先生からの提案、俺はそれをさらに掘り下げていく。
「で、その勝負事ってのは?」
「1ヶ月後、ここの体育館で一騎討ちをして、君達の大将が勝てば祐未さんを返す、私達が勝てばこのまま引き取らせてもらう。悪い話じゃないだろ? ここで今殺り合っても君達の勝率は低いし、私達は仲間を失いたくない。この条件はお互い都合がいいんだよ」
ここまで条件を出してくるとは、よほど今俺とアリスに暴れて欲しくないらしい。
ならばいっそ条件を飲まず、大暴れしてやってもいいが、さすがに能力不明の異能者がこんなにいる。
一応、アリスが連れてきた他の異能対策部メンバーもいるだろうが人数が分からないため、有利不利が図れんし。
「アリス、仲間は何人で来てんだ?」
「ワタクシ本体含めて4人です。急だったので、そこまで人数が集まらず」
アリスは耳打ちで先生や他のメンバーに聞こえないよう、教えてくれた。
つまり分身を除けば、実質五人ってわけか。
うん、じゃあ不利だな。
「そうか。これ、もしかして条件飲む方がいいかな?」
こんな情けない会話聞かれるのも嫌だと思い、俺はアリスと耳打ちで会話を続ける。
「あの条件が本当なのであれば、ここは飲んで、一旦引くほうがいいかと」
「あ、もう1つ判断材料を与えるのするなら、祐未さんは今うちの博士と一緒にいます。彼は異能者のことをよく知り、同時にまだまだ知りたいと思っている異能研究者。いつも研究には異能者の骨や筋肉、皮膚や血液など様々な細胞を使っている。博士くんはきっと祐未さんの体のことも知りたいと思っていると思うよ。この意味、耀くんなら分かるよね?」
先生は俺がアリスと相談し、今も決めかねていることを諭して新たな尺度を示してきた。
「人質ってことか?」
「そう受け取ってもらってもいい」
「先輩、こうなったら条件を飲むしか……」
「でもコイツが嘘をつく可能性だってある。1ヶ月後の一騎討ちだって嘘かもしれねぇしな!」
アリスは人質の件で完全に考えが偏ったみたいだが、重要な問題としてコイツらがどこで裏切るか分からないってことだ。
そもそも今油断した隙に狙われるかもしれないし、1ヶ月後集まった時、更に増えた異能者達に数で押し切られるかもしれない。
つまり約束を守る保証なんてないのだ。
「耀くんは私が嘘をつくと心配しているのだね。それなら大丈夫だ。暁斗くん、おいで」
「はいっ!」
先生は歩み寄る暁斗の頭に再び手を置く。
「暁斗くん、今の話聞いていたかい? 1ヶ月後に体育館で一騎討ちをする件や博士くんに祐未さんへ手出しをさせないって話」
「はい! 全部聞いてましたよ!」
「なら私がこの約束を破ろうとしていたら、君の異能で私を燃やしてくれ」
「分かりました!」
「な……っ!? そこまで?」
嘘をつけないよう、洗脳を使って自分の命を担保にするとは。
「これでもまだ心配ならここにいる異能者全員に同じ洗脳をかけるよ?」
「わ、分かったよ! その条件飲むから!」
「では交渉成立だね」
そう言った先生は、本当に他の異能者を自分の元へ呼び、順に異能をかけていった。
約束を破れば自分を殺すように、今この場で俺達に手出ししない、そんな条件まで付け足して。
そこまでして1ヶ月後の勝負事とやらを待ち望んでいる……いや、今すぐの衝突を避けたいという方が正しいのかもしれない。
しばらくして、アリス(本体)と他異能対策部連中がやってきた。
どうも到着が遅かったことを確認すると、どうも正面玄関には異能による幻術が行使されていたようで、この1−2には辿り着けないよう組み込まれていたらしい。
俺達が問題なくここへやって来れたことを考えると、それ以降に発動されていたということになる。
よほど俺達を……いやコトユミを手に入れたかったのか。
この異能者集団との約束も交わし、今コトユミを取り返せない以上これ以上天明中学に長居する必要もない。
一騎討ちの日付を夏が過ぎた9月1日18時と決めたところで、この場はお開きとなった。
まぁ今どき9月になっても平均気温は30℃を上回る。
絶賛常夏中に変わりはないが、気持ちの問題だ。
だって9月と聞けば、少し涼しい気がするだろ?
「で、アリスはなんで俺がここにいるって分かったんだ?」
俺、アリス、その他が校門を通り過ぎようとする時、俺はふと質問を投げた。
助けに来てもらって結果命拾いしたのだが、この事は誰にも伝えてなかったはず。
「あーそれはこれです!」
アリスが勢いよく見せてきたのはスマホ画面。
これは……いつも見るSNSアプリだ。
いつも箕原道場のアカウントがお世話になってるやつ。
そしてそこで目に留まった投稿に俺はため息をつく。
『ウチの近くに剣士がいた件www』
そこで公開されている動画は、俺がこの天明中学に到着したところ。
校門前で腕を刃物にするあの異能者との戦闘シーンだ。
"あれ、これウチらの箕原くんじゃん笑"
"それにしてもあの異能者グロ……手がニュイッと刃になってる"
"オエ、きもぢわるい゛"
"天明中学ってあれじゃん、中継の時、炎でアナウンサー燃やしてた子。たしかあの制服、天明中学だったような"
"つまりは異能者の巣窟だと"
"そんなところで戦ってるってこの剣士何者?"
"おいおい、まだ知らねぇ奴がいるとはな。リンク貼っとくぜ"
"https://sns.com/minoharadouzyou.inou4649"
"いや、知らねぇ奴しかいないってww まだフォロワー700人弱だぞww"
"【悲報】箕原くん、異能者の巣窟へ"
"たしかこの人異能者じゃないんだよね?"
"だとしたらやべぇな。通常再生じゃ速すぎて剣筋が見えん"
"そうだ、ウチの箕原くん舐めんなよ"
"箕原くんファン多すぎて草なんだが"
しかもよく分からんが、バズってるし。
だがアリスがここへ到着した理由が分かった。
つまりここで拡散されてなかったら、俺は暁斗に燃やし尽くされていたわけだ。
「まぁ、何にせよ助かったわ、ありがとな」
今回はネット民の箕原くん呼びは大目に見よう。
コイツら1つ1つの拡散のおかげで助かったといっても過言じゃないからな。
「先輩、これは貸し1つ出来たと思っていいですか?」
アリスは俺からの感謝の言葉を不敵な笑みで返してきた。
この顔は何かすでに思いついている顔だ。
しかしこの恩は返すべきだと俺の本心はそう語る。
「あぁ。今回はデッカイ借りが出来た。俺に出来ることがあればなんでも言ってくれ」
「ふふっ! その言葉を待ってましたっ! 先輩、今異能対策部で未解決の事件がありまして」
お願いをする時、わざとらしく上目遣いで俺の顔を覗き込んでくるところ、コイツは昔から自分の美貌やスタイルをよく分かっている。
「なんだ? 俺にできることか?」
「それはもちろん……っ! ダンジョンです! 一緒に攻略して下さいっ!」
「あ? なんだって?」
どうにも厨二病心が擽られる単語が耳に入ってきたため、俺はあえてアリスに聞き返したのだった。