――9月1日18時、天明中学校体育館
俺達は体育館の表玄関に到着した。
ここでいう俺達とは、俺含めた異能対策部の面々だ。
つまりはアリスや鉄士、兎亜や他のメンツ含めて総勢20人程度。
傍から見りゃイカついメンバーだったろう。
並んで歩くの、実は恥ずかしかったし。
「先輩、どうしたんですか? そんなまじまじとワタクシ達を見渡して」
アリスがこてんと首を傾ける。
「いんや、なんでもねぇ。国家権力である異能対策部様にこんなこと付き合わせて悪いな」
「な〜に言ってるんですっ! あれだけダンジョンで活躍した先輩に異能対策部が力を貸さないわけがないじゃないですか! それにこれは異能者関連のことですから、ワタクシ達が動くのは当たり前のこと。先輩が気にすることは1つもありませんっ!」
そう言ってアリスは俺の胸元に拳をポンッと当ててきた。
「そう、これは業務の範疇です。ダンジョンで命を救ってもらった恩はまた別の機会に返しますので、覚悟しておいてください!」
「兄の言うとおりです。……い、いつでも頼ってくださいね!」
鉄士と兎亜はそう言って軽く頭を下げてくる。
こんなにも味方がいるとは心強い。
安心して戦いに臨めるというものだ。
「耀ちゃん、私もいること忘れないでよ?」
そう言って背中をビシッと叩くのはもちろん幼馴染であり、唯一の女友達でもある神道心菜さん。
「心菜、お前はマジで危なかったらすぐ逃げるんだぞ。分かってんだろうな?」
「大丈夫、大丈夫! 逃げ足だけは速いんだから。一目散に逃げてやるわよ!」
一応事前に危険だから参加しないよう伝えたのだが、どうしてもと聞かなかったのだ。
「先輩、心菜さんはワタクシ達異能対策部が命を賭してでもお守りしますので、ご心配なさらず」
「ま、頼むわ」
アリスもこう言ってくれることだし、ここは異能対策部を信じてお願いすることにするか。
現在、この武力集団の先頭を担っている俺は、体育館前の大きな横開きの引き戸に手をかけ、ガラッと大きな音を立てながら開ける。
中はごく普通のどこにでもある体育館。
すでに全照明は点灯されてあり、空間全体を明るく照らしている。
冷たい風が天井から降りてくるところ、未だ夏が抜けきらない室温を調整するために冷房がついているのだろう。
体育館正面ステージの辺りには多くの人間……いや異能者がいる。
1人はステージ上に腰をかけて、1人は壁に寄りかかってと、皆個々に過ごしていた。
その人数、クラスでいう1クラス分ほどの人数。
中にはもちろん知った顔、
「燿くん、久しぶりだね」
先生はステージからゆっくりと体を降ろしてから挨拶を投げてくる。
「コトユミは?」
形式上のやり取りなんていらない。
こっちは仲間の無事が第一だ。
「あぁ、大丈夫。彼女は別室で休んでいるよ」
「嘘じゃねーだろうな?」
「はい、もちろん」
アイツの偽りっぽい笑顔が信憑性を欠けさせている。
話す言葉1つ、表情1つから本音が見えないこの生き物は久しぶりに対峙しても気味が悪い。
「では暁斗くん、こっちに」
その一言で暁斗は先生の傍に寄る。
「はい、先生」
暁斗もどうやら無事のようだ。
ただ先月と同様、感情という感情が全て抜け落ちたような表情。
笑み1つ見せることもなくただただ従順に、言われたことをこなすだけの操り人形。
それが今の暁斗の姿。
おそらく他の異能者も同じ。
皆、いいように利用されているのだ。
そうでもなければ、異能を持つ集団をまとめる事なんてできない。
相当なカリスマ性があるのであれば話は変わってくるが、この先生とかいう中年にはそんなもの微塵も感じないし。
「暁斗、お前のことも開放してやるからな」
暁斗は俺の言葉に全く反応を見せない。
「燿くん、彼は戦いに備えて集中している。無駄な声掛けはNGだよ」
「ふん、つまりは戦いにだけ集中しろ、そういう洗脳か」
「君は本当に嫌味な人だ。私はただ純粋に暁斗くんに集中して戦って欲しいだけなのだよ。今まで家族や仲間を冷酷なまでに殺してきた彼が、今日初めて本気で戦う。その末に勝ち取った勝利、敵と認識した者の殺害、その2つが彼を真の異能者として覚醒させるはず。それがこの世界に我々のユートピアを創る第一歩となるのだと、私はそう確信しているんだ」
先生は相変わらずの笑みを浮かべながら、淡々と自身の抱く理想を語っていく。
「妄言だな。そんなもんに他の異能者巻き込むなよ、先生。どっからそのあだ名がついたか知らねぇが、教えを説ける側だとは到底思えねぇ発言だ」
「私に教えを乞いたい、そう思って下さる方がいる限り、教えを説く側になるのは必然だと思うけど……とまぁお互い御託を並べるのはやめよう。ここへは戦いに来たはず。武力で勝敗を決めるのだから口論は全くもって意味を為さないからね」
先生の言うことには一理ある。
ここで言い合っていても、解決には至れない。
怖い思いをしているコトユミを少しでも早く開放させるために、本題への移行が必要だ。
「では暁斗くん、準備はいいかい?」
「はい、先生」
向こうの合図で一騎討ちへの準備が取り掛かられた。
準備、とは言っても戦いを行う俺と暁斗が体育館のメインアリーナに少し距離を空けて向かい合い、他のメンバーは2階の体育館を取り囲む周回廊へ移動しただけだ。
「異能者じゃねぇやつに負けんなよっ!」
「暁斗、がんばれー!」
「はは、燃やせ燃やせぇっ!!」
ガラの悪い声援が暁斗へ飛ぶ。
……ってちょっと俺に対する罵倒もある気がするが。
「先輩っ! 頑張ってくださいっ!」
「箕原さん頑張ってください!!」
良かった、俺側の声援は暖かい。
異能者側の応援に多少イラつきのようなものを感じていたが、不思議とそんな気持ちも収まってきた。
「では、2人のタイミングで始めてもらっていいですよ」
先生がそう言う。
ここは先手必勝ってやつだな。
1発で暁斗を気絶させる、それで俺の勝ち。
これが1番いい勝ち筋だ。
「なら行かせてもらうぜ、暁斗」
俺はいつも背負っている刀を引き抜いた。
これでいつでも戦える。
「……バースト」
暁斗は何の前触れもなく、右掌を前にかざす。
そしてその放った言葉と同時に俺の足元に小爆発を引き起こしたのだった。