目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
執事のテレポートで

 血色の悪い細身の六十歳くらいのおじいさんは、ラミア家執事、ジイヤだと名乗り、他人様ひとさまの薄汚いベッドの上で立てなくなった俺をひょいっと床に立たせてくれた。

 結構良い人かもしれない。

 日本人離れした顔から異世界人だと分かるし、日本語が堪能。

 俺は少し勇気を出して訊いた。

「あの、そのロサお嬢様ってのは?」

「ヴァンパイアのお嬢様です」

「ヴァンパイア……」

「それであなたもお分かりでしょう」

 それは今回のノイデフィの派遣先の一つ目。

「迎えに来たと言っていましたが?」

「お嬢様がもう待ちきれないのです。この村から新しい人間の血の匂いがすると」

「大丈夫ですか? それ」

「ええ、日本の派遣社員の方はすでに何人かお嬢様に日本の事を教え、無事に仕事を終えられ、今も元気に普通の日本人として生活しております。お嬢様は日本人の血が好みではございません。ご心配なさらずにテレポートで参りましょう。パーティメンバーの方々もご一緒に」

ビク! という感じで逃げたクレアと眠たそうそうなティノが出て来た。

「行くって、今から?」

「はい、女神様。ノイデフィの営業の内山様にはすでに連絡済みです。新しい契約書にサインをしていただく必要がございますが、仕事が少し早く始まるだけです。悪くはないでしょう」

 確かに、そうだ。その方が金も稼げる。

「じゃあ、お願いします。荷物も一緒に」

「かしこまりました。では……」

 ジイヤはいくつもの魔法陣を出して、ひとまとめになっていない俺達をその魔法陣のどれかに入れる。入ったら着くまでその魔法陣から出られない。たとえ女神でもだ。それから、夜中に起こしてしまい、申し訳ございませんと、ここまで案内してくれた人に言う。その人は真っ暗な中、スマホの光で分かってしまった。昼間俺達に付き合ってくれたあのばあさん。それでは、俺が起きた時に聞こえたあの声はここに二人がやって来た合図だったのか。

 ちょっとした疑問も解決し、ジイヤは魔法使いでもないのに俺達と一緒に現地へとテレポートをした。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?