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第6話 ようこそ

「戻りました」


 ヒューイが中央街へ戻るルートを覚えていたため、リクス達は何とか戻ってくることが出来た。夜だからか外を出歩く者はほとんどおらず、人目を過度に気にして隠れ家に戻る必要が無かったのは幸いだ。ただ浴場付近を通った際、バットを持った男数人が警戒するようにその場を回っていたのが少し気になった。夜侵入を試みる輩でもいるのだろうか。


 背中の傷はシュビナードが消えて以降も特に異常なかったが、皆に言っても信じてもらう事は無理そうなため、一旦2人だけの秘密となった。一度だけの幸運という言葉も気になる。今後は一層注意して動いた方が良いかもしれない。また、シュビナードの件は下手に触れるなと忠告もされたため、他の人たちがどういう対応を取るか静観することに決めた。


「遅かったね! 心配だったよ! で、どうだった? リクス君足速いでしょ!」


 隠れ家へと戻ってくると、夕方頃のテンションでミロナが出迎えてくれた。


 ヒューイがリクスの肩を叩いて笑みを浮かべる。


「凄いね彼。今日は僕もいたけど試験であれだけ動き回った人はいないんじゃないかな」


 ミロナがちょうだいといわんばかりに手を出してくる。リクスは何が欲しいのか気づきレコーダーを手に置く。


「じゃ、これカプスさんに渡してくるね! ようこそリクス君!」

「ミロナちゃん、最終決定権はカプスさんだよ」

「ヒューイ君が言うなら確実でしょ! よろしく!!!!」


 ミロナは興奮した様子でドタバタと廊下を走って行った。


「ははは。ミロナちゃんテンションずっと高いなぁ。よっぽど君を気に入ってしまったみたいだね」

「……?」


 発言に棘がある気がしたのは気のせいか。まぁ言葉というのは難しい。


 リクスは気にせずはははと笑い返した。


「ようこそリクスくーん!」

「うおっ!」


 すぐ戻ってきたミロナはリクスに飛び込んでいき、2人はその場に倒れ込む。


「試験突破だよ! おめでとー!!」

「う、うん」


 合格判断が速いなとリクスは笑う。


「ミロナちゃん、夜だから静かに」

「ご、ごめんなさい! でも嬉しくてさ」

「はぁ……ったく……」

「リクス君いるかな」


 カプスがリクス達の前までやってくる。初めて会った時の威圧するような表情とは打って変わり優しく親しみのある顔へ変化していた。リクスはホッとする。


「ミロナちゃん、リクス君に抱きつくのはそろそろやめたほうがいい。重そうだよ」

「あ、ごめんリクス君! てかちょっとその発言は駄目ですよカプスさん!」


 カプスの言葉にミロナは反応し、さっさとどいてくれる。女子に抱きつかれた経験が乏しいリクスは少し新鮮だったものの、重いのは事実だった。


「(ぐ、ぐるじかった……)」

「何か言ったリクス君?」

「何も」

「本当に」

「何も」

「コホン。……リクス君、ここで立ち話もなんだ。もう仲間なんだからこの建物は好きに使ってくれ。第二のマイホームってやつだ。また明日詳しく話そう」

「分かりました。ありがとうございます」

「じゃ、空いてる部屋使おうねー! リクス君来て―!」

「う、うん」


 リクスはミロナに引っ張られ建物内へと入って行った。


 カプスも入ろうとすると、ヒューイが引き留める。


「カプスさん話があります」

「どうした?」

「シュビナードが接触してきました」

「っ!?」

「後、リクス君がウィジアという名を」

「……時間は無さそうだな」


 次の日の朝。


 リクスはカプスに呼び出されていた。行くと、全員が揃って長机を囲むように椅子に座っていた。


「とりあず、新入りのリクス君にここでのルールとかお仕事について教えようと思う」

「仕事?」


 刑務作業の代替でもあるのかとリクスが首をかしげると、カプスは優し気に答えた。


「仕事と言っても大したことは無い。賃金も出ないしね。ただ仲間集めとか薬に使える草やらがあったら取ってくるみたいな感じだ。基本は完全自由。情報収集はヒューイや俺、スキア、リールが担当している。絶対守って欲しいルールとしては、ここに化け物を連れてこないことと、仲間以外を連れてくるときは目隠しすることだな。尾行にも気を付けろ。何か月もかけて近寄りがたい場所にしたので。また、互いの罪については無理に聞かない事。各々生きてきた環境が違うのでな。後はまぁ、助け合いかね。仲間が困ってれば出来る限り協力すること。ここは脱出が主目的ではあるが、対象者となってしまった人間が生き残れるようにという目的もある。とりあえず、君は好きに一日を過ごしていればいい。数人で組んでるグループの延長線さ」

「了解です」


 長々と話してはいたが、要は何かあれば協力、基本は自由で仲間を危険にさらさない限りは特に制限は無い。そして、この街から抜け出すのに必要な情報を収集するのはいわゆる古参メンバーということか。


 その後軽い自己紹介も行われ、あの一番強そうな屈強な男がスキア、辞書かなにかを読んでいる子供がリールであることが分かった。


「さて、リクスくんはミロナと一緒に人助けでもしてもらおうかな。今は特にやる事も無いしね」

「了解です」

「やったー! リクスくん行こうぜ!」

「うん」


 朝からハイテンションのミロナ。リクスはやれやれとため息を漏らした。


 街の通りにて。


 部屋を案内された後聞いてみようかと思っていたが、ボロボロのベッドに黒い虫もいた上にどこからか蟻が侵入してきていたというのもあり、その処理で他の事など考えられていなかった。リクスは折角二人で歩いてるので聞いてみる事にする。


「ミロナさんてさ」

「仲間だしため口でいーよー」

「分かった。ミロナって、化け物についてどこまで知ってるの?」


 ミロナも他者との話しぶりを見るに長い間いるメンバーの一人なのだろう。ならば色々と知っている事も多い筈。


 ミロナはうーんと頬を突いた後答える。


「今の所分かってるのはローブの奴が複数タイプいるってのと、意外と足は遅いってことかなぁ。後は私たちみたいな対象者以外は絶対襲わないってことと、捕まると影に飲み込まれちゃうってことかなぁ」


 ほとんどヒューイと同じ内容だったが、一つ気になる発言があった。


「影に?」


「うん。飲み込んで殺すんじゃない? 捕まった人直接見たことは無いから詳しいことは分かんないけど」


 影に飲み込まれるというのはどういうことなのか。……他の人なら見たことあるのか? だがシュビナードは殺さないと言っていなかったか? まぁ今は置いておこう。捕まりさえしなければ相手の目的がどうであれ関係無い。


「……そっか。あ、ヴァラリアンってのは分かる?」


「結構有名な奴だよねーそいつ。人に擬態できる奴で、ほっとんど出てこないけどローブの化け物と違って誰彼構わず殺すってことぐらいかなぁ? よく知ってるね流石はリクスくん」


「襲われた」


「えぇ!? かなりの確率引いたね!? 大丈夫だったの!? 怪我は!? 何で言わないの!? 馬鹿なの!?」


 心配そうにリクスの身体をペタペタ触るミロナ。リクスは苦笑いして言う。


「ご、ごめん。正直危なかったけど、変な人が出て来て助けてくれたから」


「……変な人?」


 ミロナはリクスの顔を上目遣いで覗く。


「シュビナードって名乗ってた」

「シュビナード!? ……マジかいな。だからヒューイくんの顔がちょっと違かったのか。リクスくん達があれと出会って無傷なのも納得」


 ミロナは目を見開いて数回頷いていた。そんな有名人なのか?


「何者なの?」


「分かんない。ヴァラリアンを唯一制御できる人みたいで、ちょくちょく出没する化け物並みの謎人物ってことだけ」


 ミロナは前に向き直り歩き出す。


「鍵の話してたでしょ?」

「うん」

「あの鍵はこの街と私達の住む街の……森かな? と繋がってる扉の鍵みたいでね」


 ミロナは平然と言ってのける。


「街と繋がってるの?」

「具体的な場所は分からないけどねー。何かそーゆー話」


 そんなものがあるのか。


 連れて来られる際、麻酔を打たれていたため時間は分からなかったが、意外と近場なのだろうか。しかしこんな場所が近くにあれば誰かしら気づくはずだろう。謎は深まるばかり。あり得ないなと一瞬脳裏をよぎったが、シュビナードと出会っているため何かしらの方法で実現させているのだろうと何故だか納得できた……気もする。


「そんな情報どこで手に入れてるの?」

「カプスさん情報だよー。よく分かんないけどあの人達そーいう情報どっかから仕入れて来るの」


 この街の秘密に大きく関わりそうな話なんて、普通にこの街で暮らしていても手に入らないだろう。なぜ彼らは分かるんだ……?


 また、建物内を少し歩いたところ薬品なども多く見つけることが出来た。一体どうやって必要物資を調達しているのか。軍による配給がここまで手厚い筈も無いため、やはり彼ら自身にも隠し事がありそうだ。信頼されればいつか話してくれるのだろうか。今は何を聞いても煙に巻かれるだけだろう。


「そうだ、ミロナ後一つ」

「なぁに? 何でも聞いて―何でもは分からないけど結構すごいこと知ってるよー」

「ウィジアって人知ってる?」

「誰それ」


 当たり前だが即答だった。


「この街で罪人の管理してるらしいんだけど……」


 管理かどうかは明確じゃないが、管理者側の人間だとは思っている。


「そっちの人かー。悪いけど分からないなー」


 何を思ったかミロナは急に立ち止まるとまたリクスの方を向く。


「何? もしかしてその人探すためにワザと捕まった感じ?」

「うん」

「だからビビりじゃなかったのかー! 納得―! すごーい!」


 ミロナは手を合わせて羨望の眼差しを見せた。そんなに凄い事なのかリクスは頭の中にハテナが生まれていく。


 リクスは軽く咳払いして言う。


「ろくな情報は手に入らなかったけど、ここは普通じゃないってのは分かってたから」

「ふーん。私は全然そういうの分かんない状態でここ来たから最初は不安だったなー」


 また歩き出すミロナ。


「カプスさん達とはどうやって出会ったの?」

「私はねー、最初1人でぼっちライフ送ってたらわる―い人達とちょっと揉めちゃってね。私可愛いからさ」


 ナルシスト発言。確かに顔は整っており、初めて見た時から好印象ではあったが、自分で言うのはなとリクスは苦笑いする。


「そ、そうなんだ……」

「おいっ! 今日から倍にしろって言ったよなぁ?」


 浴場の方で怒号が飛ぶ。


「ご、ごめんなさい! で、でも」

「でもじゃねーよ愚図が」


 近づいて行くと、どうやら翠髪のなよなよした男が刺青の入った男に蹴られているようだった。周りの人々は自分に火の粉が降りかかるのを恐れ傍観に徹している。


「(最後にいいかも)」

「ん?」

「助けなきゃ! 行こうリクス君!」

「う、うん!」


 リクスはミロナに引っ張られ騒動の場へと向かった。


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