またしてもここはどこだ。
雪が降りそうな空だ。
のどかな自然が広がる風景。
日本からのテレポートで着く予定だった場所は確か、仕事場所となる所から二つ離れた村だったはず。ここはその村に続く道だろうか。
「おい」
「ふええっくしゅ!」
やると思った。半纏を着てもガクガクしている浴衣姿の温泉の女神、クレア。
「ざ、ざむい……」
「そりゃそうだ、冬なんだからこっちは」
俺はそう言って持って来た荷物の中からマフラーと手袋、冬用のコートを出し、私服の上からそれらを着る。
「あったかー」
じーっと、目の前の女神がこちらを見ている。
「何だよ、クレアの大荷物の中にはこういうのないのか?」
「ないわよ! 王都だったら買えたのに、村だったらどこかの誰かに借りたのに……」
「お前な……」
本当に寒そうだ。
こんな時に頼りになりそうなティノはここがどこか確認して来ます! と言ってどこかに行ってしまったままだし。
はあ……。
「スーツの上着だったらあるけどな、着るか? あ、それとも温泉に?」
「バカなの!? ヨシキチ、こんな寒い中で温泉なんて入ったら……」
くしゃみが出そうで出なかったらしい。
「ヨシキチ……」
「何だ?」
「ないよりは良い……貸して、スーツの上着」
「ほら」
投げて渡してやったのは良いが……それを本当に着るだろうか。
「ねえ、ヨシキチは何でスーツを持ってるの?」
「今度の仕事はスーツでって言われたんだよ。まあ、向こうが私服でも良いって言ったら、私服でやるけどな」
「ふーん……」
何か匂い確認を始めた。着ないか、やっぱり。
「嫌なら着るな。返せ」
「着るわよ!」
怒りながら羽織った。
「ねえ、カイロとか持ってないの?」
「持ってねーよ、そんくらい持って来いよ! 自分で!」
「だって、こんな寒いとは」
そう言って女神が俺の方に近寄って来た。
「何だよ?」
「あっためて」
「は?」
本気の顔で言ってやがる! こいつ。
「もしくはそのマフラーも貸してちょうだい。あと手袋も」
「俺が『はい、喜んで!』と言って、差し出すとでも?」
「思うわ! だって、私はパーティメンバーだもの!!」
何、こいつ。
「貸さん!!」
「何でよ!! 貸ぁしてよ! ちょっとの間よ!!」
絶対、貸さん!! 俺が寒くなるから! とかそういう理由じゃない。
何か腹立たしくなって来た。
「女神は凍え
「う、でも風邪は引くし……」
「死なないんだから良いんだよ!」
「う、でも、足元超寒いんですけど!」
「サンダルとか……バカですか?」
「うッ! ひどい!! ヨシキチのケチ!!!」
どうするんだろう……と思っているとクレアは空に向かって言い出した。
「太陽の神よ! 私の為に太陽を、陽の光を!!」
こいつ、ヤバイ。
「そんなんで本当に出て来るのか?」
「出て来ますぅ! 太陽の神は私の友達なんだから!」
「へー、全然出て来ないけど?」
「う……。どっかに行っちゃったのかな……、ねえ、どう思う?」
「聞かれても困る」
「う、うう……」
泣き始めてしまった。そのお友達の太陽の神が出て来そうな感じはしない。
「にしても、本当寒い。何かさらに寒くなってない?」
返事をしなくなった。
「クレア」
無言の体育座りをその場で始めてしまった。
「クレアさん?」
「女神をいじめた……江東良吉、許すまじ……」
ぶつぶつと物騒な事を言い始めた。
「あ、ああ、あっついな~。これは暑い! マフラーとかいりません?!」
「う……、う、早くちょうだい」
そう言ってちらっと俺を見て、涙を我慢していた。
「……分かったよ、貸せば良いんだろ?」
「さっさとしてくれれば、もっと……」
もっと何だ? ちょっと早まった? そう思いながらマフラーを渡すとクレアはパッと明るくなって。
「ヨシキチの温もりなんて、小さいってこと分かったわ!」
何かイラッとして来る。
だけど、女神は俺のマフラーを首に巻く。
「さあ、ティノちゃんはどこかしら?」
何かキョロキョロし始めた。
「女神の力で探してくれ」
俺はもう諦めることにした。これ以上、小さい人間にはなりたくないし。早く村に行って泊めてくれる所を探したい。
「うーん、居ないわねぇ……ティノちゃーん!!」
大きく言ったって、返事なんてしねーよ……なんて思っていたのだが。
「はーい!」
と、ティノが行った方向とは反対の方からティノの声が聞こえる!!
「あっちよ!」
女神が指した方向に歩いて行くと、ティノが居た。
「何してんだ? お前」
「いや~、道を曲がったらここに出てしまって、抜け道だったみたいです」
かなりの時間ロスだ。
俺達は最初に着くはずの村を一から探すことにした。