昼過ぎに着いた二つ目の村。
昔はここから先にもう一つ村があったそうだが、村人が一人も居なくなったことで、この村が最後の村なんて呼ばれているらしい。
「最後の村ってのも何か、あれですね……」
俺はそう言いながら、お前さん達、こんな雪が降りそうな日に来て、泊まる所を探しているのかい? たくさんあるよ。ご覧の通り、この村は空き家が多いからね。何、ざっと十はあるよ。好きな所でお
「ここで本当に良いのかい?」
「ええ、ここは空き家の中でも一番村の出入り口に近くて、ほら、こんな大荷物だと移動が大変で。ここにします! な?」
「はい、ここが良いんです!! おばあさん!! 明日の朝にはこの村を出ますし!! ね、クレアさん!!!」
ティノがはっきりと賛同してくれた。きっとティノだって俺と同じ思いだ。
早くこの村から出たい。
けど、今は動けない。このばあさんから早く離れなければ、食われそうだ!!
そんな感じがしているのだが。
「そうね……、ぞわぞわが気になるけど……」
ギク……もうそろそろ気付いても良いんじゃないか、この女神。
「そうかい……。ご飯はあるのかい? 用意しようか?」
久しぶりの客人! なのか、ばあさんはやたらと俺達に優しくしてくれる。
何か怖い!! これなら、あの馬車のおじさんに現地まで乗せて行ってもらうんだった!!
「だ、大丈夫ですよ。何とかなります。な?」
「は、はい……。その辺の食べれる雑草を見つけて食べますから」
ダメだろーーーー!!! それじゃ、このおばあさんはもっと心配する。
「そうかい、それをワテも出そうと思ってたんだけどね……そうかい……」
そう言って、ばあさんは少ししょんぼりとよぼよぼ歩いてどっかに行ってしまった。
きっと自分の家に帰ったんだ。そう思うことにしよう。じゃないと、ここ怖い!!
「おい、本当に雑草食うつもりか?」
「いや、食べません!!」
「じゃあ、何を食べるんだ?」
「それは……」
ちらっとティノは困って、クレアを見た。
「ティノちゃん、ヨシキチ! 安心なさい! 私は温泉の女神です!!」
うわ~、何か嫌な予感がして来た。
ぽん! とその空き家の広い場所に出されたのは……。
「これは!! みかん風呂!!!」
「そうよ! みかんが食べられるの!! どう、すごいでしょ!!」
「便利な女神だ」
「な、何か言ったかしら? ヨシキチ」
「いえ、何も言ってません!! で、これは本当に食べて平気なのか? 腐ってたり、何か変になったりしないか?」
「失礼ね~!! これはこの私が出した物!! 私もあんたと同じ物を食べようとしてるのよ! どれを食べても良いようになってるわよ!!」
「じゃあ、試しにこれとそれ、食べてみろよ」
俺はランダムにここから近いのと遠いのを示して女神に食べさせた。
「あの、こういうのは女神直々にやるもんじゃないと思うんだけど」
食べ終わってから気付いた女神の言葉を信じ、俺とティノはその風呂に浮かぶみかんをたらふく食べ、さっさと寝る事にした。
何かの声が聞こえる。
ばあさんの声……。目を開けても真っ暗だった。まだ夜か……。この村では明かりを何もつけないで寝るらしい。
「ねえ、ヨシキチ!」
「うわ!! 何で居るんだよ!!」
俺は慌てて手近に置いてあったスマホを開き、懐中電灯としてその顔が見えるようにした。
確か寝る前に部屋割りを決めたはずだ。ちょうど三つあって良いじゃない! でも、ドアの鍵は全て壊れてますよ……、入ったらダメだから!! そんな事を言った張本人がどうしてここに居る!!
「よしきち~……」
何か涙声だ。
「どうしたんだ? 何があった?」
「本当はティノちゃんを頼りたかったんだけど、起きてくれなくて……」
「そんな理由は良い。早く言え」
「あのね、何か、ぞわぞわしてるの……。さっきからものすっごく! ぞわぞわしてるの」
「それは、きっと近付いているんだよ」
「え、何に?」
アンデッドに……と言って良いだろうか、この女神に。
『こちらですか?』
急に知らない紳士的なおじいさんの声が聞こえた。
「おっ、お前! からじゃないよな……」
「当たり前でしょ!」
「じゃあ、誰の声だよ」
『おりませんね……』
探している……、何を。
「お前、女神だろ!? 見て来いよ」
「どうしてよ! 危険かもしれないじゃない!!」
「お前不死身じゃん」
「あー、なるほど! って言って行くバカはいないわ!」
チ! 上手く行かなかった。
「では、こちらから参りましょう。あなたがエトウヨシキチ様ですか?」
うぎゃー!!!!!!!!!! クレアが一目散に逃げる。これはかなり不味い状況じゃないだろうか。俺は足が動かなくなっていた。
「あの、見えているんですが!! 見えているんですが!! あなたはあの! 生きてます?!」
「生きておりますよ。エトウヨシキチ様、お迎えに上がりました。ロサお嬢様がお待ちでございます」
そのおじいさんはその声に似合う感じの黒い執事姿で微笑んでおられたがとても青白い顔をされていた。