豪華な金縁が施された鏡に映っているのは、ほっそりとした身体をまっすぐにして立つ、一人の若い貴族令嬢の姿だった。
珍しい青い髪は額からきっちりとハーフアップに結い上げられ、背中に流れるカールには少しの乱れもない。
同じく珍しい、きれいに見開かれた紫色の瞳は、まるで見るものを吸い込むような、そんな美しさを湛えている。
まるで精巧なつくりの人形のように、令嬢は美しい微笑みを浮かべ、キープしていた。
「まぁ、アイリス様、とてもお美しいですわ」
「えぇ、いつも以上の仕上がりです。やはり、ドレスはこのお色にして正解でしたね」
アイリスと呼ばれた令嬢が身にまとっているのは、鮮やかなロイヤルブルーのドレス。
華やかな金刺繍で飾られているが、デザイン自体はとてもシンプルで……胸元はもちろん、腕も手首まですっぽりと覆うデザインは、まだ十八歳のアイリスには、少々地味、と言ってもいいくらいだった。
しかし、年齢相応の華やかさよりも、アイリスにとって大切だったのは、品格である。
なぜなら———。
「お嬢様、エドワード王子殿下も、きっと満足されるに違いありませんわ」
金髪碧眼で整った顔立ち。
絵に描いたような王子様のルックスをした、ローデール王国第二王子、エドワードをアイリスは思い浮かべた。
エドワードの瞳の色のドレス。
エドワードの髪色のアクセサリー。
メイド達が手早く、アイリスを金のアクセサリーで飾っていく。
「アイリス様、本日の護衛の騎士様がいらっしゃいました」
ドアをノックする音とともに告げられた言葉。
「わかったわ」
アイリスはドレッサーの前に置かれた、金の飾りが付いた扇を手に取った。
今日の夜会にアイリスが手に持つ、唯一の持ち物である。
アイリス・ノーフォーク侯爵令嬢。
『完璧令嬢』ともささやかれる彼女は、エドワード王子の、完璧な婚約者でもあった。