電話はとても事務的に終わってしまった。
「はあ……」
さっきとは違う溜め息。そして、またスマホの電話音。
「出なさいよ」
ずっと向かいでクレアはそれを聞いている。
仕方ない、出るか……。
「はい、江東です」
少し沈んだ声で出てしまった。
「ノイデフィの
げ! 棧さんだと思ってた! 何か言い残しがあるのかと思って出たのだが、違った!
ノイデフィって確か、こっちの世界でティノの紹介で入った派遣会社か……。
「現在のお仕事の状況確認の為にお電話させていただいたのですが」
二十代後半くらいのお姉さんの声、何というバッドタイミング!
「えっと……今、派遣切りに遭いまして、仕事してないです」
「では、現在は求職中ということでよろしいでしょうか?」
「はい、良い仕事があったら紹介していただきたいと思っております」
「そうですね……、すぐにご案内出来るお仕事としましては、お待ちください」
あるわけない、こんなすぐに……。
俺はすぐにでもこの電話を切って、家に帰りたくなった。待ってる時間が惜しい。この時間があったら違う派遣会社に登録でも行って、新しい仕事にありついた方が良い。
「お待たせいたしました。一件ございまして、日本の事を異世界の方に教えてあげるという異世界の仕事がございます」
「そ、それ! それやります!! 詳細! 詳細を教えてください!!」
俺は天にもすがる思いで恵さんの話を聞き出した。
「ねえ、ヨシキチ」
「何だよ?」
電話を終えた俺に、今まで近くで聞いてたクレアが言って来た。
「いつも二時間かけて歩いてて大変ね」
何故このタイミングでそんな事を言い出す。最後に良い事でもしてくれるのだろうか。
「今日の帰りだけテレポート使ってあげる」
「え? 良いの!?」
「今日だけだからね! 何ていうか、ヨシキチ、かわいそうで」
不憫に思われてしまったようだ。そんな内容だったろうか。そりゃ、派遣切りの電話は辛かった。でも、その後の電話は……。
「ああ、俺の心はもう何ていうか……悲しいよ……」
「そうでしょうね、それが派遣切りの切なさよ。でも、ヨシキチ、今の電話で新しい仕事決まったでしょ? だからそんなに悲しくなさそう。もうその仕事の方を考えてるでしょ?」
ギク……。
「まあ、仕方ないだろ。そういうもんだと割り切って行かないとな。これでも俺、解雇経験あるし、それと同じだ」
「そうね、まあ、次の仕事も頑張りなさいよ」
「お前もな」
これでこの女神ともおさらばか……ちょっとしんみりしてしまった。
戻って来たリリーさんに事情を話し、俺達はクレアのテレポートでそのまま帰り、留守番していたティノにも事情を話した。
「ということで、派遣切り決定しましたので、速やかに今週中にはこの家から出て行かないくてはなりません!!」
「えええーーーーー!!!!」
そうだよ、これが普通の反応だよ。俺はティノを満足そうに見てから、自分のスマホを
「お前はティノみたいに焦らないのか?」
「だって、次の仕事決まったもん」
「何ですと!!!?」
俺のリアクション、続いてティノもそんなリアクションを取るのかと思ったら、ティノも自分のスマホを見出してしまった。
「あ、あたしも次の仕事決まりました」
何故だ? 何故、こんなぽんぽんと決まって行く。
「お前ら、次、何の仕事すんの?」
「ん? 今と同じ仕事」
「じゃ、じゃあ、パーティメンバーになるってことか?」
「そうね、また異世界にやって来る人を守る仕事よ」
「そうか……、じゃあ、これで本当にお別れだな」
「そうね……」
クレアが物思いにこの部屋を見出した。そうするとまだ何もしてない俺でも何というか……思う所がある。
「では、片付けに入りましょう」
そう言って、ティノがてきぱきと動き始めた。
それを見てクレアもやり出す。
俺もやらなきゃな……。
長期だと思っていたのにいきなり対象モンスターが来なくなって。やっぱり、向こうの発送時点でもうそれは起きていたという。何と一緒にしてはいけないモンスターを一緒にしてしまい、繁殖してしまったらしい。そのせいで運び屋さんには多大なる迷惑をかけているそうだ。そんなトラブルのせいで俺の初めての派遣の仕事は終わってしまったけれど、次の派遣の仕事が決まった。またしてもパーティメンバー付きの長期の異世界の仕事だが、ノイデフィの仕事だし。俺は心ウキウキではないにしろ、荷造りをしたり、ノイデフィに行って書類を書いたりし、一度日本に戻ることとなった。次にこの異世界に来るのは二か月後、その間にいろいろ準備しとかなければならない。何故なら、次の仕事は現地まで行くのに野宿があったりするかもしれないちょっと大変な仕事だからだ。