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第14話 イカれた異能者ほど怖いものは無い



 正体が分かった途端、俺は警戒モードに入った。

 【炎】の異能者が突然何をしでかすか分からないからだ。

 あのテレビ中継の時も、全く殺意を向けないまま女性アナウンサーを殺していた。

 こういうやつが1番ヤバいやつだと俺は思う。


「あれ、中学生ですか?」


 コトユミは不思議そうに首を傾げながら校門上を見つめる。

 こいつ、あの時のニュース見てなかったのか。


 俺は無防備なコトユミの前に立ち、彼女を庇う形をとる。


「コトユミ、こいつは異能者だ! それも簡単に人を殺すタイプ」


「えっ!? そうなんですか!?」


 やはり知らなかったようで、彼女は目を丸くして驚いている。


「そんな警戒しなくても大丈夫だよ〜。それにしてもお兄さん、君は面白い人だね〜」


「あ? 何が?」


 この中学生は俺の体を頭からつま先まで、粘りつくような視線でじっくりとながめてきた。

 男にそんな見つめられても寒気しかしないんだが。


「だってその感じ、異能者じゃないでしょ?」


 そう言い放つ彼は嘘偽りない無垢な瞳で一切視線がブレることなく、俺を見つめている。

 確信をついている、そんな目だ。


「なんで、そんなことが分かる?」


「えっとね、異能の力がある程度高まると、異能者独特のオーラが視えるんだよ」


 そう言われると信じざるを得ない。

 実際俺のことを異能者じゃないと言い当てたのはこの中学生だけ。

 他のやつは俺の動きを見るとすぐ異能者だなんだと騒いでいたからな。

 つまりこいつの話が本当だとすると、今までのやつとは格が違う、ということになる。


「あーお兄さんとお姉さん、ちょっとだけ離れてて! 危ないから」


「危ない? 何が?」


 俺がそう質問すると、彼はニコッと可愛らしい笑顔を向けた後、地面に向かって指パッチンした。

 いや、正確に言うと地面に倒れた仲間に向かってともいえる。


 ボウッ――


 1人の男が発火したのだ。

 そしてもう1人にも再び青年が指をはじいだ瞬間、火が巡り始める。


「っ……!!」


 咄嗟の状況に俺は声が出ない。

 あまりにも躊躇なく人を燃やすような人間がいることを心の中のどこかで現実だと認めたくないからだ。


「……っ!? 燃えてる……熱い……っ! 痛いぃいだいいだいいだいぃぃぃぃ!!」


 俺は男の悲鳴でハッと意識が戻る。

 ヤバい、なんとかしないとっ!


「コトユミっ!!」


 今パッと思いつく限り【水】の異能しかなかった。

 俺は振り返ってコトユミを呼びかける。


「……は、はいっ!」


 彼女もまた俺と同様、時間の流れが止まったかのように言葉を失っていたが、幸い声をかけると我に返り、自らの手で強力な水を男達に向けて放っていく。


 結果、徐々に火が巡る中まだ火力の弱い間に手を打てたからか、早々に鎮火することができた。

 男達も極限の苦しみにより乱れた呼吸を這いつくばったまま、肩をゆっくりと上下させて整えている。

 なんとか一命は取り留めたようだ。


「お――っ! 水の異能っ!」


 青年はキラキラとした瞳でコトユミを凝視してきた。

 傍から見ると、中学生が憧れの眼差しを向けてきているように見えるだろうが、当事者の俺達からすれば大きく異なる。

 【炎】の異能を使う愉快犯が、新しいおもちゃを見つけた、そんな目にしか見えない。


「あ、暁斗、さん……なんで……」


 すると男の内の1人がゆっくち立ち上がろうと、地に片膝をつける。

 ソイツは先ほどの火により、服はもちろん全身の皮膚は爛れ、熱傷の度合いで言うと、おそらく普通の人間なら即入院即手術といったレベル。

 そんな男が今、仲間である【炎】の異能中学生改め、暁斗に現状の説明を求めている。


「え、もしかして大人なのに分からないの?」


「え、っと……」


 暁斗から投げられた実直な質問に男は答えられないでいる。


「普通の人間に勝てない異能者なんていらなくない?」


 そんな解とともに再び暁斗は、笑顔で自らの中指と親指を強く弾いた。

 パチッという高い音と同時に、男を燃やす炎はさっきよりも火力が強くなっている。

 それこそ悲鳴をあげる暇もないほど激しく。


「コ、コトユミっ!」


 何度も無尽蔵に燃やすことができそうな異能に対して【水】以外解決方法が沸かないことから咄嗟に彼女の名を呼ぶ。

「は、はい!」と再び能力を発動させようとするコトユミへ、暁斗から甘い声がかかる。


「あー待って待って。また邪魔するならさ、この街ごと燃やすよ?」


「え……」


 彼のその声にコトユミはたじろぐ。

 そんな怯んだ一瞬の間に、火力は底上げされて男の姿は文字通り消し炭となってしまった。


「もうちょっと待ってね、後1人処理しないといけない人がいるからさ」


 そう言って、暁斗はもう1人の男に目をやる。


「…………っ!」


 男は短い唸り声を発しながら、四つん這いでゆっくりとこの場を去ろうとしている。


 あの炎のサイコパス、トドメを刺すつもりだ。

 それも仲間の異能者に。

 まったくテレビ中継で見た通りのイカれ具合。


 戦いを好む俺は柄にもなく体を身震いさせ、逃げるにも攻めるにも初めの1歩がなかなか出てくれないときた。


 異能発動の条件や原理が分からない上に、暁斗の言動は予想もつかないほど狂っている。

 恐怖を抱く理由が俺の中で数知れない。

 今ここで選ぶ選択肢、1歩間違えれば死、そんな現実が待っているのだ。

 怖くないわけがないだろう。


「じゃあね〜。次の人生に期待でもしてな」


 俺が尻込む間に、暁斗は躊躇なく指を強く鳴らす。

 しかしその火が点くであろう刹那、男の位置は横数センチほどズレたことで幸い発火が生じなかった。


 俺が四つん這い状態のソイツを思いっきり蹴り飛ばしたからである。

 やってしまった……と思う反面、迷わず人を殺す青年に憤りを感じたからこその行動。

 俺もこんなイカれ野郎と対峙するのは怖い。

 しかし1人の命を救えたという事実を焦点に置くことで、少しでも気持ちを紛らわせる。


「今、邪魔、したよね?」


 暁斗から冷たい微笑みと声が届く。

 ターゲットが切り替わった瞬間である。

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