木々をなぎ倒しながら、【何か】が現れる。
それは軽く、4〜5mくらいはあるだろうか? 所々苔や草木の生えた、巨大な岩のようにズッシリと、さらに大きく太い立派な大木のような、そんな植物系の化け物だった。
俺はとっさに叫ぶ。
「なんじゃありゃぁぁぁああああ!?」
意味が分からん!!
やはり異世界なのか!? 異世界なのか!?
もはや思考などはついてこられずに、ありのままの本音が出る。
化け物は俺達を見つけると『グォォォォオオオオ!!』と叫ぶや否や、こちらに向かって走ってくる。
俺は体勢を立て直して、慌てて伊織を肩に担いで走る。
「おいヒナ! 何をしたら、あんなトレントみたいな化け物に追われるんだよ!?」
妹と並行走行しながら、俺は問いかける。
「いやぁ〜。そこら辺を探検してたらね、なんか大きな岩の上に生えた木があったんだよ〜。それで『珍しい木だな〜』と思って木登りしてたら、枝の一部折っちゃってね? そしたらあの子が起き上がって、今に至るのでありますよ兄上!」
妹はドヤ顔で答える。
「つまりは
「まぁ、そういう事になるのかな〜?」
必死な俺と違って、本当に脳天気な妹だ。
「謝ったら、許してくれるかな?」
「何で今、そんな悠長なこと考えられるんだお前は!? 馬鹿なのか!?」
「失礼な! イオに毎日勉強教えて貰ってるから、同じ学年の子達よりは頭いいよ私! ……多分ね!!」
確かに……この出来る幼なじみのおかげで、定期的に家庭訪問に来る担任から聞く限り、妹のテストの成績は学年でも上位ではあるらしい。が、それを教えると図に乗りそうなので、あえて教えない。あとは出席日数さえどうにかなれば完璧なのだが……。もうこの妹にこれ以上、欲を持ってはいけない。
しかし、今はそんな事はどうでもいい。今俺たちの問題は――。
「っか、どうするんだよアレ! マジで!!」
「よーし、ココは一つ!」
妹は小石を拾うと、化け物の方へと振り返る。
そして、まるで野球のピッチャーのような構えをする。
フォーム、構えは完璧である。
「陽菜子選手、第一球、投げたあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そう叫びながら、小石を思いっきり投げる。
なんと完璧なフォーム! 最近一緒にやった野球ゲームの構え方、そのままだ!!
(コレが厨二……いや、現役中学二年生の実力か……!!)
「いいぞ、ヒナ! 投球のトレースは完璧だ!!」
俺は謎の感動(?)を覚え、思わずガッツポーズをする。
「いや〜、それほどでも〜」
妹は照れ臭そうに笑う。
……が、妹の投げた小石は何故か真っ直ぐそのまま化け物には当たらず、『変化球でも投げたのか?』と言うほど不自然に大きく曲がり、化け物から2〜3m程離れた岩にぶつかった。
「………………」
「………………」
俺たち兄妹は互いに目を合わせ、沈黙の空気が流れる。
それを先に破ったのは、我が妹だった。
「……ノーコンだったの、忘れてた」
『テヘペロ☆』と聞こえてきそうな笑顔で、わざとらしく自分の頭をコツンと軽く叩いている。
俺はなんとも言えない顔で「そういやお前、スゲーノーコンだったな。外で遊ばないから、もうずっと忘れてたけど……」と呟き、内心盛大なため息をついた。
ゲームでも遠距離や後衛職を普段使わない為に、忘れがちだったが。この妹、オート機能が無いと至近距離でも外すほどの、ノーコンっぷりであった。
いや、オート機能がついてても八割は外すと言う、類いまれなるノーコン。ノーコンの中のノーコンだった。
(昔行った夏祭りの射的では、何故か目の前の景品ではなく、射的屋のおっちゃんの脳天に当てて危うくお持ち帰りするところだったもんな、コイツ)
懐かしい思い出に浸ってる場合では無いとは、分かっている。分かってはいるが、何故か射的屋のおっちゃんが出てきたのだから仕方がない。
しかしおっちゃんの脳天に当てるってのも、実はそれなりのコントロールの持ち主なのでは? いやしかし、目の前の化け物に対しての攻撃や撃退などといった状況は変わってない。現に全く違う方向に投げただけで、何の役にもたっていないのだ。やっぱり、ただのノーコンで変わりない。もうそういうことにしよう、正直これ以上は考えるのが面倒くさい。そう、俺は考えるのをやめた。
化け物なんて見てみろよ。何となく空気を読んで、俺らの茶番が終わるのを待っててくれてるよ。実は凄くいい化け物なんじゃないのか?
一方、ウチの妹は俺と化け物を交互に見ながらどうすれいいかと、目で訴えている。
「えーっと、とりあえず逃げ……」
俺が「逃げるぞ」と告げる前に、何かが『ピシッ』と亀裂が入る音がした。
そのまま間髪入れずに、先程妹が小石を投げつけた岩が爆発するように、粉々に砕け散った。