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婚約の記憶(だけ)を失った侯爵令嬢は、人生をやり直すことにしました
櫻井金貨
異世界恋愛ロマファン
2024年10月28日
公開日
3,160文字
連載中
〜「もう、いいや」で自分に魔法をかけてしまったようです〜

ローデール王国のアイリス・ノーフォーク侯爵令嬢は、聡明で美しく、礼儀作法もバッチリな、『完璧令嬢』。そんな彼女は、絵に描いたような王子様、エドワード王子の婚約者だった。
しかし、隣国のノール王国国王を迎えた歓迎夜会で、アイリスはエドワードから突然、婚約破棄を宣言されてしまう。

動揺したアイリスは彼女らしくなく、気を失って、床の上に倒れ込んでしまった。
その時、アイリスは、頑張ってきた自分も、完璧だった自分も、「もう、いいや」と思うのだった。

それをきっかけにして、アイリスが思ってもいなかったことが起こる———。

婚約破棄されたことをきっかけに、アイリスが新しい世界への扉を開く姿を描いた物語です。


※全9話

第1話 完璧令嬢

 豪華な金縁が施された鏡に映っているのは、ほっそりとした身体をまっすぐにして立つ、一人の若い貴族令嬢の姿だった。


 珍しい青い髪は額からきっちりとハーフアップに結い上げられ、背中に流れるカールには少しの乱れもない。


 同じく珍しい、きれいに見開かれた紫色の瞳は、まるで見るものを吸い込むような、そんな美しさを湛えている。


 まるで精巧なつくりの人形のように、令嬢は美しい微笑みを浮かべ、キープしていた。


「まぁ、アイリス様、とてもお美しいですわ」

「えぇ、いつも以上の仕上がりです。やはり、ドレスはこのお色にして正解でしたね」


 アイリスと呼ばれた令嬢が身にまとっているのは、鮮やかなロイヤルブルーのドレス。

 華やかな金刺繍で飾られているが、デザイン自体はとてもシンプルで……胸元はもちろん、腕も手首まですっぽりと覆うデザインは、まだ十八歳のアイリスには、少々地味、と言ってもいいくらいだった。


 しかし、年齢相応の華やかさよりも、アイリスにとって大切だったのは、品格である。


 なぜなら———。


「お嬢様、エドワード王子殿下も、きっと満足されるに違いありませんわ」


 金髪碧眼で整った顔立ち。

 絵に描いたような王子様のルックスをした、ローデール王国第二王子、エドワードをアイリスは思い浮かべた。


 エドワードの瞳の色のドレス。

 エドワードの髪色のアクセサリー。

 メイド達が手早く、アイリスを金のアクセサリーで飾っていく。


「アイリス様、本日の護衛の騎士様がいらっしゃいました」


 ドアをノックする音とともに告げられた言葉。


「わかったわ」


 アイリスはドレッサーの前に置かれた、金の飾りが付いた扇を手に取った。

 今日の夜会にアイリスが手に持つ、唯一の持ち物である。


 アイリス・ノーフォーク侯爵令嬢。

『完璧令嬢』ともささやかれる彼女は、エドワード王子の、完璧な婚約者でもあった。

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