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第26話 ダンジョン探索開始



 アリスのもうすぐ到着、という一声で現場付近だと分かった俺は窓越しに外を見た。


 するとそこには如何にも観光名所という整備されたトンネルがあり、その最上部の銘板には『煌石洞』と記されている。

 そして俺が観光名所だと思ったのは、その入口前に駅のような改札と、某アミューズメントパークにでもありそうなチケット売り場があったからだ。

 もちろん夜中だからスタッフはいないし、客もいない。


 だがその代わり、至るところに今日すれ違った異能対策部らしき連中が散らばっている。

 ある奴は、見張りのように立ち、ある奴は大きなテーブル上の3つのディスプレイに目をやりながらパソコンを操作し、と各自の業務を行っているようだ。

 その数、10はくだらない……いや本当20人はいるんじゃないか。


 車は徐々にスピードを落としていく。

 後部座席に乗っている俺達に慣性の法則など全く感じさせない安全な減速に安心感を覚えるレベル。

 今ハンドルを握っている運転手は、さぞ温厚な人なのかもしれない。


 そして完全に停止してから、俺とアリスは外へ降りた。


 その後の行動として、俺にはどうすれば良いか分からないためとりあえずアリスの後ろへついて行く。


「おつかれ様、ダンジョン内は変わりなし?」


「はい、撮影ドローンが飛行できる範囲では大きな問題はありません。ただ、やはり何度試しても異空間へ通り、ダンジョンなる土地へ到着するまでにドローンの充電が大幅に減ってしまうので、捜索できる範囲は限られますね」


「そう、やっぱりワタクシ達が行くしかないわね」


 アリスは降車した後、車の中から見えたパソコンを操作している男性の元で状況を確認している。

 どうやら撮影ドローンでは、ダンジョン内の全ては把握できないようだ。

 ま、だから俺達が行くのだろうが。


 その後、俺達は煌石洞へ向かった。

 営業時間外ってこともあり、改札はすでに開けた状態。

 洞窟前に立つ異能対策部職員の男に一礼されながら中へ入る。


 煌石洞の中は有名な観光名所であるが故に、通るべき道は平坦になるよう整備済み。

 入口付近の通路は狭く、壁の岩肌もゴツゴツとしている。

 壁の各所には取り付け型のライトが設置されてあり、営業時間外にも関わらず青色に点灯されてあった。

 ブルーの灯りが岩肌に反射して空間全体が青く輝き、幻想的な洞窟を演出している。

 こりゃ温泉街に来たら、必ず観光したくなるわな。


「……綺麗っ!」


 隣を歩くアリスは壁から天井へ視線をゆっくり移しながら、感嘆の声を漏らす。


「あれ、アリスは調査で来たりしてねーの?」


「ワタクシはあくまで報告を受けるのみ。現場へ訪れたのは今回が初めてなんです」


「それなのに調査はアリスがすんのか。変な話だな」


「実のところ異能対策部とは言うものの、本当に異能を使える人って少ないんですよ。ちなみに今外で見かけた職員は皆、異能者ではありません」


「そうなのか。ちなみのちなみにだが、異能者ってアリス以外にちゃんといるのか?」


「ええ。もう少し進めば会えますよ! 楽しみにしてて下さい!」


「いや、別に楽しみにはしねーけどよ」


 とは言いつつ、他にどんな異能を持つ奴がいるのか多少は気になる。

 もしこの任務が終わって時間あったら手合わせしてもらおうかな。

 一騎討ちに備えて力を磨きたいし。


 それから少し歩いた。

 いや少しではない、もうかれこれ20分ほどは進んだのだが、まだ先は見えない。

 それに各所に設置されてある観光用の説明板の文字をその都度見ていたのでちょっと眠たくなってきた。


「アリス、結構長いんだな。まだなのか?」


「えっと、多分もうすぐのはず……あっ!」


 今歩いている緩やかなカーブを描く通路の先に4人の人影が見えてきた。

 どうやらここで行き止まりのようだが、目の前に異様な光景が浮かぶ。


「なんじゃこれ……っ!?」


 俺は突き当たりの壁にめり込んだ黒い球体を指差した。

 話には聞いていたが、これは相当デカいな。

 俺の両手広げた長さよりも少し大きいくらい、手を広げた長さってのは自分の身長を表しているって言うし、それが事実なのであれば目の前の球体はおそらく直径2メートルに及ぶほどだろう。

 そしてその球体付近には説明板が置かれていたであろう跡や、取り付け型のライトがへし折れたりと何者かに荒らされたような痕跡がある。

 おかげで今まで通ってきた道に比べると一段階も薄暗い。


「先輩、これがダンジョンへの入口です。少し辺りが荒れていますが、この球体から発生した引力のようなものが原因と報告を受けています」


「なら近づくのは危ねぇんじゃねーの?」


「その問いの答えは俺からさせて頂きます」


 そう言うのは、4人のうちの1人の男性。

 歳は俺と同じくらい、そして学生の頃はラグビーをしてましたみたいな見た目だ。

 その割に話し方は真摯的で、声色も柔らかくて心地の良い声。


「現状、先ほどアリスさんが仰った引力はこの球体の誕生以降1度も発生しておりません。しかしそれを実証ができていないため確実に大丈夫だとは言えないのが本音です。もしそちらの方が心配なのであれば、早めに調査へ行きましょうか?」


「ま、どちらにせよ早く行かなきゃだろ? 時間制限もあるだろうし」


 俺は説明してくれたマッチョの兄さんとアリスを交互に見る。


「先輩の言うとおりですね。ここは0時から3時の間にしか開門していない。もしその間に出られなければ、丸1日ダンジョンで過ごさなきゃ……いや、出られるかどうかも怪しい」


 アリスはそう言って一瞬不安そうな表情をしたが、大きく首を横に振ってから意を決したように眉を寄せ、言葉を続ける。


「では先輩、鉄士くん、兎亜さん、向かいましょうっ!」


 目の前にいるのは旅行中の気の抜けたアリスの姿ではなく、完全に異能対策部管理官のそれだった。


「「はいっ!」」


 アリスの指示に、さっき質問に答えてくれたマッチョ兄さんと、見た目だけでいうとこの中で小柄な女の子が強い返事をした。

 そう思ったのはまず身長、おそらく150㎝もなさそうだ。

 艶のある長い黒髪は、戦いやすくという意味なのか後頭部で1つ括りにしている。

 いわゆるポニーテールってやつだが、首元あたりとえらく低めの高さでまとめており、これもまたポニーテールと言うのか女性のヘアスタイルに詳しくない俺にはよく分からない。

 クリッと目は大きくブラウンの瞳が一際輝いており、その影響からか顔立ちも幼く見えてしまう。

 そんなことはあり得ないだろうが、パッと見17歳くらい?


 どうやらダンジョンはこの4人で行くことになるらしい。

 ま、なんにせよ人手が増えるのは心強いな。


「そういえばどうやってこの中入るんだ?」


「箕原さん、でしたか? よく見てて下さい。まずは俺がお手本を。理論上これでいける、はず」


 そう言って鉄士は迷う素振りなど一切なく、その黒い球体に手のひらを添えた。

 すると彼は突然自身の形を無くし、液体というか気体というか……いや、どちらかと言えばコトユミの液状化に近い状態となり、部位1つ残さず吸い込まれていく。

 あまりに唐突だったので俺はつい言葉を失ったが、アリスと兎亜さんも同じ感情だったのか目を丸くし、立ち尽くしている。


 しかしこのままでもいけない、そう思って我に返ったところで順に手を球体に手を添え、俺達はダンジョンへ侵入していくのだった。


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