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極端に短い時間のみをお情けとばかりに許された。何をそこまでへりくだらなければならないのかと腹立たしく思ったりしそうになるが、そのへんは大目にみてやろうと考える。ビッグアイにルッキングだ。デモン・イーブルだって相応に年をとったりするのだ。与党において最有力と評価していいニンゲンであるアレハンドロ・ユズリハへのインタビュー――。アレハンドロは「知らんな」の一辺倒で、徹頭徹尾、そうとしか答えなかった――。ベリーの重ねてのしつこい組みつき――一言、彼女は「ご子息のリオネス氏は被害者のミサキ・ファーウェイの恋人だったんですよ?」と力一杯に訊ねた。するとアレハンドロはあからさまな反論、「だからといって、そのステータスだけでリオネスが犯人だとは言い切れない。そうだろう? そも、ベリーお嬢さん、あなたが言ったとおりだ。リオネスの好きも嫌いも過去形かもしれんわけだ。当日当時、そうだったとは言えんわけだ」ともっともなことを低い声で述べた。
それはそうですが……。
ベリーとしてはひとまずそう受けるより他にないだろう。
「何を訊いてもらったってかまわない。息子は無実だ」アレハンドロは強気に迷う素振りすら見せずにそうのたまい――。「くり返しになるが、打撃の魔法を使えるだなんてこともてんで聞いた覚えがない。そもそもほんとうにくだんの手段が証拠なのかね? 頭のてっぺんにハンマーを振り下ろしてやったら似たような結果が得られるのではないのかね?」
「ですから、そのあたりは警察が詳しく調べた上で見解を言い、そうである以上、だから私は疑います。何度だって言います。酷い惨状だったんです。私は魔法以外にありえないと考えています」
アレハンドロは嘲笑うように喉を低く鳴らし果ては「ふん」と鼻を鳴らし、「それは理由としてはあいまいだ。非常に弱く脆くもある。やはり私の息子は犯人ではないようだ」と言った、言い切った。「素人目はアテにならんから素人目というのだよ」と蔑むように続けた。
「ですけど私は――」
「請け合うよ、ベリーさん。どんな質問をされようがかまわない。だが、きみがそうしたとしても、きみが望むような帰結は見ないだろう」
強い目を受け、怯んだように身を引いてみせた、ベリー。デモンが「出直そうか」と言うと、ベリーは渋々といった感じで「はい」と応えたのだった。
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帰り、飲み屋。
まるでうまそうではないふうに、ベリーはジョッキのビールをすする。
「リオネスが怪しいからアレハンドロも怪しいのは、確実だと思うんです」
彼女の暗い顔のいっぽうで、デモンはビールでぐびぐび喉を鳴らし潤し――。
「だいたい理解した」
「何を理解されたんですか?」
「規模はデカいようだが、どの他国ともあまり変わりはないということだ」――続ける。「殊の外、与党が強いということでもある。阿呆な野党については『民が我々を育てるべきだ』などとド阿呆なことをのほざいている。ポピュリズムが機能していて、ポリコレが横行している、それをうまいこと利用、あるいは活用して都合のいいほうに使用している与党のほうが圧倒的かつ持続的に強い。弱者の救済ばかりを謳う患者はまるで救われんな。そういう政党は綺麗事しか言えん大馬鹿でもある」
二杯目のビールがうまい、牛の赤身の燻製をがじがじかじりながら、デモンは首をかしげてみせた。訊きたいことがあるので訊いてやることに決めた。
「若いながらも、おまえは刑事なんだろう?」
「私は確かに若いです。だけど確実にあなたよりは年上です」
「何かの嫌味か? わたしとしては、ま、そのへんはどうだっていいがな」
デモンが「与党幹事長。奴を検挙しようというのであれば、それは非常に面白いことだ」と言ってやると、ベリーは顔に難しいところを窺わせながらも、やむを得なさそうに笑った。
「ほんとうに、リアルに私は、仲間が欲しくてしょうがなかったんです」
「だろうな、だから、付き合ってやってもいいと言っている」
「どうして、そんなふうに?」
「言わなかったか? わたしは暇なんだよ」
眉をハの字にしてなんとも情けない笑みを浮かべたのち、ベリーはデモンに握手を求めてきたのだった。応じてやると――その手は一定以上、温かかった。あまーいミルクの匂いが漂ってきそうなくらいの幼稚さを感じさせる温かみだったので、つい顔を歪めてしまったくらいだ。
ベリーは親友が残した手がかりだけを事実として前へと進もうとしている。
つまらんことだが、見捨てられん話でもある。
めんどくさくないニンゲンなど、ニンゲンではない。