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第4話 完璧令嬢の誕生

 豪華な金縁が施された鏡に映っているのは、ほっそりとした身体をまっすぐにして立つ、一人の若い貴族令嬢の姿だった。


 珍しい青い髪は額からきっちりとハーフアップに結い上げられ、背中に流れるカールには少しの乱れもない。


 同じく珍しい、きれいに見開かれた紫色の瞳は、まるで見るものを吸い込むような、そんな美しさをたたえている。


 まるで精巧なつくりの人形のように、令嬢は美しい微笑みを浮かべ、キープしていた。


「まぁ、アイリス様、とてもお美しいですわ」

「えぇ、いつも以上の仕上がりです。やはり、ドレスはこのお色にして正解でしたね」


 アイリスの支度を手伝った侍女達が、口々に褒めたたえる。


 アイリスと呼ばれた令嬢が身にまとっているのは、鮮やかなロイヤルブルーのドレス。

 見た目にもすぐわかる上質な素材で、青の発色が美しい。


 華やかな金刺繍で飾られているが、デザイン自体はとてもシンプルで……惜しみなく高価なレースを用いてはいるが、胸元はもちろん、腕も手首まですっぽりと覆うデザインは、まだ十八歳のアイリスには、少々地味、と言ってもいいくらいだった。


 しかし、年齢相応の華やかさよりも、アイリスにとって大切だったのは、品格である。

 たっぷりと左右に張り出したドレスのボリュームは国賓を迎える今夜の行事にふさわしく、何よりもアイリスの立場にぴったりだ。


 なぜなら———。


「お嬢様、エドワード王子殿下も、きっと満足されるに違いありませんわ」


 金髪碧眼で整った顔立ち。

 絵に描いたような王子様のルックスをした、ローデール王国第二王子、エドワードをアイリスは思い浮かべた。


 エドワードの瞳の色のドレス。

 エドワードの髪色のアクセサリー。

 メイド達が手早く、アイリスを金のアクセサリーで飾っていく。


「アイリス様、本日の護衛の騎士様がいらっしゃいました」


 ドアをノックする音とともに告げられた言葉。


「わかったわ」


 アイリスはドレッサーの前に置かれた、金の飾りが付いた扇を手に取った。

 今日の夜会にアイリスが手に持つ、唯一の持ち物である。


 アイリス・ノーフォーク侯爵令嬢。


 『完璧令嬢』とささやかれる彼女は、エドワード王子の、完璧な婚約者でもあった。

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