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第15話 校内への潜入



「なんで邪魔したの?」


 暁斗はまっすぐな瞳で問いかけてくる。

 俺はできる限りオドオドした気持ちを隠して回答を返す。


「君、仲間に手を出すのはダメじゃないか? 仮にもこれから仲間を増やすって人がさ!」


 もう言葉は選んでいない。

 何を言ってもこの状況は変わらないだろうからな。


「なか、ま……? プ……ッ! ハハ、アハハハッ! お兄さん、やっぱり面白いことを言うねぇ!」


「ま、まぁウケたようで良かったよ。ならこの男、見逃してやってくれるか?」


「んー、まぁいいよっ! その代わり……」


 暁斗はニヤリっと口角を上げて代案を出す。


「お兄さん、僕達の基地へ遊びにおいでよ!」


 校門の先にある校舎を指差してそう言ってきた。

 おそらく基地、と表現したその場所は、異能者の巣窟のことだろう。

 そんな場所に俺を呼ぶ意図が全く分からない。


「遊びに? なに、俺を集団リンチにでもするつもりか?」


 少しでも情報を引き出すつもりで俺は質問を投げていく。


「そんな弱者がするようなこと、僕達はしないよ?」


「ならなんだ? 仲良くお茶会ってわけでもねーだろうし」


「ハハ、いいねお茶会! 本当はみんなで駄弁ろうって思ってただけだけど、飲み物でも飲みながら語ろうよ!」


 コイツ、マジで言ってんのか?

 そんな当たり前の疑問が浮かんだが、暁斗の全く雑念のないような笑みをみると信じざるを得ない。


 というかこの青年、俺が知る限り嘘をつくようなタイプでは無い気がする。

 テレビの中継にしても、今の仲間とのやり取りでも暁斗は包み隠さず自分の気持ちや考えを伝えていた。

 良くも悪くも、彼は正直なのだ。

 殺す時は殺すと言う、そんな人間。

 そんなヤバい奴ではあるが、ソイツがお茶会をしようと言っているのであれば、本当にそうするような気がする。


「へぇお茶会ねぇ。ちなみに断ったら?」


「え、断ったら? そうだなぁ……。君みたいに強い人間は今のうちに殺すかなっ! 計画の邪魔でしかないし!」


 彼は表情を一切変えることなくそう言う。


「おぉ、そうかい。なら行くしかねぇな!」


「し、師範……」


 俺の後ろに隠れたコトユミは、服の裾をピッピッと引っ張ってくる。

 振り返ると彼女は追い詰められた小動物のような瞳を向けてきていた。


 まぁこの状況じゃ不安になるわな。

 やっぱり巻き込むべきじゃなかったか。

 とはいえ今からは逃げられまい。

 いくらコトユミが水の異能者だからと燃やされない保証はないからな。


「大丈夫だ、コトユミ。お前は俺の後ろにしっかり隠れてろ」


「いえそうじゃなくて、師範が危ないんじゃ……」


 なんだ、俺の心配をしてくれているのか。

 この状況で人の心配とは、君はどんだけいい子なんだ。


「心配するな。こう見えても俺は瞬発力に自信があってな、もし異能者達に囲まれようもんなら、目にも留まらぬ動きで逃げ切ってみせるさ!」


「ええ……っ!? さっきアタシを守ってくれるとか言ってませんでした!?」


「守るなんて言ってねぇよ? 後ろに隠れてろっつっただけじゃん。むしろ守ってよ、その異能でさ!」


「もぉ、心配して損しましたっ!」


 コトユミは不安な気持ちそっちのけといった様子でムスッとむくれた顔をする。


「ははっ! お兄さんとお姉さん仲良いね! もしかして付き合ってるの?」


 暁斗は興味ありげな顔で問うていた。


「付き合ってねぇ!」

「つ、付き合ってません……っ!」


「ほら仲良いじゃん」


 咄嗟に出た言葉だが見事タイミングが重なったこともあって、余計に睦まじく捉えられた。

 特段それで悪い気もしないし、付き合っていると思われても不都合はないのだが、女性から頑なに否定されるのはなんとも悲しい気持ちになる。


「コトユミィ……。そんな強く否定しなくてもいいじゃん。なんか俺が男として終わってるみたいだろ?」


「そ、それを言うなら師範だって……否定してました」


「俺は、その……あれだ、先生が生徒に手出しちゃダメだろ? そんな感じ。だからお前自身を否定してない。あーゆーおーけー?」


「アタシも師範のこと、師範だと思ってて、その……師範は、えっと強くて、カッコよくて、優しいと思います」


「おお……なんか、ありがとう」


 恥ずかしい……っ!

 俺が言わせたみたいになってしまったが、女性からこんなにベタ褒めされることなんてないから普通に照れる。

 最早俺が液状化してプルプルになりそうだぜ。


 なんて思ってると、顔を赤く染めたコトユミが「あわわ」と液状化している自分の体を留めようと慌て始めた。

 言ってて恥ずかしくなってそうなったのであれば、めちゃくちゃ自業自得である。


「……っと危なかったですぅ」


 なんとか元の形状に保つことが出来たようだ。

 出会った頃であればこのまま水を噴射し回っていただろうが、それを抑える事ができるようになったのは、彼女がこの短い期間で収めた成果の一つであると思う。


「へぇお姉さんは異能のコントロールを頑張ってるんだね」


 今の異能を見て、興味の矛先がコトユミへ向いた。


「はい。でもまだ気持ちが荒ぶると抑えきれなくて……」


「異能の中には制御が難しいものもあるみたいだよ。ちょうどそういうのに詳しい仲間もいるから、お姉さんに紹介してあげるっ!」


「え……あ、ありがとうございます」


 コトユミはわけも分からずといった様子で返答している。

 それもそうか、簡単に人を燃やしてしまう点以外は普通の子供なのだから。

 まぁその1点がヤバいのだが。


「ま、とにかく入りなよ!」


 暁斗はひょこっと校門から校庭側へ飛び降り、施錠されてある門を徒手でゆっくりと開けてくれた。


「し、師範……」


 背後から俺の服の裾を掴むコトユミの手が微細に震えている。


「コトユミ、さっきはあーだこーだ言ったが、俺、友達と門下生は大事にするたちでな。だから俺の後ろにいりゃ問題ない。いくぞ」


「は、はい……師範」


 果たして今の励ましが効いたのか分からないが、彼女の震えはスッと消えた。

 表情こそ俯いてて見えないが、安心してくれたのならそれでいい。


 それから俺達は暁斗の案内通り校門をくぐり、校舎内へ導かれていくのだった。

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