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わけのわからない眠気に苛まれ、デモンは二日もベッドにて横たわっていた。眠いときは眠い。ニンゲン、そんなものだろう? 窓際に置いてやったタオルの上で、オミの奴が身体をむくむくにして眠っていた。そばでニンゲンが起きたというのに気にすることなく惰眠を貪るあたりに好感が持てる。
立ったまま、テーブルの上のポットの水をグラスに注ぐ。すっかりぬるくなっているわけだが、喉が渇いているのだからしょうがない。ぐびぐび飲むと、多少は目が覚めたのだった。
ヒトの手によりノックされたらしい堪え性に欠ける戸が、「コンコンコン」と高い声を発した。眠たい限りだがやむなくの接客。訪れた人物はジャスティンだった。黒くふわりとしたポンチョのような、たぶん、魔法学園とやらの制服。「連絡がありました」とジャスティンは言った。「連絡がありました」――その差出人はノーラだろうとすぐに察した。向こうさんが使いでも寄越したということだ。
部屋の戸口にて――の、会話。
「で、ジャスティン、つまるところ、いったいどうなるんだ?」
「なるようになるし、なるようにしかならない。現状、そんなところだと思います」
「ジャスティン、問いたい」ここでデモンの身体はあくびを欲した。「おまえからすれば、くだんの連中はかけがえのない友人であるわけだ。友人とは強い繋がりなのだろうとは誰にでも見当がつく。そんな彼らに、おまえはほんとうに罰を与えることができるのかね?」
「できるできないはともかく、やらなければならないことだろうと考えています」
「本音かね?」
「相手は父の
「王族の
「やらなければならないと、言ったつもりです」
「割り切ったと?」
「そのつもりです」
十代なかば真っ盛りのくせに、思いの外、ジャスティンが強い目をぶつけてきたので信じてやることにした。期待を裏切ってくれたなら容赦なく見損なうだけだ。まずはしっかりやってもらいたい。その旨、せいぜい心得ていてもらいたい。
「聞かせてもらうとしよう。先日に述べたとおり、わたしはご一緒させてもらうぞ?」
「心得ています。デモンさんには何かあるのだと思います。だからこそ――今だから言えます。僕の行く末を見届けていただきたいんです」
「それはわかった。わたしは具体的な行動について訊いている」
「ベサリウス地下墓地を訪れろとのことでした」
「ベサリウス? 地下墓地?」
「地下墓地です。あたりまえですけれど、僕は向かいます。正直言って、父の死なんてとっくの昔にどうだっていいんです。ただ、僕はただ……」
「わかったと言った。おまえにキツい思いをさせたニンゲンどもの真意を知りたいんだろう? ああ、そうだ。ここにきて、ノーラたちはいった何を望んでいるのか。そこに興味を見たとは言わない。ただ、くどいのを承知でのたまうが、乱痴気騒ぎの結末は拝見したいように感じている」
ジャスティンは絶対的な苦笑を浮かべると、俯いた。
「僕が正しくなくたっていいんです。ただ……ただ、行き着く先になんらかの答えが待ち受けているのだとすれば、僕はそれをきちんと全身で体験したい」
ただのボンボン――おぼっちゃんのくせに、生意気ほざいてくれるではないか。頭の程度は低くないだろう――が、精神的にお子ちゃまであるという判断はどうしたって払拭できない。
馬鹿は馬鹿なりに答えを出すものだが、さぁて、はたしてこの馬鹿の場合、どんな馬鹿がどんな答えに転がるのか。