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モノマネスライムの飼い主

 家に帰るとリリーさんが俺に飛び付いて来た。

「うわ!」

「良かったですぅ! 心配してたんですよ!!」

 ドサ、ドサッとその拍子でコンビニで買い物して来た袋が二つ俺の手から落ちた。

 何故こんな事になってるんだ。

「あの、リリーさん? 俺、そんな心配する事なんてないですよ?」

「でもでも! 良かったですぅ!」

 体をぎゅっとされる。ちょ、何これ? 何があったの?! リリーさんに何があったの?!

 俺は一緒に帰って来たティノとクレアを目だけで見る。

 二人はさあ? という感じでこの抱き付いて来ている人を見る。

「お、お姉ちゃん? もう良いでしょ! 離れてあげなよ」

 あ、別にそれは良い。それは言わなくて良いことなんだ。ティノ、気付け。

「そ、そうですね! すみません、わたし、あれから校長にきつく怒られてしまって」

「何故?」

「あの……、とっても言いにくい事なんですが……」

「はあ?」

「その、待たせてもらっている間に玄関から……」

「何よ?」

 チラッとリビングの方を見るリリーさん。

「そこに何が居るの?」

「えっと……たぶん、ヨシキチさんに関係があるヒトかと……」

 何だか釈然としない言い方だ。

 俺はそれを見ようとした。

「ダメよ!!」

 女神が突然、声を荒げた。

「何だよ!?」

「そこに居るのは人じゃない。あんた、怪しいもん居れたわね?」

「え、そんな!! 対象モンスターだと、思ってしまったんですが……やっぱり、違いましたか……」

「いつ来たのよ!!」

「今さっきよ」

 何だか、大人の女性のような声がリビングの方から聞こえて来た。

 リビングからその人が歩いてこちらにやって来る音と同時に。

「ク!」

 突然、強い力を腹に感じた。

 何だ? これは……。

 倒れる程ではないにしても。

「どうしたんですか?! 江東さん!?」

 今度は腕に!

 何だ? この苦痛は。

「大丈夫ですか? 江東さん?!」

 ティノの声が聞こえても、これはほどけない。それに一緒になって心配してくれるはずのリリーさんの声が聞こえない。

「何がどうなってる……ッ?!」

 自分の状態を確認した。何か濃い半透明の紫色のホースのような物がジャージの上からきつく腹と両腕を締めていた。さらにそれは力を込め、俺を逃がさない為なのかきつく締めて来る。

「クッ!!」

「そうそう、ギュウッとね」

 そう言う彼女を見る前に、ティノは何してる!! と後ろに居るティノを見る。

 何やら魔法陣を出して、魔法使いらしいことをしてくれるようだ。

 俺はその時を待とう。

「江東さん!! あたしの為にレベル上げの協力を!!」

「え、ちょ、待って!! ティノちゃん!!!」

 俺の制止は間に合わなかった。

「聖なる力は我が力! ジョイライトクリーン!!」

「あ~!!!!」

 って、何も痛くない。いや、俺は……と言った方が良いのか。

 あんなに締めていた物が全てなくなっていた。

「やったぁ!! またレベルが上がりました!! モノマネスライムやっつけましたよ~!」

 喜んでいるティノに対し、クレアは全然笑ってない。

 目の前に居る妖艶なお姉さんをじっと睨んだままだ。この顔どこかで……。それにやはり、リリーさんが居ない。

 説明してくれそうなティノを見る。

「モノマネポルーション蛇スライムですよ、あんまりお目にかかれるものではありません。略すと『モノマネスライム』になるんです!」

 モノマネ? 汚染された蛇スライム? ……そんなのに俺捕まってたの?

「このモンスターが江東さんの体を締め、完璧にお姉ちゃんに化けていたんです!」

「は? じゃあ、俺をぎゅっとしてくれたのは、消えてしまったそのモノマネポルーション蛇スライムなのか?」

「はい、そうです! でも、倒したって言ってくれませんか? そして、一瞬で元の姿に戻させて、そうさせたモノマネスライムの飼い主である、この女の正体はサキュバスです!」

「ハ? サキュバス?! 橋の上のお姉さんだろ?」

「は? 何言ってんのよ? サキュバスじゃない!」

 クレアが怖く言って来た。何を怒ってるんだ、この女神は。

「アンタ、どっから入って来たのよ!」

「普通に玄関から。リビングでぐっすり眠ってくれてる彼女が入れてくれたわ」

「お姉ちゃん!!」

 ティノはリビングに向けて声を掛けたが何の反応もない。

「大丈夫よ、ただ寝てるだけ。怖い顔しないでよ、二人して」

 サキュバスのお姉さんが俺を見た。

 ゴクッとなる。

「短髪のお兄さん、久しぶり」

 やっぱり、その声は橋の上のお姉さんのもので、顔はそのままだ。

 でも、サキュバスって夢の中とか……じゃないのか。

「ねえ、ちょっと、ヨシキチ、お知り合いなの?」

「え? あ、まあ、夕方にちょっと」

「ヨシキチ~ぃ!! っていうことは、ティノちゃんが近くに居たはずよ! そうでしょ!」

「あ、いや、ちょっと買い物に……」

 ティノは言う事がなくなってしまったらしい。

 口をもごもごさせて意気消沈して行った。

「もう、良いかしら?」

 サキュバスのお姉さんは俺を見ながら言う。

「そうね、こちらとしてはこの男の人にだけ話したいところだけど、聞きたそうにしてるから教えてあげる。彼との出会いは今日じゃない」

「は?」

 俺は小さな驚きと共にサキュバスのお姉さんから真実を聞かされることになってしまった。

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