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3.帰宅


 結局その日、私の机を隠した犯人は分からなかった。先生は放課後に私を職員室に呼び出して、「まあ余計な心配はするな」と当たり障りのない励ましをしてくれた。わざわざこういうことをしてくれる先生は、なんだか熱血っぽい。そういう人は嫌いじゃなかった。


「ただいまー」


「……」


 家に帰ったところで誰もいないのは分かっているのに、「ただいま」と言ってしまう。

 母親は研究者。

 父親は某有名商社の営業マン。

 二人とも、夜遅くまで帰ってこない。

 でも、寂しいっていう感情はなくて。帰ったら淡々と部屋で課題を始めるだけだ。

 母も父も、いわゆる教育ママ、パパだ。

 名門高校を出て一流大学に進学した二人は大学の研究室の先輩、後輩だったらしい。「努力すれば必ず報われる」と思っているうちの親は、私にもあらゆる「努力」をすることを強いてきた。

 特に勉強に関しては手を抜くことを許さない。頑張ればできるのだから、頑張らないのがおかしいというのが二人の口癖だ。


 あなたは私たちの娘なんだから。

 やろうと思えば、なんだってできる。

 努力さえ怠らなければ。


 小さな頃から何度も言われ続けて、お決まりのように二人に反抗するようになった。反抗、と言っても、面と向かって彼らと喧嘩をするわけではない。「おはよう」と「おやすみ」以外、ほとんど口を利かないのだ。

 それなのに、「ただいま」と口にしてしまう私は滑稽だ。

 二階にある自分の部屋へと閉じこもり、ベッドに身を投げ出した。電気もつけないまま、天井を見つめる。今日の学校での出来事は明らかに不自然だった。不自然なことには必ず意味がある。

 だとすれば、考えられることは……。

思考を巡らせようとしたところで、ブル、とスカートのポケットに入れていたスマホが震えた。


「なんだろ」


 どうでもいいアプリの通知かと思ったが、よく見るとLINEの通知が来ていた。普段から連絡を取り合うような仲の相手はあまりおらず、この時点で誰から連絡が来ているのかは察しがついた。


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