勢いよく割れる窓ガラス、突如現れた3人のアリスの動揺を隠せない先生、暁斗、詩。
先生、暁斗は俊敏な反応で一瞬にして廊下側へ後退、さっきまで席に座っていた詩でさえ、机が倒れるほどの勢いで立ち上がり、2人に続いて大きく退く。
「誰だい? こんな乱暴な登場の仕方をするのは」
「「「ワタクシですか? ワタクシは燿先輩の記念すべき門下生1号、アリス・レイン・フィッシャー。今は警視庁異能対策部管理官という立場、貴方達と相対する存在でもあります。今、ワタクシの本体と仲間が正面玄関から突入したところ。逃げ場はありませんっ!」」」
「さて逃げ場がないのはどちらでしょうか?」
今の状況でも尚、平然としている先生。
その理由はたった今アリスが割った窓ガラスの先、教室外のベランダにあった。
そこには今の派手な破裂音を聞いてやってきたのか、複数の人が立ち並んでいる。
男女半々、7、8人程度、しかしこの状況おそらく全員が異能者だと簡単に予測がつく。
「「「逃げ場がない、か。先輩、どうしましょ……?」」」
「どうしましょ……ったってなぁ。それは俺が聞きたいところだ」
パリンッ――
俺は竹刀を振るうことで目の前のバリアを破壊し、とりあえずアリスの元へ向かう。
おぉ……やはり異能者が動揺していると壊せるものなんだな。
「「「さすが先輩っ! 出られるならさっさと出たらよかったのに」」」
門下生から羨望の眼差しを向けられるが、その分身の方がすごいよ、とか言いたい。
「いや、アリスが来なけりゃ、今頃出られないまま丸焼けだったわ。ってことで助かった」
「「「いえいえ、とんでもない」」」
照れたアリス3人がまんざらでもなさそうにそう言う。
「うそ、バリアが……っ! トラックの衝突でもびくともしないのに」
バリアを張った張本人、詩は目を大きく見開き、驚きを隠せていない様子。
ってかそんな硬かったんだあれ。
とはいえ異能のコントロールには精神面が大きく関与している。
それにバリアを張ってからかなり時間も経過しているし、ダメージ蓄積型かは知らないが、すでに何度も叩きまくった後だ。
アリス登場により心も乱れただろうし、その点を関与していくとそこまでの強度はなかっただろうな。
「ま、出られたはいいが、圧倒的不利には変わりねーな」
先生、暁斗、詩、ベランダの異能者含めると10人前後。
対してこっちは異能者3人(全員分身)と竹刀持ってる人間1人だ。
さすがにこれで勝てるなどと自惚れたりはしない。
「ならどうでしょう? 今日はこのまま解散、というのは」
先生は優しい口調で思わぬ提案をしてきた。
「解散だ? この状況、その気になりゃ俺達を仕留められるだろうに。お前の意図が分からない」
「意図、か。燿くん、私はせっかく集めた同志を今は1人も失いたくないんだよ。君もそのお姉さんもかなりの実力なのは分かる。今ここで乱闘になれば、少なくとも何人かはやられてしまうだろうと思ってね」
「「「解散……。ワタクシ達異能対策部としてもここで全員の無事を保証して頂けるなら賛成よ。先輩はどう思います?」」」
先生の提案に対して異能対策部であるアリスも賛成らしい。
まぁ誰も傷つかないのが1番だし、俺だってそう思う。
しかし俺としては1つ気がかりなことがある。
「俺も穏便に事が済むならそれでいい。ただ、コトユミはどうなんだ? 返してもらえるんだろうな?」
「「「コトユミってあの水の……?」」」
「あぁ、色々あって連れてかれたんだ」
「「「そう、それなら人質解放が優先ね」」」
アリスはコトユミのことを知って考えを少し改めたようだ。
異能対策部としては人質を放っておけない、そういうことだろうか。
「悪いがそれはできない。彼女の力が必要だからね」
「なら交渉決裂ってことか。アリス、ここまで巻き込んじまったついでのお願いだ。コトユミ救助、手伝ってくれねぇか?」
「「「もちろん! 事の発端は異能対策部の仕事に先輩を巻き込んでしまったことです。ワタクシ達を存分に使ってくださいっ!」」」
アリスのことだし予想はしていたが、思ったよりも快く受け入れてくれた。
仕事とはいえここまで助けに来てくれて、更には手伝いまでしてくれるとは本当に優秀な門下生……って今や異能対策部管理官、こんな立場の人に対して少し失礼か。
相変わらず分身は同時にベラベラ喋るからうるせぇが。
「まぁ待ってくれ。私は本当に争いたくないんだ。燿くん、ここは1つ、勝負事をするというのはどうだい?」
「勝負事?」
先生はこの場で暴れようとせん俺達を止めるべく、新たな提案をしてくるのであった。