廊下に顔を出すとティノがもじもじとしていた。
「どうした?」
「あの、あの抜け道!!」
「抜け道? ティノがこの村に来る前に通ってしまった道か?」
「それ、今、聞いたんですが、ここら辺に住んでらっしゃる貴族様専用の道だとかで」
「大変な事なのか? それは。通っちゃいけなかったとか?」
「いいえ、バレなきゃ大丈夫です」
「そっか、じゃあ、また夕飯にな」
そう言って、俺はドアを閉めようとした。
「そ、それで!」
まだあるのか!!
「それで何だ?」
「クレアさんが、この後の事でちょっと」
「何だよ……」
俺は絶対に入るな!! と言われていたクレアとティノの部屋に入ることになった。
入ってすぐにクレアは言った。
「私、これからの交通手段は全部馬車で行きたいの!!!」
何だ、そんな事か……。
「って、ダメだぞ! さっきも言ったけどな、贅沢は禁物だ!! どんだけすると思ってんだ?」
「だって、今はそんなでもないけど、何かこの後の展開としてぞわぞわ感が増しそうな気がするんだもの……」
ギク!! こいつ、でもまだ行ける!!
俺はこの女神のぞわぞわ感をなくしたくはなかった。地図のない不安をこの女神の『ぞわぞわ感』で補っていたからだ。
「そ、そんなにそれで行きたいって言うなら、あれだ。ヒッチハイクしろ」
「ヒッチハイクって、自動車じゃなく、馬車なんですけど!!」
「でも、この世界での車はそれだろ!! 良いんだよ、停まらなきゃ歩きってだけで」
「ふーんだ!! 私は女神よ!! 絶対停まるわ!! そしたら、ヨシキチ、あんたはどこに乗ることになるのかしら!!」
大口をたたきやがって!! と思ったのだが。
翌朝、昨日の夕飯は村一番のお店で食べて正解でしたね! 朝食はまあまあでした……という話をしながら最初の村を出て、また歩く。
昨日と同じ天気だからか、まだ誰も居ない。
馬車はこのまま通らないんじゃないか? そんな事を思っていたら、何かの音が後ろから聞こえて来た。
「馬車よ!!」
そう言って、女神はやって来た中型馬車の前にバッと両手両足を広げて立った。
「停まって!!!」
「危ないだろうがッッ!!!! って、女神様?」
そういえば、前の仕事の時に王都の少年が言っていたな……神様ってのは、奇抜な服装で、神様独特の余裕を持ち、神殿にあるシャシンとそっくりだからだと……。
じゃあ、この馬車のおじさんもその神殿に行き、シャシンを見たか、この神独特の行為で分かってしまったということか。
「乗せなさい、私達を」
すっげー
「三人ですか……」
「ダメだと言うのなら、行きなさい。違う馬車に頼むから」
「いえ! 大丈夫です! だけど、座る所が二人分しかありませんので」
「良いわよ。私とティノちゃんがその席に座って、ヨシキチはその助手席に乗せてもらいなさい」
「え?!」
おじさんの隣……。
何か文句あるの? という風に女神達が見て来る。
「わ、分かったよ。早く行かなきゃだし。こんな所で時間潰せないしな」
俺は素直にそれを受け入れた。だって、他の人も乗っているのだ。
「どこまででしょうか?」
「次の村までよ」
女神という立場を利用して、俺達はそのまま乗り続け、丁重に送り届けられた。
「ほう、やっと着いた」
「何? 私のおかげで少しは早く着いたんだからね!」
「感謝はしない。もう、やっぱり歩く!! ずっとこっち見てたんだからな! あのおじさん! 結局、チップ渡すみたいになったし、それからそろそろ俺のスーツの上着返せ!!」
「分かったわよ! ほら!!」
無事、スーツの上着を取り返せた。
そして、俺達は現実を見る。
これはまた、閑散とした村だ。