どうやら机と椅子の準備が終わったようだ。
2人分の机と椅子を横並びにくっつけて配置されている。
「ありがとうございます」と準備してくれた人に頭を下げてから、俺とコトユミはそれに腰をかけた。
「席も揃ったようだし、お話をしようか。まず人間達、今から大事な話をするから定位置にて待機しておいてくれ」
「「「「「はい」」」」」
声を揃えた人質達は、この教室から静かに抜けてどこかへ移動していった。
同じ人間の
そしてここからお茶会という名の情報収集が開始する。
「では初めに、燿くんと祐未さん。私達は異能者として活動しているわけなんだけど、何か聞きたいことはあるかい?」
いかにも教師らしく黒板の前に立った先生が問いかけてきたので、俺は颯爽と質問を投げた。
「じゃあお言葉に甘えて。あんたらの目的について教えてほしい」
「ふむ、耀くんは私達の目的が気になるんだね?」
俺のした質問に対して意図が正しいかどうか、先生は確認してきた。
「あぁ。そりゃ暁斗が映っていたテレビの中継を見たからな」
そう言いながら暁斗へチラッと視線を向けるとパッと目が合ったからか笑顔でピースサインを向けてくる。
一応同じように返したが、別に良い話してないからな?
「ということは、異能者のユートピアを創りたいというのは聞き覚えあるよね?」
「あの時、中継で言ってたことか。なんとなく覚えてる」
「ならまず君に問おう。なぜアルファウイルスが地球上で流行り、こんなにも大勢の人が死んだのか、そしてなぜ異能に目覚めた新しい人類が誕生したのか」
「なんで、か」
俺はこの難問に頬杖をつきながら考える。
決してこの姿勢はふざけてるとか気を抜いてるというわけではなく、久々に学校の机というものを目の当たりにしたときについ慣れた格好をしてしまった。
一応これでも真剣に頭を悩ませているのだ。
「これにはね、当たり前だけど答えがないんだよ」
「おい、マジか」
「はは、ごめんね。さっき言った通り答えはないんだけど、私なりに辿り着いた答えがあるんだ。耀くんは『ガイア理論』というものを知っているかい?」
「えっとなんだっけか、地球に意思があるみたいな考え方だったような」
たしかスマホで検索していた時、そんな単語を目にしたことがある。
やはり俺も男の子、そういう宇宙的な話は昔から大好きなのだ。
「おぉ。よく知ってるね。ガイア理論とは、地球がひとつの生命体として自己修復機能を持っているという考え方のこと。つまり今回のアルファウイルス蔓延は、日々進む地球の環境破壊を人間のせいだと判断した地球が自身を守るために起こした行動だと私は思っている」
「は? それはなんでも突飛すぎじゃ……」
「たしかにそう言われても無理はない。何せ明確な根拠がないからね」
「マジかよ」
俺はあまりの裏付けのなさに机からズッコケそうになる。
隣のコトユミに関しては、終始ポカンと口を開けっぱなしだった。
そりゃ『地球自身が人間を害だと見なし、何らかの方法でウイルスをばらまいた』なんて内容がぶっ飛びすぎていたからな。
理解が追いつかなかったのも頷ける。
「ただこれだけ根拠がない中1つ明らかになったのは、このアルファウイルス、地球上ですでに発見されたどの微生物とも異なる遺伝子構造を持っているんだ。そんな新種のウイルスが大量に地球へ飛来するなんて偶然じゃ考えにくい。誰かの差金、と思えば筋が通ると思わないかい?」
「つまりその誰かってのが地球だと?」
「人が起こすには規模がデカすぎるし、いくら新種といえども微生物自身が、ってのも無理があるだろうしね」
まさかアルファウイルスが宇宙からやってきたもは想像もしていなかった。
たしかにニュースではヒトからヒトへ感染しないという未知の感染経路を辿っている、とかなんとか言っていたし、地球外と言われれば少し納得がいく気もする。
「えらい規模の話だが、それとアンタらの目的になんの関係があるんだ?」
重要なのはここだ。
アルファウイルスについて、1つの可能性について知れたのは良かったと思うが、本来聞きたかったことである『異能者の目的』はまだ明らかにされていない。
「目的、か。そうだね、私達異能者はアルファウイルス感染によって生まれた異能者、つまり『ガイア理論』に
ガラッ――
そんな先生の講義とも言える時間の中、勢いよく教室の後ろのドアが開いた。
「ありゃ新しいお仲間さん? と思ったけど……1人害虫がいるのはどうしてだ?」
振り向くとそこには40代くらいで長身の男性が1人、開けたドアの前に立っている。
髪は長髪オールバックと顔の表情がよく分かる仕様になっているが、登場早々、眉間にシワが寄り目付きが鋭いことから、すでに機嫌が悪いことが分かった。
そんなイカつい見た目と裏腹に服装はスーツ、その上に理科教員だと言わんばかりの白衣を身にまとっている。
そして害虫とは?
そんな疑問が浮かぶ中、そう発言した本人の視線は一直線に俺へと向かっている。
はっきりとそう分かるほどに鋭く尖った眼差しだ。
「なんだ、こいつ?」
俺の疑問に対して、先生が間接的に答えを教えてくれる。
「博士くん、いくらなんでも害虫は言い過ぎだよ。耀くんもごめんね? 彼は我々の中で1番人間が大嫌いなんだ」
人間嫌い、つまり目の前のコイツも異能者か。
そして今日出会った中でダントツに強い殺気を醸し出している。
「先生、すまんな。同じ空間に人間がいると思うと虫酸が走っちまって」
博士とやらは先生へニコリと笑みを向け、そう言う。
そんな中突然、高速で宙を走る鋭利な何かが俺の眼前へ迫ってきた。
俺は反射的に首を左へ倒すことでギリギリそれを避ける。
ザスッ――
後ろを振り返ると、そこにはザックリと黒板にめり込んだナイフが目に入った。
まずただの刃物にしてはあり得ない威力。
そしてそれだけでなく、ナイフはまるで立ち昇る煙かのようにゆらゆらと静かにその姿を消していった。
「へぇ、人間にしちゃあ運がいいらしいな〜」
博士は先生へ眼差しを向ける中、横目で俺に一瞥くれる。
俺を見る蔑んだような眼、さっきからの物言い、完全に悪意のあるそれ。
コイツ、確実にヤバいやつだ。