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7-6.

*****


 イクミ・ガラハウとは銀色の長髪に、透き通った碧眼の人物だ。女性とも解釈できるような中性的な見た目で、尖った顎のラインが非常に美しい。わたしがフツウの女性なら、さぞドキドキさせられたことだろうなとデモンは考える。


 暖炉の一室、向かいの椅子に座るイクミとやらが、「『スペシャルズ』は優れている」と言い、唐突に両の手のひらを天に向けた。「できないことを成そうとするのが当該組織なんだ。素晴らしいとは思わないかい?」という声は耳に心地よく残る。――ま、それだけの話であり、だからデモンは「ハハッ」と一笑に付したわけだが――。


「何が素晴らしい? ヒトの集合体――その優位性をポジションありきで説いたところで、わたしには一つも響かんぞ。そのへん、ぱっと見で察することはできんかね?」

「そんなふうに感じるのは、きみが悲しい存在だからだろう」

「つまらん奴だな。つまらんことを言ってくれる」

「それは言うさ、ニンゲンだからね。事実と真実の違いくらいは?」

「事実は一つだ。真実はヒトの脳の数だけある」

「見た感じのとおりだね。きみは優秀だ」


 上から目線で来られると、多少ならず腹が立つというものであり、実際そのとおりで、この優男の言動はいちいち神経を逆撫でしてくれる。とはいえ、その都度、腹を立てるほど狭量ではないつもりだ――と、デモン自身は捉えている。


「たとえば、とある著名な作家がのたまったとしよう。きみはじつに馬鹿なニンゲンだね、と。そのときデモン、きみはなんと思うだろうか」

「からかい上手なようだ」デモンは腕を組み、椅子の上でふんぞり返った。「わたしが馬鹿だと? 何を根拠にそう述べる?」

「訂正だ」とイクミは笑い。「僕が著名な作家だったとする。僕がきみを馬鹿だと罵ったとする。その場合、きみはなんて答えるのかな?」

「何一つ、答えない」と言い切った。「相手をすれば、おまえを喜ばせることになる。あいにく、わたしはドのつくSなのでな」

「やはりきみは優秀だ」

「オウムか、おまえは。くり返すのではなく、多少はマシな唯一を吐け」


 イクミは目を細め、真白の仮面のような気味の悪い笑み――。

 多分、こいつは神の創造物なのだろう――と、直感する。


「僕というニンゲンは、きみが感じるよりも優しいと思う。真理だよ」

「そんなことは訊いていない。真理も要らん」不遜に、デモンは言う。「しかし、仮に優しいとして、そこになんの価値があるんだ?」

「ないね」残念そうに溜息をついた、イクミ――一転、顔を上げ、にこりと笑む。「僕はね、一人になるのが怖いから、誰かと抱き締め合いたいんだ」


 いきなり気色の悪いことを言われた――としか、言いようがない。


「人生は一度きりじゃないか、ってね」


 謎めいた物言いを受け、さすがに頭上に「?」を浮かべたくなる。


「一つ、面白い話をしようか。僕はギアニーさんとは対等な存在なんだ」

「問答無用のセックスフレンドだと?」

「じつに面白い観察眼だけど、その嗜好は、残念、僕たちにはない」イクミは首を横に振った。「この町の郊外にはね、『小さな森』と呼ばれる一帯があるんだ」

「小さな森?」

「そう。小さな森だ。そこでハント、狩りだね――を楽しむのが、目下のところの僕の貴重な楽しみなのさ」


 ハント?

 狩り?

 穏やかな顔で、声で、なんとまあ物騒な単語を並べる輩か。


「何を狩るんだ?」

「ヒトだよ」涼しい顔で言ってくれた。


 その後の説明で、スペシャルズとやらのニンゲンから「獲物」が寄越されているのだと聞かされた。ギアニーと蜜月であることがはっきりしたわけだ。


「しかし、どうしてそれを告白するかね」デモンは顎に右手をやり、悪戯っぽく首をかしげてみせた。「わたしに裁いてほしいとでも?」

「それは違うよ」まるで言い慣れているように、堂に入った言い方だった。「むしろ僕は君を食べたいと考えている」

「食べる? 論理的に?」

「物理的に、さ」

「食人野郎、か」

「知る人ぞ知る、僕は鬼人だよ」

「そのわりには、頭につのがないな」

「隠してるんだ」


 イクミはくっくと喉を鳴らすようにして笑い、対してデモンは「ライザはスペシャルズとは無縁のはずだが?」と、かまをかけた。


「ライザ……ああ、ライザか。彼女を殺したのは、僕じゃない」

「だったら、誰だ?」

「僕と同じく、狩りを楽しむニンゲンがいる」

「だから、それはくだんの老人ではないのかね?」

「事実は、どうなんだろうね」


 くっくと喉を鳴らす――ほんとうに癪に障る笑い方だ。


「僕の役割を話そう。それは君を狩場に導くことだ」

「だと思ったよ。いいだろう。不届き者をぶっ殺してご覧に入れよう」

「いい意気込みだね」イクミは感心したように――。「ただ、君がぶっ殺されてしまってからでは遅いから、僕は今の君と話がしたい」

「スリーサイズなら答えんぞ」

「おかしいね。涙が出るほどおかしいよ」クスクスと、イクミは笑った。「君と出会ったせいで、いよいよ孤独を自覚することになろうとはね」

「大げさな男だ。じつはお節介でもある」デモンは鼻で笑ってやった。「走り出したら、わたしは止まらん。注意事項があるなら、今のうちに述べておけ」

「また話をしよう。僕の望みはそれだけだ。心に燈を灯してくれて、ありがとう」

「言ってろ」


 デモンは毛足の短い絨毯の床から刀を拾い、ゆっくりと顔を上げ、それからヒトを小馬鹿にするようにして笑んでやった。


「ようやく僕は愛するヒトに出会えたのかもしれない、デモン・イーブル」

「だからせいぜいほざいていろ、イクミ・ガラハウ」


 辞去した彼女である――。


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