結局その日、私の机を隠した犯人は分からなかった。先生は放課後に私を職員室に呼び出して、「まあ余計な心配はするな」と当たり障りのない励ましをしてくれた。わざわざこういうことをしてくれる先生は、なんだか熱血っぽい。そういう人は嫌いじゃなかった。
「ただいまー」
「……」
家に帰ったところで誰もいないのは分かっているのに、「ただいま」と言ってしまう。
母親は研究者。
父親は某有名商社の営業マン。
二人とも、夜遅くまで帰ってこない。
でも、寂しいっていう感情はなくて。帰ったら淡々と部屋で課題を始めるだけだ。
母も父も、いわゆる教育ママ、パパだ。
名門高校を出て一流大学に進学した二人は大学の研究室の先輩、後輩だったらしい。「努力すれば必ず報われる」と思っているうちの親は、私にもあらゆる「努力」をすることを強いてきた。
特に勉強に関しては手を抜くことを許さない。頑張ればできるのだから、頑張らないのがおかしいというのが二人の口癖だ。
あなたは私たちの娘なんだから。
やろうと思えば、なんだってできる。
努力さえ怠らなければ。
小さな頃から何度も言われ続けて、お決まりのように二人に反抗するようになった。反抗、と言っても、面と向かって彼らと喧嘩をするわけではない。「おはよう」と「おやすみ」以外、ほとんど口を利かないのだ。
それなのに、「ただいま」と口にしてしまう私は滑稽だ。
二階にある自分の部屋へと閉じこもり、ベッドに身を投げ出した。電気もつけないまま、天井を見つめる。今日の学校での出来事は明らかに不自然だった。不自然なことには必ず意味がある。
だとすれば、考えられることは……。
思考を巡らせようとしたところで、ブル、とスカートのポケットに入れていたスマホが震えた。
「なんだろ」
どうでもいいアプリの通知かと思ったが、よく見るとLINEの通知が来ていた。普段から連絡を取り合うような仲の相手はあまりおらず、この時点で誰から連絡が来ているのかは察しがついた。