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第13話 【炎】の異能者、現る



「お、おい! テメェらなにもんだっ!?」

「お前らも異能者か!?」


 どうやらバレたらしい。

 男達はそう言い放ちながらこちらへ向かってくる。


「し、し、し、師範……っ! ど、ど、どうしましょ!?」


「コトユミ、いいか? こういう時は自然な感じで返すのが1番いいんだ。変な言い訳もせず、素直にな」


 アワアワと明らかに慌てふためくコトユミに対して、俺は師範らしくアドバイスを送る。

 まぁ見とけ、と俺は男達へ歩みを進めた。


「いや〜今日はお日柄もよく……」


「あ?」

「おま、何言ってんだ?」


 違ったらしい。

 ちょっとだけお怒り気味だ。


「いやね、異能者の方が集まってるなんてウワサを聞いたもんで、ちょっと興味本位?的なやつで来ちゃっただけですわ。全然気になさらんで下さいな」


 まぁ嘘はついていない。

 つまり疑いようもないはず。


「あーそういう。普通の人間からしたら、興味湧くのも無理ないか」

「いや、でも後ろの女、異能者だろ? つまりそれと一緒にいるこの男も異能者の可能性が高い。ここで素直にそう言わないということは、どうも仲間になりにきたって感じじゃないんだろうな」

「そうか! ならこれ、暁斗あきとさんに報告した方が良いんじゃないか?」

「だな、処理した方がいいタイプかもしれんし」


 俺の一言で話が勝手に広がっていく。

 しかもその推測はある程度、的を射ている。

 ずいぶん警戒心が高いやつを門番にしたもんだ。


 ただ……俺、異能者じゃないけどね。


 男の内の1人がスマホを取り出して、どこかへ連絡しようとしている。

 さっき言ってた暁斗ってやつに?

 おそらく電話の先のソイツも異能者。

 しかもおそらく立場が高い人だろうし、ここはなんとでも防ぎたい。


 俺は背負っている袋から竹刀を抜き取る。

 まずは目の前にいるスマホを持ってない男、コイツが位置的に邪魔だな。


「おい、テメェ抵抗するつもり……っ!?」 


 俺は今放てる最速の剣技をそいつの首元に打った。


「ぐあ……っ!」


 勢いよく迫る剣技に男は為す術なく吹っ飛ばされる。


「な、何をしたコイツ!?」


 スマホ持ちの男は一旦ポケットにそれを仕舞い、改めて俺に体を向き直した。

 とりあえず連絡は防げたようだな。


 さて、この状況どうする?

 さっきぶっ飛ばした男は当たり所が悪かったのかすでに伸びてるし、先に手を出してしまったことに関してなんの言い逃れもできない。

 ま、こうなったら1人も2人も一緒か、こいつもぶっ飛ばしちゃうってのが1番早い気がする。

 いやさすがにこれは暴論か、と思ったのも束の間。


「ちっ! 連絡する隙はなさそうだな」


 相手はそう言いながら、バリバリ戦闘態勢に入った。

 そして突如ヤツの右肘から指先までの形状が変化し、大きな刃へと遂げる。

 肌の色や質量は腕だったときのものと同等なため、自分の体の一部を変形させる異能的な感じだろうか。


 普通に考えると相当奇妙だし、現実離れした現象だ。

 しかし最近色んなもんを見すぎて、目が慣れてきたのかあまり驚きはなかった。


「ほぉそれが君の異能なんだな」


 俺がそう言うと、男はニヤリと口角を上げた。


「これを見ても驚かねぇってこたぁ、やっぱお前異能者なんだな! 仲間にならない異能者は計画の妨げになる可能性がある。だからそういう奴は殺してもいいって暁斗さんに言われてんだ。お前の首を持ち帰って、俺はこの組織で上り詰めるっ!」


「おいおい、日本もえらく物騒になったもんだな。このご時世に首を持ち帰るなんて言葉、まさに世は乱世って感じか」


 そう思うと、自然と口元がニヤけてくる。

 思う存分剣術を振るえるとなると、修行にうってつけ、戦いを好む俺には都合がいい。


 あ、別に人を無差別に殺したい殺人的なあれじゃないぞ?

 ただ自分の腕を試す場が欲しかっただけ。

 元々の世界じゃそんなことしたら暴行罪、速攻でムショにぶち込まれるだろうからな。


「何笑ってんだ、気持ちわりぃっ!!」


 男は刃を宿した右手で俺に全力で斬りかかろうとしてきた。

 異能者独特の身体能力で地面を強く蹴り、常人から逸した速度で迫ってくる。


 それにしても異能者と戦う前に自然と微笑んじゃう癖、直さなきゃな。

 いっつも気持ち悪がられたり、ビビられたりするし。

 俺も一応まだ周りが気になる若者、そういうのちょっと傷つくんだよね。


 なんてこと考えながら、相手の刃を竹刀で容易に受け止める。


「なっ!?」


 男はたかが竹状の棒っ切れに自分の刃が止められるなど、さも想像もしていなかったというように目をギョッと見開く。

 俺としては走り出しから素人だと分かったのでこんなもんだと思っていた。


「うーん、踏み込みが甘いかなぁ」


 最近はコトユミの指導をしていたので、自然に相手の欠点がポロリと口から出てしまう。


「この……っ! 調子に乗りやがってっ!」


 俺の口ぶりに苛立ったようで、男は怒りに任せて何度も腕を振り回してきた。

 素人が力任せになった時点で技に体重が乗らず、より軽くなる。

 あぁ最初の一撃はまだマシだったのにな。


 これ以上長引かせるのはただの弱いものイジメ。

 こんなの趣味ではないので、早めに切り上げることを心に決めた。


『瞬き』+『抜重』


 俺は相手の刃を竹刀で受ける振りして、サイドへ避ける。

 男は見事なほど綺麗な空振りを決め、体を大きくふらつかせた。


「箕原流剣術 三の型 落とし雨」


 瞬きの間に俺は宙へ高く飛び、竹刀を相手の頭部めがけて最速で振り下ろす。

 そんなシンプルな型だが威力は絶大。

 高くから振り下ろす分、加速度がつくから単純に強いんだ、なんて親父が言ってた気がする。


「ングァ……ッ!」


 男が振り向いた頃には時すでに遅く、落とし雨は一直線にヤツの頭をぶっ叩いた。

 そんな俺の一振りで相手はそのまま地面に這いつくばう。

 2人とも異能者なのに1発で伸してしまった。

 なんか手応えなかったな。


 この三の型、一見高く飛んで振り下ろすなんて動作も大きく、隙も無駄も多いとか思われがちだろうが、箕原流なら話が違ってくる。

 『瞬き』という独自の技術があるため、そんな非効率に見える型すら最速の剣技へと進化させてしまうのだ。


「し、師範っ! これが落とし雨ですか……っ! すごいです!」


 コトユミはすたすたと俺に近寄ってきて、目を輝かせている。

 そういえば彼女との修行中はあまり箕原流剣術を使わないからな。

 新鮮に感じているのだろう。


「よし、そんなに興味あるなら今度打ってやるよ」


「や、大丈夫ですぅ」


 コトユミもだいぶ戦いに慣れてきたし、そろそろ箕原流を混ぜながらとか思ってたが、頑なに断ってきやがった。

 さっきまであんなに目をキラキラさせていたのに、今は目を瞑ってブンブンと首を横に振っている。

 なんという態度の変化だ、帰ってからもうちょいシゴいてやろう。


 なんてコトユミと話していると、突然校門から子供らしい甘い声が降ってくる。


「へぇ、見張りから電話が入ってたから一応様子見にきたけど、なんか面白いことになってるね〜」


 そこには校門の上にひょこっと腰をかけ、足をぶらぶらさせている制服姿の男の子が目に入った。

 この子の顔や声色、それには確実に見覚えがあり、不思議と俺の心に不穏な感情を呼び起こさせる。

 そしてその心緒の正体は一瞬にして俺の記憶から引きずり出され、事を明らかにした。

 そう、テレビ中継に現れた【炎】の異能中学生、今回のターゲットである。


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