今夜は月が出ていない。周りは深い森だ。
現地に着いて早々、クレアは文句も言えないジイヤの早技に怒り、絶対この屋敷には入らない!! と言うし、ティノは眠いようで寝る所を探そうとしていた。
そんな困った二人の要求をロサお嬢様にお伝えして来ると言って、ジイヤは俺達を寒空の下に残し、ヨーロッパにあるような貴族の大きな屋敷の中に入って行ってしまった。
何てこった……スマホの明かりで一瞬見えた屋敷の中は深夜だからなのか、薄暗く、奥へ行けば行くほど明かりがない。
「ねえ、ヨシキチ何か持ってないの? 私が外でも平気で暮らしていけるような物」
「小さいテントならあるけどな……」
まあ、女神は不死身だ。この寒さにやられたとしても大した事にはならないだろう。
「じゃあ、ヨシキチ、それ貸して」
「何でだよ! 大体、何であの時、お前は逃げたんだ? ティノを連れて来る為か?」
「そ、そうよ!」
とっても白々しい。
「本当は?」
「本当は……って?」
白状しない気だ。
「め、女神を疑ってるの!? 私はもうぞわぞわが限界なの!! しょうがないでしょ!!」
それが理由か。
「ジイヤは俺の名前を知っていた、それは何でだと思う?」
「そ、それは……誰かに教えてもらったのよ」
確かにそうだ。
この契約をする時に俺はノイデフィに登録した情報を派遣先に教えても良いかと聞かれ、同意していた。
きっとティノだってそうだ。でなければ、あの場で『パーティメンバーの方々』とは言えない。
ということは、クレアもノイデフィに登録しているということ。
「お前、今、どこと契約してんの?」
「何、急に?」
「いやだってさ、ニホンイセカイの仕事で俺のパーティメンバーになってるわけじゃないだろ?」
「そうね、今はノイデフィよ。言っておくけど、私、ティノちゃんより先にそこに登録してるんだからね?」
「は?」
詳しく聞こうとした時だ。
バン!! と勢い良く、屋敷の両扉が開かれた。
カツン、カツンと響く音は靴の音。だけど、その子はちっとも大人な女性ではなかった。
「いやあ、ボクは待っていたよ!! ようこそ、我が家へ! キミ!!」
その子は美しいのが当たり前の十四歳くらいになる金髪ボブのボクっ子お嬢様だった。