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4.親友

日和ひより、いま家?』


 LINEを送ってきたのは、井元穂花いもとほのか。昨年、高校一年生のときに同じクラスだった女の子で、一番仲が良かった。二年生になった今も、会話相手はほとんど彼女だ。

肩の上で揺れるショートカットが似合う、天真爛漫で明るい女の子。時々天然な発言をすることもあり憎めない可愛らしさがある。でも私と二人でいるときはちょっと違っていて、真面目な一面もあるところもまた彼女の良いところだ。

 寝転んだまま、私は「うん」と返事を送る。気の置けない相手だから、これぐらいシンプルな返事でも大丈夫。生まれつき人付き合いが苦手な私にとって、穂花みたいな気を許せる友達がいることが救いだ。


『そっか。あのね、今日ちょっと気になることを聞いちゃって』


「なに?」


 なんだろう。彼女から連絡が来るときは、大抵遊びの誘いか恋の悩み相談なので、なんだか真剣ぽい雰囲気に首を傾げた。


『実は今朝、うちのクラスにゆっきーが来たんだけど』


 ゆっきーとは、私のクラスの担任、雪村先生のことだ。


「4組に先生が?」


『うん。なんか、机を知らないかーって』


「それって」


 私の、と続けようとしたけれど、いったん言葉を切る。もしかしたら、穂花が何か情報をくれるかもしれないと思って。


『そのときは誰の机かなんて分からなかったけれど、うちのクラスの男子が、その机を見たって言うから、ゆっきーと一緒に出て行ったの』


「それで、どうなったの?」


『そのまま。たぶん、机を見つけたゆっきーは2組に戻って行ったんだと思うけど』


 そこまで聞いて、私が先生から聞いた話と同じだったため、特になにも気になることはないと思った。だが、穂花の話はそこで終わらない。彼女が言葉を打ち込んでいる間が、私にはひどく長く感じられた。


『昼休みに、女子が話してるの聞いたの。ゆっきーが探してた机を、運んでいる人たちを見たって。その人たちが、日和の悪口を言っていたことも』


 すかさず指を動かして「それ、誰?」と送る。誰かが私の机を運んだ。それは間違いない。でも、クラスメイトたちは誰も口を開かなかった。きっと、隠したいから。それが分かっていて、私は悶々と一人考え込んでいたのだ。


『それは』


 彼女がとある人物の名前を送ってきた。

 ほら、やっぱり。

 私の机を隠した張本人は、2組の中にいた。


「でかした、穂花」


『いや〜あたしの日和にいじわるするやつがいるなら、かかっ

てこいやーってね』


 たぶん穂花は、いまスマホを手にボクシングのポーズでもとっている。


「穂花が闘うわけじゃないでしょ」


『そうだけど! そうだけどさ! なんかそういうの、うざいじゃん』


 穂花の口から(実際にはメッセージだが)「うざい」なんて言葉が出てくるとは思っていなかった。彼女に汚い言葉は似合わない。天然少女も、どうやらいたく頭に血が上っているようだ。


「とにかくありがとう。たぶん、ちょっとしたいたずらだと思う。気にしないで大丈夫だよ」


『それならいいけどさあ。周り、気にしといた方がいいよ。じゃあまた明日ね』


「分かった。また明日」


 穂花の優しさに触れて、先ほどまで静かに荒れていた心がスンと凪いだ。

 何が起こっても、私には穂花がいる。だから大丈夫。

 まだ始まってもいない嵐を憂うよりは、優しい友達がいることに感謝して、そのまま目を閉じた。


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