹も、このセージという人物の礼儀正しさを、少しは見習わなければ……!!


「あ、アンタ森で気絶してたみたいでな! そこのキミーが連れてきたんだよ!!」


 俺は後ろに控えているキミーを、親指でさす。キミーは手を振るように、枝を軽く振った。


「見た目はちょっとアレだが、気が弱くて根はいい奴だ。あまり怖がらないでくれ」


 セージさんは、後ろのキミーに一瞬驚いた顔をした。が、すぐに笑顔でキミーに手を振り返した。


「セージさん……だっけ? アンタの隣で気絶……横になってるのが、俺たちの幼なじみの伊織だ。まぁ、なんだ。これも何かの縁だ。宜しくしてくれると、嬉しいんだが」

「はい、かしこまりました。ではどうぞ僕の事は、気軽に『セージ』とお呼びください、ヤヒロ様。無理な敬語も僕には不要です」


 くっ、笑顔がとてつもなく爽やかすぎて、俺の心が浄化されそうだ!


「えっと、じゃあセージ。俺の事も『様』は付けなくていいよ。なんか気恥しいからさ。俺の方も、無理して敬語は使わなくていいよ」

「分かりました。では、ヤヒロさんとお呼びしますね。敬語は、その、僕の癖のようなものなので。もし不快でしたら頑張ってはみます……あ、頑張りま……? がん、頑張るんば……?」


 セージの敬語は、本当に癖なのだろう。本人は一生懸命、タメ口で話そうとしてはいるのだろうが……。それが返って逆効果なのか、困った顔で今にも舌を噛みそうだ。


「いや、癖なら仕方ない! 逆に無理に外す方が難しいよな! うん! それにむしろ敬語は、とても大切だと俺は思うぞ!!」


 俺が謎のフォロー(?)をいれると、セージは「はい、ありがとうございます!!」と、とても嬉しそうに笑った。笑顔が眩しい! 目が、目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


 ……っと、一人でショートコントしてる場合ではなかった。何となく後ろのキミーに隠れてる妹から冷たい視線を感じ、俺は一度咳払いをしてセージに向き直った。


「えーっと、そうだな。俺達は多分……と言うか確実にこの世界とは別の世界から来たんだ。何の因果かは全く持って分からないんだが、知らない女の子が箱を渡してきてな? それを開けて……」


 俺はこれまでの経緯を、セージに説明した。女の子の事。魔法陣の事。キミーとの事。

 できるだけ詳しく、分かりやすく説明した。


「……それでキミーとも色々あったが、和解して友人になって。にわかに信じ難いとは思うが、全部本当の事なんだ……本当に、全部……」


 説明しながら、心が折れそうだった。だってコレが本当でも嘘でも、全く見ず知らずの人間に、こんなこと言われて信じる奴なんているか!? いや、俺は信じないね!! 心が冷たいとかじゃなく、だって普通に考えて有り得ないもん!

 セージはただ、静かに俺の話を聞いていた。そして――――――。


「そうですか。それはとても災難でしたね」


 と、静かに頷いて慈悲深く笑った。


「……やっぱり信じられねぇよな……って、え? 信じてくれるのか?」

「はい、勿論。ヤヒロさんは見知らぬ僕を、手当して助けてくださいました。そんな優しい方が、嘘をつくはずがありません。僕はそう信じます」


 神は本当に居たのか!? そう思うほどセージの心は清らかで、真っ直ぐで……疑う事など知らぬ、純真無垢な心の持ち主だった。

 俺はどこか、現実世界で疲れてたんだろうか……。セージの心が綺麗すぎて、涙が出そうだ。


 現実世界の、腹が立つ、てっぺんハゲのクソ上司。生きて元の世界に帰れたら、残りの毛が全部抜ける魔法を覚えてかけてやる!


「俺が言うの失礼な話だが……。お前よく人に騙されそう、とか言われないか?」

「はい! 僕の友人にはよく『お前いつか人間に騙されて死ぬぞ! バーカ!!』と言われます。とても優しいですよね!」


 サラッと笑顔で言ったが、友人に中々に酷いこと言われてるのに笑顔で話すセージは、かなり大物のような気がする。

 笑顔をひきつりつつ、信じて貰えたことに対してホッとする。

 ……そしてコレは個人的な疑問なのだが、何か嫌な予感がしたので一応聞いてみる。


「ところでセージ。……何でお前は、あんな所で倒れてたんだ?」


 セージは少し思い出す素振りをすると「あぁ、それは」と、笑顔で口を開いた。


「僕自身の用事……と言いますか。使命というか、捜しモノがありまして。そのために、この森に入ったんです。気配を感じ、辿って向かっていたその途中。大きな音がしたと思ったら、小石のような破片が飛んできて。それが当たって、気づいたら……」


 それを聞いて俺は、無言で立ち上がった。そして静かにキミーへと近づく。


「………………」

「………………」

「……おい」

「違います」

「居るのは分かってるんだぞ?」

「居ません」

「大人しく降りてこい」

「きっと人違いです、ゴメンなさい」


 俺はキミーに「引きずり降ろせ」という意味を込めて、人差し指を下に向ける。

 俺の圧を感じ取ったキミーは、震えながら……申し訳なさそうに妹を生い茂った葉の中から取り出す。

 妹を受け取った俺は、そのまま無言で引きづってセージの前に正座で座らせる。

 そして妹の頭を思いっきり掴んで、兄妹そろって土下座をする。


「本当、申し訳ない……!!」

「ゴメンなさい、ゴメンなさい。本当にゴメンなさい」


 セージは何が起きているのかさっぱりな状態で、突然の俺たち兄妹の謝罪に慌てる。




 本当、ウチの妹がご迷惑をおかけして申し訳ありません!!

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